進士(読み)シンシ(英語表記)jìn shì

デジタル大辞泉 「進士」の意味・読み・例文・類語

しん‐し【進士】

《「しんじ」とも》
中国で、科挙の試験科目の名称。のちに、その合格者をいった。
律令制で、官吏登用試験の科目の名称。また、その合格者。
平安時代2に合格した文章生もんじょうしょうのこと。

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精選版 日本国語大辞典 「進士」の意味・読み・例文・類語

しん‐し【進士】

  1. 〘 名詞 〙 ( 古くは「しんじ」とも )
  2. 中国古代における官吏の登用試験である科挙の合格者。また、その科目の名。→貢挙殿試
    1. [初出の実例]「われは鐘馗といへる進士なるが、及第のみぎんに亡ぜし、その執心を飜へし、後世になほ望みあり」(出典:大観本謡曲・鐘馗(1470頃))
    2. [その他の文献]〔礼記‐王制〕
  3. 令制の官吏登用のための国家試験の科目の一つ。時務策二条と文選爾雅暗唱の試験をした。また、それの合格者の称号。また、その人。しじ
    1. [初出の実例]「進士。取明閑時務。并読文選。爾雅」(出典:令義解(718)選叙)
  4. 文章生(もんじょうしょう)のこと。
    1. [初出の実例]「進士无位安倍朝臣黒麿」(出典:続日本紀‐天平一二年(740)一一月丙戌)
    2. 「ふるきしんじなどに侍らずは、うけたまはり知るべきにも」(出典:枕草子(10C終)八)

し‐じ【進士】

  1. 〘 名詞 〙しんし(進士)
    1. [初出の実例]「文人(もんにん)は、博士よりはじめて、しじよりいでたる人廿人、擬生(ぎさう)も召したり」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)

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改訂新版 世界大百科事典 「進士」の意味・わかりやすい解説

進士 (しんし)
jìn shì

隋代に初めて科挙を設けてから唐代までは,進士は他の秀才,明経などとともに科目の一つに数えられたが,宋中期以後,科挙は進士1科だけとなり,進士科が科挙を代表することになった。ただし宋以後の進士科は詩賦のうえに,経義,策論をも試されるので,実質的には在来の明経,秀才の科をすべて包含したことになる。唐代の進士科には中央の学校の生徒と,各州が試験したうえで推薦した郷貢の進士とが応ずることができ,これらに対して中央政府が行う試験を貢挙,または省試と称した。貢挙は初め吏部のつかさどるところであったのを,のちに礼部の所管に改めたのは,それが就職試験ではなくて,資格試験であったからである。貢挙に合格すれば,進士及第を賜り,終生の栄誉の称号となるが,ただし実際に官吏に就職するためには,さらに吏部が行う銓試(せんし)を受けなければならなかった。銓試は身言書判といって,容貌,言語,書跡および判決文の作成力を試すが,ここに六朝時代の貴族制度のなごりが見られ,たとえば韓愈のような背景を持たない俊才は,しばしばこの関門でしめ出された。このような弊害をなくすため,宋の太祖は貢挙の後に,天子みずから宮中で行う殿試を加え,天子の定めた序列によって進士を合格させた。これによって吏部の銓試は,有名無実となり,進士の任官,官位昇進の遅速は,もっぱら殿試成績の序列に左右されることとなった。成績はまず第一甲,第二甲,第三甲それぞれ若干名に分けられ,第一甲の首は状元,次の2名を榜眼(ぼうがん)と称したが,のちに榜眼の次席者を探花と呼ぶようになった。実は探花とは唐代の風習で最年少の進士2人が長安城中の名花を探して報告を行った故事に由来する。

 唐代には郷貢進士も進士及第者も通じて進士と呼ばれたが,宋以後は殿試に合格してはじめて進士であった。下って清朝の末期となり,新教育を奨励するため,国立大学の卒業生および海外留学生に対し特別の試験を行い,科挙とは関係なく進士の学位を与えて優遇した。
執筆者:

古代の律令制下に式部省が行った官人登用試験の一つ。〈しんじ〉ともいう。政治要務を学習し,《文選(もんぜん)》《爾雅(じが)》が暗読できるとして,大学などから貢挙されたものに,治国の要務についての論題二つを課し,さらに《文選》で7ヵ所,《爾雅》で3ヵ所を3字ずつ板で隠し,その1行を暗読させた。全問合格を甲第,論文が合格して暗読6ヵ所以上のものを乙第とし,それぞれ従八位下,大初位上を授けた。
考試
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「進士」の意味・わかりやすい解説

