デジタル大辞泉
「序」の意味・読み・例文・類語
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じょ【序】
- 〘 名詞 〙
- ① 物事の順。次第(しだい)。ついで。また、物事の秩序。
- [初出の実例]「楊柳東風序、千条揺颺時」(出典:文華秀麗集(818)中・奉和折楊柳〈巨勢識人〉)
- 「入振旅して長幼尊卑の序あり」(出典:応永本論語抄(1420)子路第一三)
- [その他の文献]〔礼記‐経解〕
- ② 物事のはじめ。発端。いとぐち。はし。
- [初出の実例]「よろづの事のはじめを序といへり、如何」(出典:名語記(1275)六)
- [その他の文献]〔詩経‐周頌・閔予小子〕
- ③ 詩文や書物のはじめにその述作の趣旨などを述べた文章。はしがき。序文。叙。
- [初出の実例]「古事記上巻序并(あは)せたり」(出典:古事記(712)上)
- [その他の文献]〔漢書‐芸文志〕
- ④ 和歌などで、あることばを導き出すためにその前に置く修飾のことば。序詞。
- [初出の実例]「じょのある句はことはり少たたぬなり」(出典:砌塵抄(1455頃))
- ⑤ 雅楽で、一曲を構成する三つの楽章のうち、最初のゆるやかな部分。特に拍子にはまらない演奏が特色。→序破急(じょはきゅう)。
- [初出の実例]「秋風楽三反(みかへり)、蘇合みなつくして、万秋楽の序より五帖までありけるに、なみだ落さぬ人なし」(出典:十訓抄(1252)一〇)
- ⑥ 能の番組編成や、一曲の脚本構成や舞などを破・急と共に三つに分けた最初のテンポのゆるやかな部分。
- [初出の実例]「序者、初めなれば、本風の姿也」(出典:花鏡(1424)序破急之事)
- ⑦ 謡曲の特定の一節(いっせつ)の名。→繰(くり)④。
- [初出の実例]「曲舞のしょに、『抑(そもそも)布留とは』と云、御劔など謂れを謡へば強き也」(出典:申楽談儀(1430)能書く様、その二)
- ⑧ 歌舞伎や浄瑠璃で、各段あるいは各作品の最初の場、幕。また、一日の上演中、最初の番組にした狂言。大序。序幕。
- [初出の実例]「狂言案じるにも及ばずと、古き狂言を序(ジョ)へ継合せつづり、四番め鳴神上人をやっこがころす事あり」(出典:役者論語(1776)佐渡嶋日記)
- ⑨ 三味線の旋律型の一つ。曲の最初にある導入楽曲。外記(げき)がかり。
- ⑩ 箏曲、地歌の手事(間奏部)の最初におくことのある緩徐な部分。まくら。
- ⑪ 古代中国の学校。庠序(しょうじょ)。〔孟子‐滕文公・上〕
- ⑫ 音楽で、前奏曲のこと。〔音楽字典(1909)〕
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
序 (じょ)
日本の芸能や音楽の用語。一つの演目,あるいは演目中の特定部分の冒頭に置かれる楽式上の単位。冒頭ということのほかに,それに続く部分とはリズム様式が異なって非拍節的である点が,多くの〈序〉に共通しており,拍節的である場合には,きわめてゆっくりした速度で奏されるのがふつう。まず雅楽では,左方(さほう)の舞楽の当曲(とうきよく)部分の冒頭楽章に非拍節的リズムのものが配された場合,これを序という。主として破と急とに対し,序破急という成語を生む原因になっている。ただし,舞楽全体としてはけっして冒頭楽章ではなく,また,これを欠く演目もある。序のリズム様式や演奏法を,序吹き,序拍子などという。これらの語や概念は,右方(うほう)の舞楽や雅楽以外の分野にも用いられ,たとえば天台声明(しようみよう)では,非拍節的リズムの曲を序曲と称する。ただし,雅楽においても,歌物に対しては,閑歌(しずうた)などといって,序の語を用いない。能では,早い時期から,五番立の初番目を序といったり,一曲冒頭のワキ登場の段を序といったりして,それぞれ破・急と対立させることも行われている。しかしこれらは,舞楽の序の概念や実態からはかなり離れたものである。能の舞事(まいごと)の中で,序ノ舞と神楽の二つは,その冒頭にそれぞれ固有の,序と称する部分を備えている。これはリズム様式が両方とも本体部分のそれと相違しており,規模はさほど大きくはないにしても,舞楽の序の概念にかなり近いといえよう。とくに序ノ舞の序は,現在では短くなってしまったが,かつては非常に重要視されていた。序ノ舞という名称も,序部分を備えるということによったものとする説が有力である。そのほか,クリという謡事(うたいごと)を序という立場がある。クリは,クセの導入に用いられる謡事で,リズム様式も非拍節的であるから,やはり,舞楽の序に近い。浄瑠璃には,歌声部を引き出す三味線の短い手に序というのがあり,義太夫節では,いわゆる五段組織の一段目を三つの場面に分割するときは,ひとつひとつを大序(だいじよ),序中(じよなか),序切(じよきり)という。ただし一段目全体を序とはいわず,初段ということが多い。そのほか,箏(そう)の組歌(くみうた)には,序と称する前奏あるいは前置的な歌を奏するものがあり,また,手事物(てごともの)の地歌箏曲において,手事部分のマクラを序ともいうなど,いくつかの例がある。
