デジタル大辞泉
「小児喘息」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
しょうに‐ぜんそくセウニ‥【小児喘息】
- 〘 名詞 〙 小児の喘息性気管支炎と気管支喘息を合併した状態の俗称。主な症状として鼻水やせきが出たり、喘鳴(ぜんめい)を伴う。
- [初出の実例]「小児喘息で寝ている時」(出典:面影(1969)〈芝木好子〉三)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
しょうにぜんそく【小児ぜんそく Childhood Asthma】
◎気管支の慢性炎症がおこす
[どんな病気か]
[症状]
[原因]
[検査と診断]
◎ステロイド薬の吸入が効果的
[治療]
[予防]
[どんな病気か]
ぜんそくとは「慢性の炎症性気道疾患(きどうしっかん)」ということになっています。慢性の炎症があると、図「ぜんそくをおこしている気管支」のように気道、とくに気管支の内側にある粘膜が腫(は)れて粘液を多く分泌し、さらに気管支のまわりにある筋肉が縮んで気管支をしめつけるようになります。こうなると、気道が狭くなり、空気が通りにくくなるために喘鳴(ぜんめい)(ゼイゼイ、ヒューヒューという息の音)、息切れ、胸の圧迫感、せきの発作がおこります。発作は、早朝とか夜間にとくに強くなります。
再び気道が狭くなるのは一時的に治りますが、気管支が過敏になっているため、少しの刺激でも再び狭くなり、発作がおこります。
ぜんそくは世界中で増加している病気で、日本では、1986年に、ぜんそくにかかっている学童の割合は0.88%でしたが、1998年には2.3%と、2.6倍に増えています。
ぜんそくを発病する子どものうち、1歳までに発病するのは、その約30%ですが、4~5歳までに広げると80~90%になります。発病した子どもの50%は、10~20歳までに症状が消えますが、おとなになると再び現われることがあります。また、重症のぜんそくの子どもほど、おとなになっても治らない割合が増えます。
[症状]
軽い場合は、せき、息をするときのゼイゼイ音(喘鳴)、息が多少速くなる(生後2か月までは1分間に60回以上、1歳まで50回以上、5歳まで40回以上、以後は30回以上)のが、おもな症状です。
中等度になると、息がさらに速くなります。すわっている(坐位(ざい))ほうを好み、話をすると呼吸が困難なために、興奮してきます。乳児では泣き声が短くなり、授乳がむずかしくなります。
さらに病気が悪化すると、安静にしていても呼吸が困難になり、前かがみになり、ひとりではトイレや洗面に行けなくなります。顔色が青白くなるチアノーゼがみられます。乳児では、授乳ができなくなります。
ぜんそくの呼吸困難は、吸うときは比較的楽で、はくときが苦しいという特徴があるため、息を吸う時間より、はく時間のほうが長くなります。
[原因]
まだよくわかっていませんが、両親のどちらかがぜんそくの場合、その子どもの4人に1人が、両親ともにぜんそくの場合はその子どもの半数が、ぜんそくになるというデータがあります。遺伝子に規定されているという証拠も出てきていますし、遺伝的な素質が関係しています。
しかし、ぜんそくになる子どもの割合が増加していることは、遺伝的なものだけではなく、環境の悪化も関係していることを示しています。また、10歳までは、女児のほうが男児よりも患者数が多いという傾向もあります。
大気汚染、とくに窒素酸化物(ちっそさんかぶつ)(NOx)や二酸化硫黄(にさんかいおう)などが、ぜんそくに関係しているのではないかと考えられています。また、住宅の変化によって、ダニやカビが繁殖しやすくなったこともあります。そのほか、食生活の変化など、総合的な環境の悪化が、患者数を増やしていると考えられています。
ぜんそくの発病と関係するものとして、アレルゲン(アレルギー反応をひきおこす原因物質)があります。室内のアレルゲンには、ほこり、ダニ、ゴキブリ、ペット(ネコ)などの動物性のもの、カビ類などが、屋外のアレルゲンには花粉やカビなどがあります。ほかに食品添加物や薬などがあります。
子どもの場合、ぜんそくの症状(発作)をおこす引き金としてもっとも多いのはかぜなどのウイルス感染です。かぜの後、ゼイゼイという息が現われたときはぜんそくが疑われます。
そのほか、排気ガス、たばこの煙、花粉やカビなど空気中の刺激物、ダニ、カビやゴキブリ、ペットの毛やフケなどもあります。さらに、卵、大豆(だいず)、牛乳などの食品にアレルギーのある子どももいます。パラベンや亜硫酸化合物(ありゅうさんかごうぶつ)などの食品添加物もアレルゲンになります。アスピリンなどの薬剤で発作をおこしたり、運動や大きな呼吸を何回かすることでおこることもあります。
