邦楽曲の曲名。小春は大坂曾根崎新地,紀伊国屋の遊女。1720年(享保5)10月14日天満お前町の紙屋治兵衛と,網島大長寺のほとりで情死した。これを脚色した人形浄瑠璃が,近松門左衛門作の《心中天の網島》で,その女主人公の名としても,実名のまま用いられている。上述の浄瑠璃に基づいたり,これに類して作られた他の浄瑠璃の曲名の略称として《小春》は用いられる。(1)宮薗節の《小春治兵衛炬燵(こたつ)の段》。《宮薗鸚鵡石(みやぞのおうむせき)》には《情の二重帯》と題する。小春は登場せず,詞章は《心中天の網島》中の巻のおさんの恨み言,治兵衛の告白,おさんの打ち明け,心配り,悶えという急展開の場をほとんどそのまま抜き出したもの。1770年ころ(明和末~安永初)宮薗鸞鳳軒作曲。柔らかな調子で情緒纏綿と女心を語る。(2)一中節《小春髪結》。近松が初世都太夫一中のために詞章を作ったと伝える。小春が治兵衛との心中を決意したのを察して髪結お綱が意見する筋。これを地歌の繁太夫物としたものに,《髪梳き》(《黒髪》とも)がある。
→髪梳き →黒髪 →心中天の網島
執筆者:安田 文吉+平野 健次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…大坂網島大長寺の心中事件を脚色した際物(きわもの)であるが,近松世話悲劇の傑作。大坂天満の紙屋治兵衛と曾根崎新地の遊女小春は深い仲になっていたが,治兵衛にはおさんという女房があり,2人の子までいる。治兵衛と小春は死ぬ約束をしており,2人はその機会をうかがっている。…
※「小春」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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