小説家。本名・福田章二。東京に生まれる。日比谷(ひびや)高校を経て、東京大学文科二類に進学。在学中の1958年(昭和33)、『喪失』が第3回中央公論新人賞を受賞した。翌年に発表された『封印は花やかに』とともに、独自の構成力と筆致が評価され、大江健三郎、石原慎太郎、有吉佐和子らと並ぶ新進気鋭として注目されたが、以後10年間、文筆を離れる。1969年、『赤頭巾ちゃん気をつけて』により、第61回芥川賞を受賞。荒々しいことばが飛び交い、不断に態度決定を迫られる政治の季節にあって、「やさしさ」に新たな価値をみいだし、等身大のナイーブさを失わず彷徨(ほうこう)する主人公「薫くん」の告白体で綴(つづ)られた自分探しの物語は、当時の若い読者に大きな反響をよんだ。以後、「薫くん」シリーズとして、『さよなら怪傑黒頭巾』(1969)、『白鳥の歌なんか聞こえない』(1970)、『ぼくの大好きな青髭(あおひげ)』(1977)が書き継がれることになった。そのほか、現実の社会に迎合せず、マイペースで「自分らしさ」を育てることを勧めた青春論『狼なんかこわくない』(1971)、身辺の小宇宙に眼(め)を凝らし、人の営みのかけがえのなさを綴ったエッセイ集『バクの飼主めざして』(1973)、『ぼくが猫語を話せるわけ』(1978)、『家族としての犬と猫』(1987)などがあり、マネーゲームと情報洪水に明け暮れる第二次世界大戦後の日本のありかたに対する批判の姿勢は一貫している。夫人はピアニストの中村紘子(ひろこ)(1944―2016)。
[金井景子]
『『家族としての犬と猫』(1987・新潮社)』▽『『喪失』『赤頭巾ちゃん気をつけて』『さよなら怪傑黒頭巾』『白鳥の歌なんか聞こえない』『狼なんかこわくない』『ぼくの大好きな青髭』『ぼくが猫語を話せるわけ』(中公文庫)』▽『『バクの飼主めざして』(講談社文庫)』
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