[検査と診断]
子どものぜんそくの診断はむずかしい場合があります。小さい子では、かぜの後、たんがのどの奥にたまって喘鳴のような音を出す場合が多く、少数ですが気道や肺に形態異常があって喘鳴に似た症状がみられる場合があるからです。
また、ぜんそく様(よう)(性(せい))気管支炎(きかんしえん)(コラム「ぜんそく様気管支炎」)は、ぜんそくの一部という考え方で診断されています。
気管支炎や肺炎でもそうですが、発作がごく軽い場合、聴診しても異常な呼吸音は聞こえにくく、大きな息をしたときに初めて聞ける場合があります。小さな子どもは聴診時に大きな息をしてくれない場合が多く、風車(かざぐるま)を吹かせるなどの工夫をしています。5~6分間走らせた後に診察すると、運動で誘発されるぜんそくも診断できます。
5歳を過ぎると、ピークフローメーター(「ぜんそくはもうこわくない―ぜんそくの正しい管理と治療」のぜんそくの自己管理について)などで肺のはたらきを調べることができるようになり、より正確な診断が可能となります。
[治療]
治療は、発作がおこったときの対処と、発作がおこらないようにする予防的治療の2つです。
発作の治療には、水分補給や酸素吸入など呼吸困難に対する一般的な治療と、発作に対する薬物治療とがあります。家庭では水分を十分にとらせます。
薬は、まず気管支を広げるβ2刺激薬を使います。吸入するのがもっともよいのですが、吸入できない場合は飲み薬もあります。ほかに、テオフィリンというカフェインに似た薬(飲み薬と注射があり、血中の濃度をはかりながら使用)や、乳児のかぜが引き金でおこる発作によく効く抗コリン薬を吸入したりします。重症の場合は、炎症をしずめる効果が大きい副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)を短期に内服するか、注射する場合もあります。
家庭で、薬の吸入や内服をしても症状がよくならないときは、むりをせずに受診することが必要です。とくに思春期の子どもは親に症状を言わず、自分でなんとかしようとして、重症化したり、死亡する場合もあります。
[予防]
ぜんそくの発作の予防法が、たいへん進歩し、ほとんどの患者さんが発作を最小限に抑え、日常生活を送れるようになりました。その方法の中心は炎症を抑えることです。それらの方法はおとなのぜんそく(「ぜんそく(気管支ぜんそく)」)を参照していただき、ここでは子どもの問題について述べます。
炎症を抑えるにはステロイドの吸入がもっとも効果的です。子どもの場合、副作用として、成長が障害されるという問題がありますが、1日に200μg(マイクログラム)(1μgは100万分の1g)程度の低用量ならば何年か連続使用してもほとんど問題はありません。また、用量が多くても、漫然と長期に使うのでなければ、発作で日常生活にさまざまの制約を受けたり、胸郭(きょうかく)の変形、家族関係の悪化、入院などによる支障に比べれば、その副作用は小さいといえるでしょう。
ステロイドよりも効果は弱いのですが、副作用がほとんどないクロモグリク酸ナトリウム(商品名インタール)という吸入剤もあり、軽症や中等症の子どもには、まず使ってみる薬です。
この2つだけが、世界的に広く効果が認められている炎症を抑える薬です。抗アレルギー薬の飲み薬もありますが、その効果と副作用をはかりにかけると、まだ長期に使うのは勧められないというのが国際的な意見です。
5歳以下の子どもの場合は吸入がうまくできないことと、肺機能をピークフローメーターでうまくはかれないことが問題になります。吸入は、病院で使用しているネブライザー方式の吸入器を買って使えます。ただし、インタールやβ2刺激薬は使えますが、ステロイドは日本ではまだ使えません。
もう1つは、吸入補助器を使用する方法です。これはマスクと筒とでできており、筒の中に薬を噴霧して鼻と口をマスクでふさぐと、噴霧された薬が気管支に入っていくようになっています。これだとインタールもステロイドも吸入でき、副作用も減らせます。
効果は落ちますが、ビニール袋や紙コップを使っても同様にできます。5歳以上になれば、おとなと同じ構造の吸入補助器で効率よく吸入できます。運動で発作が出る子どもは運動前にインタールや気管支拡張薬の吸入をして、発作を予防します。
そのほかの予防としては、できるだけダニなどのアレルゲンを吸いこまないようにすることです。ダニに対する対策としては、じゅうたんをやめビニールか木の床にする、ふとん、カーテン、ぬいぐるみなどは定期的に乾燥するか55℃以上に加熱し、ポリエチレンシートで包んでおくなどがあります。