執筆者:蒲生 郷昭
序 (じょ)
xù
中国の散文のジャンルの一つ。書物や作品のはじめ,またはおわりにその書物や作品を説明するために載せる文章であって,順序だてて叙述するから序と名づけるといわれる。書物の自序は,古くは末尾に置かれた。司馬遷《史記》の太史公自序や《荘子》天下篇はその例である。しかし,ある書物に後人が序を書くときは,前に置くのがふつうで,《詩経》(毛詩)の大序(詩大序)や《尚書》の孔安国(偽作)序がそれである。自序ものちには,前に置かれるようになり,末尾のものは,〈後序〉とか〈跋〉と呼ばれるようになった。作品の序は,その作品の制作由来を記すもので,前に置く。《詩経》(毛詩)と《尚書》の小序,あるいは,班固《両都賦》の自序などがそれである。唐代以後,〈送序〉または〈贈序〉というジャンルができた。本来は,送別会の詩の序であったのが,詩がなくなって,序だけが独立したもので,その一種として人の寿を祝う〈寿序〉がある。
執筆者:清水 茂
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序
じょ
中国の文体の一つ。「はしがき」の意。書物の「序」はすでに中国最古の古典『詩経(しきょう)』『書経』につけられている。著者自身あるいは縁者が、著作物の意図や成立経過を述べたり、紹介、論評して、巻首または巻末(「後序(こうじょ)」とか「跋(ばつ)」とよぶ)につける文章であり、たとえば『史記』の「太史公自序」などが知られる。のち本文につける序が独立し、すべて物事の発端、始末を秩序だてて叙述する単独の文章へと発展した。唐代からの「送序」「贈序」(贈ることば)とよばれる文体は、骨肉知己との惜別を、たとえばその生い立ちから説き起こし、交情深かりし事実、将来への予測、祈求などを順次に叙述し、さりげない一句にも感動をそそるものがあり、唐の韓愈(かんゆ)の「孟東野(もうとうや)を送るの序」などが名高い。そのほか人の長寿を祝う文章で、宋(そう)、明(みん)、清(しん)代に流行した「寿序」がある。なお和歌に用いられる修辞の一種に「序」または「序詞(じょことば)」がある。枕詞(まくらことば)と同じく修飾的性質をもつが、枕詞が多く5音節であるのに対し、「足引の山鳥の尾の(しだり尾の)」などのように、5音節以上の場合が多い。
[杉森正弥]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
序
じょ
Xu
中国,文体の一種。物事のいわれを述べるもの。書物についてのものが最も普通で,書序と呼ばれ,古くは巻末に付したが,のち巻頭におくようになり,巻末にあるものを跋 (ばつ) あるいは後序と呼ぶようになった。『毛詩』 (『詩経』) の大序,小序,『尚書』 (『書経』) の序に始るとされる。そのほか,知人との別離の際にその惜別の気持を述べる送序などがある。
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世界大百科事典(旧版)内の序の言及
【序破急】より
…日本の芸能用語。雅楽の舞楽における当曲(とうきよく)の楽章を代表する序・破・急の三つの語が合成されて熟語となったもの。舞楽の各演目は,前奏,舞人の登場,当曲の奏舞,舞人の退場という4部分から構成される。…
【手事】より
… 初期の手事は,初段,2段などと分割しうる段構造をもち,それらが同拍である場合には,[段合せ]の演出も可能。また,前後に導入部(序・マクラ)と終結部(チラシ)のいずれかまたは双方が付されることもある。地歌三弦曲に箏が合奏されることが進んで,箏の変奏度が高まるにつれて,三弦と箏とが交互演奏を行う掛合(かけあい)の技法が発達した。…
【枕】より
…地歌・箏曲では,手事部において,その中心的な本手事にいたる以前の導入部をいうが,必ずしもすべての[手事]にあるわけではなく,また本手事に比して長大なものや,段構造をもつものまである。〈序〉ともいう。また,〈マクラ〉というほどの独立性がない場合,〈ツナギ〉ということもある。…
【墓誌】より
…本来,中国の文章のジャンルの一つで,墓中に埋め,時代が移り変わっても,墓の主がだれかをあきらかにするための文をいう。通例,墓主の伝記を書いた散文の〈序〉と,墓主を記念賛頌する韻文の〈銘〉とから成るが,どちらか一方を欠くばあいもまれにあり,〈銘〉がなくても〈墓誌銘〉と呼ぶのがふつうである。刻される材料は,土中でも保存されるように,石を使用するのが一般的であるが,塼(せん)や金属,特に銅板が使用されることもある。…
※「序」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」