年季売(読み)ねんきうり

改訂新版 世界大百科事典 「年季売」の意味・わかりやすい解説

年季売 (ねんきうり)

中世売買契約の一形態。対象物件(主として土地)を一定期間売却し,代価をうけとり,契約期間終了後売主の手に戻る有期売買契約。契約期間は,短期間で3年3作,長期では50年50作と多様であるが,20年20作,10年10作の契約期間のものが比較的多くみられる。この年季売は,契約期間中の土地からの収益が,売却代金プラス利息の合計にみあう形をとった売買契約といえる。中世の売買形態には,今日の売却に相当する永代売のほか,売主が売却の代価を買主に支払って買い戻すことを特約した売買である本銭返しと年季売が主たる形態として存在した。年季売,本銭返しは東北,関東,九州などの地方に特徴的に多く,これらの地方では永代売より一般的な形態として存在した。また年季売は,恩給地などの永代売を禁じた分国法などに,その代替処置として公認されることが多かった。

 年季売は約定期間満了と同時に売主が当該物件の所有を復することができたのに対し,本銭返しは元金を返還して買い戻すことを必要とした点においてことなるが,両者ともに請戻し,買戻しの特約付売買契約である点では共通する。また永代売の場合にもなお,農民の土地売買契約においては,買戻し,請戻しが強く期待されていたことが知られ,日本においては,年季売の形態が本来的な売買形態であったことが想定されている。年季売契約状の担保文言は,契約期間中に当該物件に違乱があった場合,売主が売却代金(本銭)をもって買い戻す本銭弁償文言が一般的である。しかし,この年季売においても契約期間中も当該物件を買主に引き渡さず,売主の責任において収益のみを毎年支払う形態も多くみられ,その場合には売主の課役負担,抵当物件・入質(いれじち)の設定,罪科文言など種々の担保文言がつけられている。なお永仁徳政令では,年季売はその適用対象外とされているが,室町幕府の徳政令ではその対象となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「年季売」の意味・わかりやすい解説

年季売
ねんきうり

中世・近世における田畠(でんぱた)などの期限付き売買。年紀(ねんき)売、年作(ねんさく)売ともいう。武士、社寺、農民、商工業者などが経済的に困窮した際、金銭を得るため一時的に所有地を手放した売買の一形態。売買にあたっては、5年、10年など一定の年限を定めて売却し、年限がくると自動的に売り主に土地が返却された。売買の内容は、田畠の用益権や収益権の期限付き売買で、買い主は契約期間中の収穫や収益をもって、支払代金や利息相当分に充当した。室町幕府は、本銭(物)返(がえし)地、質券地などと同様、年季売地にも徳政令を適用し、契約期限前に売り主に返却させることもあった。

 近世には、約束の年限に代価を買い主に返却したとき、土地が売り主に取り戻される本銭(物)返の売買と混同されるようになった。

[佐々木銀弥]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「年季売」の解説

年季売
ねんきうり

年紀売・年期売とも。中世,一定の契約期間の終了後に対象物件を売主に返却することを特約した売買。とくに東国や九州では一般的な売買形態である。その期間は数年から数十年と多様だが,代価は契約期間内にその物件から得られる収入にみあった額となる。こうした売買形態の背景には,強固な本主権,すなわち開発者の土地に対する強い権利があったと考えられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「年季売」の解説

年季売
ねんきうり

中世〜近世における,年限を定めた土地用益権の売買で,年限がくれば所有者にもどった
田畑永代売買禁止令でも,年季売は認められたので,困窮農民はこの形式で米・銭を得た。

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世界大百科事典(旧版)内の年季売の言及

【売券】より

…また中世においてしばしば行われた土地の分割売買で,手継証文を買主に渡しえないときには,売主は手継証文の一部に,分割の旨を記入する方法をとる場合が少なくなかった。 中世で売券の一種とみられたものに,本銭返し(ほんせんがえし)売券と年季売券がある。前者は売却後,随時または特定期日以内あるいは以後に,売主が売価と同額の米・銭を買主に支払えば,土地は売主に返還されるという契約である。…

【本銭返し】より

…(2)一定期間経過後に代価を支払って買い戻すことができることを契約した年季明(ねんきあけ)請戻特約。これは年季売に似ているが,代価を支払って買い戻す必要がある点で年季売と区別される。(3)契約した一定期間内に売主が買戻権を行使しなければ,その物件は自動的に買主の所有に帰し,売主の買戻権は消滅することを契約した年季明流特約。…

※「年季売」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」