江戸初期,徳川家康の側近本多正純の与力でキリシタンの岡本大八(洗礼名パウロ)が,1610年1月(慶長14年12月)ポルトガル船ノッサ・セニョーラ・ダ・グラサ号(一名,マードレ・デ・デウス号)を爆沈させたキリシタン大名有馬晴信から,その恩賞斡旋にかこつけて多額の金品を詐取した事件。12年大八は下獄し晴信の長崎奉行長谷川左兵衛謀殺の企てを訴えて対決した。結局,晴信は改易・甲州配流後に死を賜り,大八は駿府安倍河原で火刑に処せられた。家康はこの事件を契機にしてキリスト教に対する禁圧の姿勢を明確にし,駿府,江戸,京都に禁教令を発令した。駿府家臣団のキリシタン検索を実施して直臣と侍女十数名を摘発・追放し,この旨を諸大名に通達した。これは単なる贈収賄事件にとどまらず,封建的主従関係の根幹である所領問題が取引の対象とされ,将軍の代理人ともいうべき長崎奉行が西国大名の謀殺の対象となった点で重要な意味を持っていた。
執筆者:五野井 隆史
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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