心中天の網島(読み)シンジュウテンノアミジマ

デジタル大辞泉 「心中天の網島」の意味・読み・例文・類語

しんじゅうてんのあみじま〔シンヂユウテンのあみじま〕【心中天の網島】

浄瑠璃世話物。3巻。近松門左衛門作。享保5年(1720)大坂竹本座初演。遊女小春紙屋治兵衛との情死事件を脚色したもの。近松世話物の最高傑作とされる。

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精選版 日本国語大辞典 「心中天の網島」の意味・読み・例文・類語

しんじゅうてんのあみじまシンヂュウ‥【心中天の網島】

  1. 浄瑠璃。世話物。三段。近松門左衛門作。享保五年(一七二〇)一二月、大坂竹本座初演。同年一〇月、天満(てんま)の紙屋治兵衛と曾根崎新地の遊女紀伊国屋小春が、網島の大長寺で心中した事件を脚色したもの。近松の世話浄瑠璃のうちもっとも成功したもので、心中物代表作。「河庄」の場の治兵衛の花道の出、「紙治内」の場のおさんのくどきが有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「心中天の網島」の意味・わかりやすい解説

心中天の網島 (しんじゅうてんのあみじま)

人形浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。1720年(享保5)大坂竹本座初演。大坂網島大長寺の心中事件を脚色した際物(きわもの)であるが,近松世話悲劇の傑作。大坂天満の紙屋治兵衛と曾根崎新地の遊女小春は深い仲になっていたが,治兵衛にはおさんという女房があり,2人の子までいる。治兵衛と小春は死ぬ約束をしており,2人はその機会をうかがっている。それを予感したおさんは小春に手紙を書いて夫を思い切ってくれとたのむ。これはまだ観客には知らされていないが,小春はおさんへの義理を思って,おりからの侍客,実は侍に扮した治兵衛の兄の孫右衛門に,死ぬ気はないと告げ,それを聞いた治兵衛は怒って縁を切る。絶対状況を突き崩すべく最初に行動を起こしたのはおさんだが,それを小春が受けとめ,ひとまず状況は打開される。だが,小春が夫の恋敵太兵衛に請け出されると知ったとき,おさんは小春は死ぬと直感する。〈夫の恥と我が義理を一つに包む風呂敷の〉と,おさんは自分や子どもの衣類を質種に金をととのえ小春を身請けさせようとする。〈我が義理〉とは〈女同士の義理〉であるが,そのとき,おさんは女房対遊女という関係を飛び越え,対等の女対女として小春とむかいあっていた。だが,それはまた女として女房としての自分自身の立場を矛盾に追い込むことであった。劇はここで頂点に達する。この直後おさんの父親の登場となって,怒った父親におさんが連れ去られるためすべてが水泡に帰し,治兵衛・小春の心中となるが,2人はおさんへの義理に苦しみながら死なねばならない。なお,治兵衛とおさんは従兄妹同士でもあるため矛盾は周りへと波及するが,兄の孫右衛門や叔母苦境もよく書けている。改作物では歌舞伎《のべの書残(かきおき)》の影響などもうけて増補された1778年(安永7)4月大坂北新地芝居初演の近松半二作《心中紙屋治兵衛》が最も有名で,その〈茶屋の段〉が〈河庄〉として流行し,また〈紙屋内〉は半二の作をさらに改めた《天網島時雨炬燵(しぐれのこたつ)》(略して《時雨の炬燵》とも)がもっぱら演じられてきた。歌舞伎では《のべの書残》を補訂した《のべの書置》系統のものも多く上演されてきた。ただ近年は人形浄瑠璃,歌舞伎ともに原作を尊重した上演がしだいに多くなってきている。
執筆者:

《心中天の網島》を取り入れたり,その影響下に作られた浄瑠璃および地歌に,次のようなものがある。上巻の河庄の段の一部を取り入れた地歌としては,富岡検校作曲の繁太夫物《紙治》(《河庄》とも),中巻の時雨炬燵の段の一部を取り入れた宮薗節に,《情の二重帯》の《小春治兵衛炬燵の段》(略して《小春》とも),中巻と下巻の間に当たるものに,一中節《小春髪結》(略して《小春》とも)があって,心中を決意した小春に髪結のお綱が意見をする。地歌の繁太夫物化もされて《髪梳き》とも題する。下巻の名残の橋づくしをそのまま地歌化したものに,富岡検校作曲あるいは改曲の繁太夫物《橋づくし》があり,その道行のあとは一中節《天の網島》が受けている。ほかに,この道行を短くまとめたものに,3世宇治紫文作曲の一中節《誓網島(ちかいのあみじま)》がある。
髪梳き →小春
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「心中天の網島」の意味・わかりやすい解説

心中天の網島
しんじゅうてんのあみじま

浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。享保5 (1720) 年大坂竹本座初演。同年に起きた紙屋治兵衛と紀伊国屋小春との心中事件を脚色。商業都市大坂を背景に,妻子ある身で遊女小春に通いつめる治兵衛,憎しみをこえて女同士の義理を感じ合う治兵衛の妻おさんと小春など,登場人物の心理,性格もみごとに描かれ,近松の最高傑作といわれる。その後多くの改作が生れたが,特に安永7 (78) 年近松半二ら合作『心中紙屋治兵衛』 (通称『河庄』) が最も知られ,その増補『時雨の炬燵 (こたつ) 』も書かれた。現在,文楽や歌舞伎では,原作による上演のほか,これら上の巻「河庄」と中の巻「時雨の炬燵」の改作も上演される。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「心中天の網島」の解説

心中天の網島
しんじゅうてんのあみじま

人形浄瑠璃。世話物。3段。近松門左衛門作。1720年(享保5)12月大坂竹本座初演。同年10月に網島大長寺であった心中事件を脚色した作品だが,実説は不詳。内容は曾根崎新地紀国屋の遊女小春と紙屋治兵衛が,治兵衛の兄や女房のさまざまの心遣いも空しく,心中に追いこまれていくというもの。小春と治兵衛の女房との女同士の義理の立てあい,あるいは妻子ある男の恋が,周囲の人々を苦難に巻きこむ様相が緊密に描かれ,近松の世話物中の傑作である。歌舞伎では翌年から上演され,以後浄瑠璃・歌舞伎ともに影響しあって「心中紙屋治兵衛」や「天網島時雨炬燵(しぐれのこたつ)」などの改作物がうまれ上演されたが,近年は原作に近いものの上演が多い。

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百科事典マイペディア 「心中天の網島」の意味・わかりやすい解説

心中天の網島【しんじゅうてんのあみじま】

近松門左衛門作の浄瑠璃,また,これに基づく歌舞伎劇。1720年暮初演。同年大坂網島で起こった紙屋治兵衛(紙治)と曾根崎新地の遊女小春の心中事件を脚色した,近松の世話物の代表作。治兵衛の女房おさんの頼みで,小春が泣く泣く縁を切ろうとする〈河庄(かわしょう)〉の場が有名。
→関連項目小栗康平

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