改訂新版 世界大百科事典 「屎尿処理」の意味・わかりやすい解説
屎尿処理 (しにょうしょり)
人間が排泄(はいせつ)する大便と小便を屎尿または糞尿と呼んでおり,これを処理することを屎尿処理という。もともとは人間の住む近くの環境に排泄し,自然の浄化力にまかせていたのであるが,人口密度が大きくなると環境衛生上そのようなことができなくなり,屎尿を収集するようになる。日本では昭和20年代までは屎尿を肥料として用いていたため,収集したものの多くは農地に還元されていた。その後,化学肥料の普及とともに屎尿をもっていくところがなくなり,山地や海洋に投棄するようになった。投棄は非衛生的であり,山地へそのまま捨てることはなくなったが,海洋投棄はまだ行われている。収集した屎尿が感染症や水質汚濁の発生源とならないように,くみ取便所から収集した屎尿を処理することが必要であり,このための施設を屎尿処理施設という。
処理方法
収集した屎尿の処理方法には嫌気性消化処理方式,好気性処理方式,物理化学処理方式の3方法があり,広く用いられているのは前2者である。嫌気性消化処理方式では屎尿を密閉したタンク(消化槽)に30日間ほど貯留する。この間に病原微生物は死滅して衛生的安全性が高まり,屎尿中の有機物は酸素のない条件下で活動できる細菌の作用を受け,屎尿の性状が固形分と水分に分離しやすい状態になる。この後,分離した固形分は肥料に利用されたり焼却後に処分されたりする。水分はまだ有機物のほかアンモニアなどの無機物の濃度が高いため,そのまま捨てることができないので,活性汚泥を用いた活性汚泥法などの好気性処理を施し,さらに消毒をしてから放流する。消化槽ではメタンを主成分とするガスが発生するが,このガスは消化槽の加温などに利用される。
好気性処理方式は屎尿をそのままあるいは希釈してから空気を供給し,全工程を酸素の存在下で行う方式で,微生物の作用によって屎尿を安定化してから固形分と水分を分離し,水分を消毒後に放流する。活性汚泥法が中心となる処理方式である。
物理化学処理方式のうち化学処理方式は,屎尿中の浮遊物質やコロイドを薬品で凝集させてから固液分離する方式であり,固形分は脱水後に焼却したりしてから処分する。一方,分離された水分は活性汚泥法などの好気性生物処理によって処理した後,消毒して放流する。また湿式酸化処理方式といって,屎尿を空気とともに密閉容器中で液状のまま高温,高圧に保ち,有機物を熱分解および酸化分解してから固液分離し,分離液をさらに活性汚泥法により処理する物理化学処理方式もある。
屎尿処理施設の構造や放流水の水質基準などは〈廃棄物の処理及び清掃に関する法律〉で規定されているが,水質基準については放流水域の状況によってさらに水質汚濁防止法に基づく地方公共団体の条例によりいっそうきびしく規制されているところが多い。そのため上に述べた方式だけでは要求に応じた水質が得られず,さらに凝集沈殿,ろ過,活性炭吸着,オゾン処理,脱窒素,脱リンなどの工程を高度処理として加える場合が多い。このような高濃度の汚水を高度に処理するという屎尿処理の技術は,一般の水処理技術を高い水準に引き上げる面での貢献も大きい。なお,屎尿はくみ取便所に貯留されてから収集されて処理されるほか,水洗便所に排泄されて下水道や浄化槽によっても処理される。快適性の向上と水質汚濁の防止の観点から下水道の普及がはかられているが,屎尿のもつ肥料価値を有効に利用する立場から,屎尿処理を考えることも重要である。
→下水道
執筆者:金子 光美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報