岩石力学(読み)がんせきりきがく(その他表記)rock mechanics

改訂新版 世界大百科事典 「岩石力学」の意味・わかりやすい解説

岩石力学 (がんせきりきがく)
rock mechanics

岩石ないし岩盤変形破壊に関する学問総称ロックメカニクス岩盤力学,あるいは岩の力学ともいう。特定の天然物産を対象としているという意味では,土質力学と同じカテゴリーに属する学問である。岩石ないし岩盤の変形や破壊に関する研究は,従来は地質学,地震学,鉱山学,土木工学など,それぞれ関係の深い専門分野で,目的に応じて,そのつど行われていた。これらを総合して,一つの学問体系にまとめようとする動きは,1950年代後半から始まり,66年には国際岩の力学会International Society for Rock Mechanicsが創立された。

 このように,岩石力学はもともとが境界領域の学問であるので,岩石力学が関係する専門分野はきわめて広い。すなわち,地球科学の分野では,何百万年にわたる地層褶曲の生成機構,あるいは断層の発生条件,これと関連して地震が起こるときの岩石の破壊過程などがある。また,工学の分野では,鉱山の採掘場の設計,坑道トンネル支保の設計,地下発電所や石油の地下備蓄用の大空洞の設計など,岩盤の変形や破壊を抑制することを目的とした技術がある。さらに,鉱石の採掘や粉砕,トンネルや地下の大空洞の掘削など,いかに能率よく岩石を破壊するかを追求する技術も,岩石力学の対象の一つである。次に現象面からいえば,褶曲現象や地すべり,あるいは鉱山の採掘跡の沈下などと関連して,長期間にわたって徐々に進行する変形,たとえばクリープ現象が問題になる一方で,地震波の伝搬爆破の際の振動など,1/100~1/1000秒単位で変化するきわめて速い現象も問題になる。

 岩石はその成因からみて,堆積岩,火成岩,変成岩の区別があるだけでなく,その鉱物組成や組成粒子の大きさと結合の仕方などについても,多種多様である。そのため,岩石の力学的性質を少し詳細に議論しようとすると,岩石の種類や構造の違いを考慮することが不可欠になってくる。さらに同一の種類に属する岩石でも,その存在場所ないし産地,あるいは水分の含有量などによって力学的性質が異なる。したがって,岩石の強さを一般的にいうことは困難であるが,常温・常圧下では,岩石は引張荷重や曲げに対してきわめて弱く,引張強さは圧縮強さの1/10程度である。また,破壊するときは,大きな永久変形をしないまま,亀裂が発生して急速に破壊が進行する。しかし,大きな圧力下では,明りょうな破壊亀裂を生じないまま,永久変形が進行する。また高温下でも同様な現象が起こる。

 地表付近の岩盤は多くの場合いろいろな亀裂を含んでいるので,ある程度以上大きなブロックの岩盤,たとえばダム基礎の岩盤について,その力学的性質を議論するときには,亀裂の影響を考慮することが不可欠になってくる。なぜならば,岩盤の変形や破壊が主として亀裂に沿って起こるため,亀裂を含んだ岩盤の力学的性質は,亀裂と亀裂との間に存在する健全な岩石の力学的性質とは大きく異なるからである。したがって,この場合は,亀裂の方向や数,さらには亀裂面の滑らかさや,すきまに存在している物質の性状などが,岩盤の力学的性質に及ぼす影響が大きな問題になる。岩盤力学という名称は,このような事実に重点を置いて生まれた訳語であり,主として建設関係で用いられている。このような亀裂を含んだ岩盤の力学的性質ないし亀裂の力学的性質を知るためには,試料を採取して実験室で試験を行うより,現場に試験装置を持ちこんで,直接に岩盤の力学的性質を測定する,原位置試験が重要である。岩盤の力学的性質を知るために行われる原位置試験には,ボーリング孔を利用するもの,坑道内に油圧ジャッキその他の装置を持ちこんで行うものなど,いろいろな方法がある(岩盤試験)。

 他方,地質現象の解明や,鉱山あるいは地熱の開発のためには,地下深部における岩石の力学的性質を知ることが必要である。この場合は,地表付近と異なり,亀裂の影響は小さい。また,高圧あるいは高温下での力学的性質が問題になるので,たとえばボーリングによって採取した試料を用いて,実験室実験を行う。このボーリングを行うためのビットや削岩機あるいは採炭機が岩石を掘削するときの破壊の仕方やビットの摩耗,さらには粉砕機で鉱石を粉砕するときの粉砕しやすさなども,岩石力学の応用分野である。鉱山関係でもっぱら岩石力学という名称が用いられているのは,このような事実に由来している。

 これまで述べてきた岩石ないし岩盤の力学的性質に関する試験のほかに,岩盤のおかれている状態や,外部の条件が変化したために発生する変形や破壊などの力学的挙動に関する観測も重要である。たとえば,地震の予知や,鉱山におけるガス突出の予防,あるいは地下発電所などの大空洞の設計のためには,岩盤内の応力状態(岩盤応力)を知ることが要求される。この岩盤応力の作用によって,鉱山の採掘場や坑道,トンネルや地下発電所など,岩盤内に作られた空洞の周囲の岩盤が,徐々に変形したりする現象を,地圧現象という。このような地圧現象の本質を知り,使用中の岩盤内空洞の安全を確保するために,岩盤内のひずみや変位などが観測される。たとえば,岩盤に大きな荷重が作用して,微小な亀裂が発生するときに出る弾性振動(亀裂音)の振幅や発生回数を観測して,坑道周辺の岩盤が突然破壊する山はね現象を予知したり,露天掘鉱山の斜面あるいはトンネルや坑道の壁面の変位,さらには支保に作用する荷重を定期的に観測して,岩盤斜面や岩盤内空洞の安定性を判定し,設計や施工が適切であったことを確認することも,岩石力学の重要な役割の一つである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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