食物アレルゲンは、検査と食べたときの症状で予測します。家族の禁煙やアレルギーをおこすペットを飼わないことも必要です。
たいせつなことは、ぜんそくについての基本的な知識をもち、医師と親がよく連絡をとりあい、子どもがふつうと変わらない生活をおくれるように工夫していくことです。
出典 小学館家庭医学館について 情報
しょうにぜんそく【小児ぜんそく】
《どんな病気か?》
〈炎症で気道が狭まり呼吸障害が起こる〉
ぜんそくは、気道(きどう)の慢性的な炎症によって起こる病気です。
慢性の炎症があると、気道、とくに気管支(きかんし)の粘膜(ねんまく)が腫(は)れて粘液(ねんえき)を多く分泌(ぶんぴつ)するようになり、また、気管支のまわりの筋肉が縮んで気道をしめつけるようになります。このため、空気が通りにくくなり、呼吸をするとゼイゼイ、ヒューヒューという音(喘鳴(ぜんめい))がしたり、息切れや、せきの発作(ほっさ)などが起こります。
ぜんそくにかかる子どもは4~5歳までに発病するケースがほとんどで、その半数は成長にともない症状が消えますが、大人になるとふたたび症状が現れることもあります。また、重症のぜんそくの子どもほど、大人になっても治らない割合がふえます。
ぜんそくの発病には、遺伝的な素因のほかに、大気汚染物質やタバコの煙など、環境的な要因も関与しています。
またアレルギー体質の子どもの場合、アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす原因物質)が関係してぜんそくを引き起こすことがあります。
アレルゲンは人によって異なりますが、ホコリやペットの毛、花粉、ダニやカビなどがあり、食物アレルギーの場合では、たまご、ダイズ、牛乳などがあげられます(「食物アレルギー」参照)。
しかし、小児ぜんそくでもっとも多くみられるのが、かぜなどのウイルス感染が発病の引き金になるケースです。
かぜをひいたあとに、喘鳴などの症状が現れたときは、とくに注意が必要です。
《関連する食品》
〈気道の炎症を改善するDHAとIPA〉
○栄養成分としての働きから
ぜんそくは炎症の状態がひどいほど、気管支が刺激に反応しやすく、発作もひどくなります。魚類の脂肪に含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)やIPA(イコサペンタエン酸)にはこの炎症を鎮める働きがあり、それによって発作を抑える効果が期待できます。
とくにIPAは、難治性のぜんそくにたいへん効果があったという報告もあります。
それにDHAには、免疫機構のバランスを調節してアレルギー体質を改善する働きもあるので、アレルゲンによってぜんそくの発作を起こす子どもにも適しています。
ただし、魚がアレルゲンとなっている場合、当然ながら避けなければなりません。
その場合は、サプリメントでDHAやIPAを補うという方法もあります。
〈ぜんそく発作を緩和させるビタミンB6とビタミンC〉
ぜんそくの子どもは血液中のビタミンB6やビタミンCが不足している傾向にあり、これらの成分を積極的に摂取することで、ぜんそく発作などの症状が緩和されるという報告があるようです。
その理由はまだよくはわかっていません。しかし、ビタミンCについては、体内でつくられるヒスタミンの量を減らす効果があると考えられています。
ヒスタミンがアレルギー反応によって、体内にある肥満細胞(ヒスタミンなどさまざまな化学物質を抱えた細胞)から分泌されると、さまざまなアレルギー症状を引き起こすもとになります。
ビタミンCには、このヒスタミンの生成を抑える働きがあって、それにより、ぜんそくの症状を緩和させると考えられます。
ビタミンCはレンコン、コマツナ、カリフラワー、芽キャベツなどに多く含まれています。
一方、ビタミンB6は、豚もも肉やレバー、サツマイモ、バナナに多く含まれています。
○漢方的な働きから
漢方では、フキが小児ぜんそくの妙薬として知られています。しょうゆで薄味に煮るなどして食べるといいでしょう。
またレンコンのしぼり汁や、ユリ根、シソ(葉や実)のスープを就寝前に飲むと、発作が楽になるといわれています。
〈気道を刺激する香辛料や甘みの強い菓子類はひかえる〉
○注意すべきこと
反対に、避けなければいけないのは、ぜんそく発作を誘発する食品です。
サバ、アジ、イワシ、カニ、エビ、それにホタテガイやタイラガイ、タラコなどの魚卵類は、ぜんそく発作を起こす確率が非常に高く、よくありません。
とくに鮮度の落ちた魚介類には注意が必要です。
タケノコ、ヤマノイモなども避けたほうがよいでしょう。
