日本大百科全書(ニッポニカ) 「トッカータ」の意味・わかりやすい解説
トッカータ
とっかーた
toccata イタリア語
演奏者の名人芸を誇示するような、即興風の華麗な作品。打つ、触れるを意味するtoccareを語源とするように、16世紀にはリュートや鍵盤(けんばん)楽器の調子を確かめる即興的な前奏曲と同義であった。また15世紀終わりごろから19世紀まで、祝祭用のファンファーレ、あるいはその金管パートの名称としても用いられた。鍵盤楽器のための独立した作品は、17世紀前半、同時代の声楽マドリガーレの様式と高度な演奏技巧を結び付けたフレスコバルディで頂点に達する。またJ・S・バッハに代表される北ドイツ・オルガン楽派では、前奏曲と同じ即興的で奔放な様式と厳格なフーガとの組合せが好まれた。トッカータはその後、姿を消したかにみえたが、19世紀終わりごろから、フランスのウィドールCharles-Marie Widor(1844―1937)やビエルヌLouis Vierne(1870―1937)のオルガン交響曲、ドビュッシーやラベルのピアノ曲において、本来の即興的性格が強調された、細かい音符で休みなく動き回る、技巧的作品として復活した。
[関根敏子]