多細胞動物の発生過程において,幼生の時期のみにみられる器官で,変態の過程で消失するもの。昆虫ではこれを幼虫器官と呼ぶ。人間の生活に最もなじみの深い幼生器官は,カエル類のオタマジャクシ幼生の尾であろう。しかしオタマジャクシがカエルになる過程で捨てるものは尾だけではなく,実は口器も脱落し,体内ではえらが退化しているのである。このほか大部分の幼生がそなえている繊毛や繊毛環なども変態時に失われる場合が多い。
しかし,なんといっても幼生器官として最も著しいものは,ひも形動物のピリディウム幼生および完全変態をする昆虫類の幼虫の外胚葉由来の諸器官であろう。系統的にも遠く隔たったこの2群の動物の幼生では,あるいは変態に際し(ひも形動物),あるいは発生の初期の幼虫諸器官の形成と並行して(昆虫),外胚葉が数ヵ所で幼虫の体内に陥入し,成虫盤(成虫原基)と呼ばれる構造をつくる。ひも形動物では成虫盤はそのまま発達して,互いに連続しながら原腸を包み込み,やがて羊膜に包まれ,幼生からは完全に独立した稚個体をピリディウム幼生の内部につくり上げてしまう(図)。昆虫の成虫原基は,幼生の体内では表皮と細い管でつながれて未分化のままとどまるが,蛹化(ようか)脱皮を促すホルモンであるエクジソンの刺激に応じて急激な発達をみせて翻転し,幼虫の体表の諸器官と置きかわる。
幼生器官の中で系統的に最も意義深いのは軟体動物,環形動物など真体腔類・端細胞幹に属する動物群のつくるトロコフォラ幼生のそれである。この幼生の体制は原体腔を特徴とするものであり,これを系統的にみれば,より原始的な線形動物や扁形動物の体制に相当するということができる。その体腔中には成体の中胚葉をつくる母細胞が待機しており,これが変態時に急激に分裂して成体の真体腔をつくり上げる。この真体腔は,これより高等な動物群の体制を特徴づけるものである。変態に伴う真体腔の発達によって原体腔は完全に失われはしないものの,成体の一部に押しやられてしまい,原体腔に特徴的な原腎管は退化し,真体腔に付随する腎管がこれにとってかわることになる。これらの現象は個体発生は系統発生をくり返すと考えさせるゆえんの一つである。
執筆者:団 まりな
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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