くだもの類では、キウイやグァバ、それにグレープフルーツなどの柑橘類(かんきつるい)に注意してください。これらにはビタミンCが豊富に含まれていますが、酵素の関係でぜんそくを起こしやすくなります。
また、甘みの強い菓子類、チョコレートやココア、気道を刺激するコショウなどの香辛料もひかえるようにしてください。
植物油に多く含まれているリノール酸は、コレステロール値を下げる効果が注目されていますが、これもとりすぎるとアレルギー症状を悪化させます。
もちろん、アレルゲンが原因でぜんそくの症状があるときは、まずそのアレルゲンとなる食品を明らかにして、その食品を除去することが基本になります。
ぜんそく発作が起こりやすいときは、食べるのもつらいものです。消化吸収力も落ちているので、できるだけのどを通りやすい、消化のよいものを食べさせるよう心がけてください。
出典 小学館食の医学館について 情報
小児喘息 (しょうにぜんそく)
infantile asthma
一般には小児気管支喘息のことをさし,〈笛声喘鳴〉(ヒューヒュー,ゼロゼロという息づかい)を伴う呼吸困難を発作性に繰り返す病気である。1歳未満では非常に少ないが,1歳をすぎると急激に増加し,3歳までに約2/3が発症し,大部分(約9割)が学齢期までに発症する。小児喘息は治りやすい病気といわれ,8~15歳,すなわち思春期前後までに約半数が治癒する。難治化して成人喘息へ移行するのは約1割とみられている。この病気は日本では1955年ころから増加の傾向にあるが,その理由として,乳幼児期の人工栄養,早期離乳,化粧品などの異物との接触,大気汚染などが考えられている。
小児喘息の特徴はほとんどが純粋なアレルギーによるもので,アレルギーその他が複雑にからみあう成人喘息と多少異なる。したがって,他のアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎,蕁麻疹(じんましん),アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎,胃腸管アレルギー)がつぎつぎと出現したり(アレルギーの進展),また家族内にもアレルギー性疾患を有しているものが多い(3親等以内では約7割)。小児喘息を起こすアレルゲン(原因抗原)としては,乳児期では牛乳,離乳期では卵,オレンジ,幼児期ではチョコレート,そば,ピーナッツなど食事性抗原が多いことが特徴的であるが,年長になるにつれ,成人に多くみられる吸入抗原が増えていく。
定型的な喘息発作(発作性呼吸困難)はなんの前ぶれもなく突然やってくるものではなく,大多数のものでは前述の他のアレルギー性疾患がみられたり,風邪をひきやすかったり,以前に喘息性気管支炎などと診断されている場合が多い。喘息発作に際し,小児の場合,とくに注意しなければならないのは,意識状態がつかみにくいため重症化しやすいこと,また呼吸困難を起こす他の疾患(たとえば異物の誤嚥や急性細気管支炎など)との鑑別がむずかしいことである。治療は一般の気管支喘息と同様であるが,神経質な子どもが比較的多いので,家族の温かい心づかいがたいせつである。
→喘息
執筆者:伊藤 新作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
小児喘息【しょうにぜんそく】
成人と同様に呼吸困難を主症状とする気管支喘息もあるが,単なる風邪の際に喘鳴(ゼイゼイいう音)を発したり,病気がないのに季節の変り目などに呼吸に喘鳴を伴う喘息様気管支炎も含まれる。気管支喘息はアレルギー性疾患であり,発作時にエフェドリン,抗ヒスタミン薬等を与える。喘息様気管支炎は,たびたび反復する場合は気管支喘息に移行する例もみられるが,多くは成長とともに気管支が太くなると軽快する。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内の小児喘息の言及
【気管支喘息】より
…気管支喘息とは,発作性の呼吸困難と喘鳴(呼吸時のヒューヒュー,ゼーゼーという音)を特徴とする呼吸器疾患である。
[歴史]
asthma(喘息)の語はギリシア語に由来し,〈あえぎ呼吸〉の意味である。喘息についての記載は,すでにヒッポクラテスによってなされており,その中で〈asthmaになったら怒りをしずめよ〉と心理的要因の重要性を説いている。今日,日本語として使われている〈喘息〉という文字は,中国最古の医書《素問》や《霊枢》(《[黄帝内経]》)にみることができる。…
※「小児喘息」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」