翻訳|petrology
自然の物質としての岩石の性質を研究し、その生成条件の物理化学的側面を探究する科学。岩石は地殻や上部マントルを構成する物質であって、それは地層や火成岩体をなしている。一方、岩石は多様な鉱物の集合体でもある。岩石学では、岩石の鉱物集合体としての面を研究する。岩石の鉱物組成、化学組成、顕微鏡下に観察される組織の研究は、19世紀後半に開花し、20世紀初頭にはすでに方法が確立した。これが岩石記載学あるいは記述岩石学petrographyとよばれる分野である。これによって岩石、とくに火成岩の鉱物組成と化学組成に規則性のあることが明らかになった。そこで、岩石を化学的な系と考え、これに熱力学の多相平衡の理論を適用し、岩石の生成の物理化学的条件を明らかにすることが試みられるようになった。この方法はその後、変成岩の研究にも拡張され、急速に発展した。これが岩石成因論petrogenesisであって、今日の岩石学の主流はここにある。
一方、理想化された条件の下で、鉱物あるいは鉱物集合を人工的に合成し、それに基づいて岩石の生成条件を推定する研究も、20世紀初頭に始まったが、とくに1950年代に至って飛躍的に進歩した。現在では数十万気圧、千数百度の高圧高温合成、熱水合成、酸素や炭酸ガスの分圧の制御など多方面の技術が開発されている。しかし、岩石を構成する鉱物の多くは複雑な固溶体であって、合成実験の結果をそのまま生成条件の推定に適用することはできない。それを補うのは理論的研究であって、最近急速に発展した二つの固溶体における元素の分配の研究はその一例といえる。このように岩石について構成鉱物の間の多相平衡を論ずるためには、きわめて詳細な記載的研究が、新たに求められてきている。これらの研究のため、現在の岩石学では顕微鏡ばかりでなく、電子線マイクロアナライザー、X線回折装置をはじめ広範な新技術、新機器が導入されている。さらに、岩石や鉱物中の放射性および非放射性同位元素に注目した地球化学的研究が、新しく発展性のある分野として登場してきた。
岩石学によって確立された鉱物集合体の多相平衡論的研究方法は、地殻や上部マントルの物質のみならず、隕石(いんせき)や惑星の試料などにも適用され、成果を収めている。また、岩石学の結果は、プレートテクトニクスの検証のためにも重要な基礎資料を与える。
[橋本光男]
『山崎貞治著『はじめて出会う岩石学――火成岩岩石学への招待』(1990・共立出版)』▽『周藤賢治・小山内康人著『岩石学概論 上 記載岩石学――岩石学のための情報収集マニュアル』『岩石学概論 下 解析岩石学――成因的岩石学へのガイド』(2002・共立出版)』
岩石の分布や地質的出現状態,種々の性質,および成因等を明らかにする科学で,地質学の一分野である。このうち,岩石の鉱物組成や化学組成や組織などを記述することを主とした岩石学を記載的岩石学あるいは記述的岩石学petrographyと呼び,岩石の成因の研究を主とした岩石学を成因的岩石学petrologyと呼ぶ。しかし両者を合わせたものを岩石学petrologyと呼ぶことも多い。
歴史的に見ると,岩石の記述が18世紀末ごろから多く行われた。そして19世紀後半に顕微鏡による岩石の観察がドイツのツィルケルF.ZirkelやローゼンブッシュH.Rosenbuschなどにより精力的に行われ,岩石の記載,命名,分類などが体系化したことによって,記載的岩石学は地質学の一つの分野として確立した。19世紀末から20世紀初めにかけて,岩石の成因の考察に物理化学とくに化学熱力学あるいは化学平衡論が導入されるようになり,成因的岩石学が急速に発展した。そして岩石学の主流は記載的岩石学から成因的岩石学へと移った。その発展に貢献したのはV.M.ゴルトシュミット,P.E.エスコラ,N.L.ボーエンなどである。前2者は主として変成岩に化学平衡論を適用して変成岩理論を確立した。一方,ボーエンはケイ酸塩系の液と結晶の間の相平衡に基づいてマグマあるいはケイ酸塩融体が反応系であることを明らかにして,反応原理を提唱し,この原理から出発して火成岩の成因論の体系を組み立てた。こうして確立された成因的岩石学は理論や実験の進歩に伴ってさらに発展した。とくに,造岩鉱物の温度や圧力に対する安定関係が実験的にまた理論的に決定されたことは,岩石の生成条件を定量的に議論するうえで重要であった。また,岩石の微量元素や各種同位元素の分析も進み,それらのデータもとり入れた岩石成因論も発展してきている。
岩石の成因は,また,古くから地殻の造構造作用と関連させて考えられてきた。例えば花コウ岩や広域変成岩などは造山作用の一つの過程で形成されると考えられた。1960年代以降はプレートテクトニクスの枠の中で多くの岩石の成因が見直されている。今後さらに地球の形成,進化の過程の中での岩石の成因が考えられるであろう。
記載的岩石学も長い間偏光顕微鏡による観察が主であったが,1960年代からはX線微小部分分析装置による造岩鉱物の詳細な分析も多く行われるようになり,岩石から得られる情報は飛躍的に増加した。これによって成因的岩石学もまた進歩した。
岩石学を研究方法によって区別することもある。すなわち,野外での観察を主とする野外岩石学field petrology,実験を主とする実験岩石学experimental petrology,理論的に岩石の成因を考察する理論岩石学theoretical petrologyなどである。
岩石学の対象は長い間陸地に露出する岩石がほとんどすべてであった。しかし近年は,海底に露出する岩石や,海底下の掘削によって得られた海洋地殻の岩石,さらにマントル上部の岩石,あるいは隕石や1969年に始まったアポロ宇宙船によって地球に持ち帰られた月の岩石も岩石学の対象になっている。今後は地球以外の惑星の岩石も岩石学の対象に含まれるであろう。
岩石学は本来地質学の一分野であるが,他のいくつかの地球科学の分野,とくに地球化学,地球物理学,鉱物学などと密接に関連している。
執筆者:久城 育夫
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