改訂新版 世界大百科事典 「岩谷松平」の意味・わかりやすい解説
岩谷松平 (いわやまつへい)
生没年:1849-1920(嘉永2-大正9)
明治・大正期の実業家。鹿児島県川内(せんだい)出身。酒造家として知られた旧家に生まれ,18歳で家を継ぐ。西南戦争で店を焼かれた後上京し,1878年薩摩名産品を商う〈薩摩屋〉を開店。その後岩谷商会を設立,84年ごろ薩摩名産の国府葉を原料にした口付き紙巻きタバコ〈天狗煙草〉の製造販売を開始した。彼は宣伝のために銀座の店舗を屋根から壁まで真っ赤に塗り,自身も赤い洋服,赤い帽子で赤塗りの馬車に乗って人目を引いた。広告も意表をつくもので,〈勿驚(おどろくなかれ)煙草税金200万円〉といったキャッチフレーズを看板などに使った。国産葉による国益主義をとなえる岩谷商会の最大の競争相手は,外国葉を原料とする村井兄弟商会(1890設立,村井吉兵衛社長)の両切り紙巻きタバコ〈ヒーロー〉〈サンライス〉であり,1904年専売制へ移行するまで,両社は首位を争う大広告主として,華々しい宣伝合戦を繰り広げた。松平は,タバコ以外にも北海道開拓,捕鯨事業,電力事業なども手がけ,1903年衆議院議員に選出されている。
執筆者:星野 匡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報