一般に,物が無断で開かれたり,扱われたりすることを禁じるために,封じ目に印を押すこと,またその印章自体をいい,鈐印(けんいん),封判とも称される。秘匿されるべき内容をもつ書状や,契約書,宣誓書などの重要文書に用いられることが多く,しばしば呪術的・象徴的な意匠の図形,あるいは神名や王名を刻んだ印章が,粘土(封泥)や蠟(封蠟),まれに金属に押されて封じられる。広義には結界を設定するための儀礼と関連する慣習と解されよう。
このような印章の使用は少なくともおよそ4000年前にさかのぼる。古代バビロニアでは市民が円筒印章ないし頂部に印章を付けた杖を携行し,契約などを交わす際に,それを記した生乾きの粘土板をこれで封印したという。またエジプトではスカラベ型の印章が用いられていた。このほかユダヤ,インド,ケルト文化圏などでも同様の習慣があった。また印章は指輪にされたり装飾品として身につけられたので,護符の役割も果たすようになった。アブラクサスを彫り込んだグノーシス派の護符も,本来は封印用の印章であったと考えられる。
イスラエルの民族が使用した封印の図形は聖書を通じて後世のヨーロッパに広く流布し,悪霊よけや聖所の標章として著名になった。とくに〈ダビデの星Star of David〉と呼ばれる六芒星形の封印図形は,金を中心とする7金属,または霊と肉の結合の象徴といわれ,イスラエルおよびユダヤ民族の標章になっている。これは日本の籠目(かごめ)と同じように悪霊よけの護符に使われるが,しばしばこれと混同されるものに〈ソロモンの封印Solomon's Seal〉がある。こちらは五芒星形で,叡智を象徴し,封印された中身の純正さを守るとされる。なお,《ヨハネの黙示録》第5章には〈七つの封印〉が言及されている。これで封印された巻物を解いて中身を見る資格をもつ者は,〈ダビデの若枝〉,すなわちキリスト以外にないという。そのため,〈七つの封印〉とは,受難,昇天などキリストの生涯を画した七つのできごとの寓意とも解釈されている。
封印の使用は,西洋ではギリシア時代からローマ時代にかけても継続され,印面にはアレクサンドロス大王をはじめ王の肖像が多く用いられた。中世以降,封印の機能がしだいに世俗化される一方で,その呪力にかかわる意義は魔術の分野で魔方陣や符図sigilとして純化されていった。封印の図形も錬金術の元素記号,占星術の惑星記号,数字やルーン文字まで含むようになった。19世紀のオカルト復興を先導したÉ.レビは〈ソロモンの封印〉などを彼の魔術体系に組み込み,これらの使用法を習得することをオカルティストの要件とした。
→印章 →護符
執筆者:荒俣 宏
法律上は,公務員が特定の物に対して,その職印を押した標識を施して,その損傷・開披等による現状変更を禁ずる処分,またはそれによって施された標識をいう。公務員の施した封印を損壊し,またはその他の方法をもって封印を無効にした者は封印破棄罪として処罰される(刑は2年以下の懲役または300円--罰金等臨時措置法により6万円--以下の罰金。刑法96条)。民事執行法上,債務者が占有している動産を差し押さえる場合に,債務者に保管させておいて封印をすることがある(民事執行法123条3項)。また破産管財人は,破産財団に属する財産の占有管理にあたり,必要な場合は裁判所書記官,執行官または公証人に封印を行わせることができる(破産法186条1項)。また,滞納処分における差押えにあたっても,封印がなされることがある(国税徴収法60条2項)。
執筆者:黒田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…この空間は,文書の封のように物理的に設定されたものもあれば,たとえば地震鯰を封じこめるために鹿島神宮の要石によって作られたそれのように,呪術的に設定されたものもあった。文書の場合,現在の封筒のようにして作られた空間の封じ目に,〆や封などのしるしを印判や手書きで加えることによって封が完成するが,このしるし自体に空間を守る呪力がそなわっており,したがって封印で守られる空間も単なる物理的なそれではないと意識されていたところに,前近代の封の特質がある。文書の封のもっとも簡単なものは,何個もの押印によってすき間なく字面をおおうことにより,文字の改変を防いだ,律令制における公文書の例がある。…
…中国古代において,文書や貨物を入れた袋,箱などを封印するために,かけた紐や検という木簡に着けた粘土。後世の封蠟に当たる。…
※「封印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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