日本の中世における不動産売買の一形態。売却の代価(本銭)を買主に支払って買い戻すことができるという特約付売却で,代価が銭貨の場合を本銭返し,米穀のときを本物(ほんもの)返しという。この本銭返しは,売券(ばいけん)に付されている特約文言により次の4種に分けられる。(1)買戻しの時期を定めず,売主がいつでも本銭をもって買い戻すことを契約した無年季有合(ありあい)次第請戻(うけもどし)特約。これは当時〈有合に売る〉とも表現され,売却人の買戻権は原則上は永久的性質をもち,相続人に移転するものであった。(2)一定期間経過後に代価を支払って買い戻すことができることを契約した年季明(ねんきあけ)請戻特約。これは年季売に似ているが,代価を支払って買い戻す必要がある点で年季売と区別される。(3)契約した一定期間内に売主が買戻権を行使しなければ,その物件は自動的に買主の所有に帰し,売主の買戻権は消滅することを契約した年季明流特約。(4)売渡物件よりあがる収益が,買戻本銭の2倍に達した場合,自動的に当該物件が売主に戻ることを契約した元利消却請戻特約。この形態は,不動産の解除条件付売渡しである本銭返しと矛盾する元利消却質としての年季売と区別することは困難であるが,当時これも本銭返しとした例がみられる。
このように(3)(4)の本銭返しは,入質(いれじち)と実質的に区別しがたく,本銭返しは売買と質入れの中間形態とされている。この本銭返しの本質が売買か質入れかについては議論の分かれるところであるが,古代の土地売券に使用される〈永売(えいうり)〉も現在の売ると同じではなく,請戻し,買戻しが前提とされていること,本銭返し,年季売などの形態が,中世の関東・東北,九州などの諸地方において一般的土地売却として存在したことなどからいえば,本銭返しは,歴史的には質入形式から売買形式が分離する過程の,なお両者の未分離状態のもとで生まれた形態と位置づけることが可能であり,農民の土地売却形態としては,ひろく近世にも継承された。
執筆者:勝俣 鎮夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…こういう際には,貸し手が物を買い取る形で実質上の融資を行い,返済されないときは,競売といったやっかいな公的手続を経ないで物を確定的に貸し手の所有とし,また,返済によって売り手が担保物件を取り戻すときは,売買契約の解除という方法による。これが買戻しの経済的作用であり,日本では中世以来,本銭返し,本物返しの名のもとで,質入れとならんで行われてきた。現在の法律にも規定が設けられている(579条以下)。…
…この年季売は,契約期間中の土地からの収益が,売却代金プラス利息の合計にみあう形をとった売買契約といえる。中世の売買形態には,今日の売却に相当する永代売のほか,売主が売却の代価を買主に支払って買い戻すことを特約した売買である本銭返しと年季売が主たる形態として存在した。年季売,本銭返しは東北,関東,九州などの地方に特徴的に多く,これらの地方では永代売より一般的な形態として存在した。…
…また中世においてしばしば行われた土地の分割売買で,手継証文を買主に渡しえないときには,売主は手継証文の一部に,分割の旨を記入する方法をとる場合が少なくなかった。 中世で売券の一種とみられたものに,本銭返し(ほんせんがえし)売券と年季売券がある。前者は売却後,随時または特定期日以内あるいは以後に,売主が売価と同額の米・銭を買主に支払えば,土地は売主に返還されるという契約である。…
※「本銭返し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
個々の企業が新事業を始める場合に、なんらかの規制に該当するかどうかを事前に確認できる制度。2014年(平成26)施行の産業競争力強化法に基づき導入された。企業ごとに事業所管省庁へ申請し、関係省庁と調整...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新