進士
しんし
jin-shi; chin-shih

中国で隋代 (600頃) から清代末 (1905) まで続いた科挙の及第者をいう。唐代までは科挙の一科目であった進士科の受験者を意味し,その及第者を進士及第,進士出身などと呼んでいたが,宋代以後,科挙の科目が進士科一つに統一されたため,科挙の及第者を一般に進士と呼ぶようになった。競争が激しく,及第するのがきわめて困難であったため,進士となることは人生最大の幸福とされ,特に首席の状元 (じょうげん) は歴史に名を残す栄誉とされた。

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百科事典マイペディア 「進士」の意味・わかりやすい解説

進士【しんし】

中国の官吏任用試験のうち,科挙(かきょ)の科目の一つ。唐代には詩賦策論が重視され,進士科は明経科とともに最も重要であった。このため唐代詩文の隆盛を招いたとされる。宋代には科挙制の大改革に伴い,策論が中心となり,進士科以外の諸科は漸次廃止され,進士科だけが清代まで続いた。科挙に及第した進士は,官吏への任・不任にかかわらず社会的・政治的に特権をもった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「進士」の意味・わかりやすい解説

進士
しんし

中国、科挙(かきょ)の科目の一つ。また唐代では貢挙に合格した者、宋(そう)代以降は皇帝自ら行う殿試に合格した者の称号。

[編集部]

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旺文社世界史事典 三訂版 「進士」の解説

進士
しんし

隋代の606年に設けられた,科挙の科目またはその合格者
秀才,明経などとともに科目の1つだったが,宋の中期には科挙は進士1科だけとなった。このため,本来の詩賦の上に論策・経義も含まれるようになり従来の科を包含することになった。合格者は,任官の有無にかかわらず種々の特権を与えられた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「進士」の解説

進士(しんし)

科挙の科目名。合格者は中級以上の高等文官に昇進した。606年科挙創制とともに始まり,宋以降科挙の中心科目となり,官界栄達の正規コースとして多数の志願者が出,進士の数も増大した。

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普及版 字通 「進士」の読み・字形・画数・意味

【進士】しんし

官吏となる資格試験。

字通「進」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の進士の言及

【科挙】より

…従来科挙は次代煬帝(ようだい)の大業年間(605‐618)に創始されたと考えられてきたが,これは誤りである。
[変遷]
 唐は隋制を受け,科挙に秀才,進士,明経,明法その他の科目を設けた。秀才には政治上の意見などを問う策論を課するが,採点が厳しすぎて合格者がなくなり廃止された。…

【紀伝道】より

…すなわち,教科内容は三史(《史記》《漢書》《後漢書》)その他の中国の歴史書や,《文選(もんぜん)》以下の中国の詩文などであり,教官には文章博士2人があたった。文章生は20人で,これを進士と称したが,その中の優秀な者2人を文章得業生とし,これは秀才と称した。また文章生の希望者が多いので,文章生候補者として,擬文章生20人が置かれた。…

【考試】より

…この秀才・明経ともに,上下・中上第は叙位の対象にならなかった。(3)進士は治国の要務を身につけ,《文選(もんぜん)》《爾雅(じが)》を諳読できるものを採る。時務策2条と《文選》《爾雅》を試験して,及第の甲第は従八位下,乙第は大初位上に叙した。…

【進士氏】より

…鎌倉・室町時代の武家。進士とは,がんらい律令制の大学学生で,式部省が課した試験に合格したものをいう。のち称号となり,さらに氏となる。…

【宋】より

…すなわち,皇帝が試験の及落に最終の決定権をもち,及第者はその恩義に感じ,天子の門生として終生忠誠をつくすことになり,君主独裁制を強化するのに貢献した。また太宗以後は及第者の数が激増し,とくに進士科が重視されて,〈進士及第者にあらずんば美官を得ず〉といわれたように,進士でなければ出世できないことになった。事実,宰相などの高官にのぼった者の大部分がその及第者であった。…

【中国】より

…やがての時代をへて時代に入ると,南方優越の形勢は決定的となる。科挙における進士合格者の数,学者芸術家の数,税負担の額,すべて江蘇,浙江を頂点とする南方が圧倒的である。モンゴル民族の征服王朝たる元朝が南人に対して過酷であったことが,かえって南方士大夫の文化を発展させ精彩を与えることとなったという(内藤湖南)。…

※「進士」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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