中国、唐代盛期の詩人。「しんじん」とも読む。江陵(こうりょう)(湖北省)の人。太宗のときの宰相岑文本(しんぶんぽん)の曽孫(そうそん)で、744年(天宝3)の進士。安西節度使、安西北庭都護の書記官として、再度、西域(せいいき)の砂漠生活をもち、その体験に基づく塞外詩(さいがいし)は、豊かな空想力のうちに異国情緒を生き生きとかき立て、唐詩のうちに独自の地位を占める。「君聞かずや胡笳(こか)の声の最も悲しきを、紫髯緑眼(しぜんりょくがん)の胡人吹く」という句に始まる「胡笳の歌」はことに有名である。安禄山(あんろくざん)の乱後、右補闕(うほけつ)として中央にあったころ、左拾遺(さしゅうい)の官にあった杜甫(とほ)の知遇を受ける。その詩集を『岑嘉州集(しんかしゅうしゅう)』とよぶのは、最終官が嘉州(四川(しせん)省)の刺史(しし)であったことによる。401編の詩と1編の散文を伝える。
[黒川洋一]
『鈴木修次著『唐代詩人論 上』(1973・鳳出版)』▽『小川環樹編『唐代の詩人――その伝記』(1975・大修館書店)』
中国,盛唐の詩人。荆州江陵(湖北省)の人。天宝3年(744)の進士で,嘉州(四川省)の刺史をつとめたことから岑嘉州と呼ばれる。西域の風物や従軍生活,異民族の文化を題材とした作品に秀作が多く,辺塞詩人の異名を取る。〈平沙万里 人烟を絶つ〉と歌う七言絶句〈磧中(せきちゆう)の作〉はその代表例。友人高適(こうせき)とともに〈高岑〉と並称され,また南宋の大詩人陸游に熱愛されるなど後世への影響も大きい。《岑嘉州詩》7巻が伝わる。
執筆者:荒井 健
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