廃仏毀釈(読み)はいぶつきしゃく

精選版 日本国語大辞典 「廃仏毀釈」の意味・読み・例文・類語

はいぶつ‐きしゃく【廃仏毀釈】

〘名〙 (仏法を廃し、釈迦の教えを棄却するの意で) 仏教を廃絶すること。
(1)中国史上、四四六年(北魏の太武帝)、五七四・五七七年(北周の武帝)、八四五年(唐の武宗)、九五五年(後周の世宗)の四回にわたる仏教弾圧が、三武一宗の法難として有名。いずれも国家財政との抵触、教団の腐敗堕落、道教との確執などを理由とする。
(2)明治初年、政府神道国教化政策に基づいて行なわれた、仏教の抑圧・排斥運動。慶応四年(一八六八神仏分離令が出されると、平田派国学者の神官を中心に仏堂・仏像・仏具・経文などの破壊・焼却が行なわれた。
※第五〇四‐明治元年(1868)六月二二日(法令全書)「然るに賊徒訛言を以、朝廷排仏毀釈これつとむなど申触し、下民を煽惑動揺せしむる由」

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デジタル大辞泉 「廃仏毀釈」の意味・読み・例文・類語

はいぶつ‐きしゃく【廃仏毀釈】

《仏教を廃し釈迦しゃかの教えを棄却する意》明治政府の神道国教化政策に基づいて起こった仏教の排斥運動。明治元年(1868)神仏分離令発布とともに、仏堂・仏像・仏具・経巻などに対する破壊が各地で行われた。→神仏分離

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改訂新版 世界大百科事典 「廃仏毀釈」の意味・わかりやすい解説

廃仏毀釈 (はいぶつきしゃく)

明治初年の神仏分離と神道国教化政策のもとでの寺院,仏像,仏具などの破壊。中国では,北魏の太武帝による446年の廃(排)仏など4回にわたって大規模な廃仏(三武一宗の法難)がなされ,日本でも,1666年(寛文6)に水戸藩と岡山藩で寺院破却が行われた。また長州藩と水戸藩の天保改革にさいして寺院整理や淫祠破却がなされたが,これは明治初年の宗教政策の源流と考えることができる。廃仏毀釈という言葉は,これらすべてを指すともいえるが,一般的には明治初年のそれのことである。

 1868年(明治1)1月,成立したばかりの維新政府は,第1次官制のなかに神祇科をおき,復古神道説の立場の国学者や神道家を登用して宗教政策を担当させた。天皇の神権的権威を確立するために,祭政一致スローガンとされ,同年3月の一連の布告で神仏分離が命じられた。そのなかでも,仏教語を神号とすること,仏像を神体としたり神前に仏具をかざることなどを禁止した3月28日令は,神仏判然令として知られるもので,この布告を待ちうけていたかのように,比叡山麓の日吉山王社では仏像,仏具などのはげしい破壊が行われた。江戸時代の大きな寺社では,僧侶身分の者が高い地位を占め,神職身分の者はそのもとに従属していたから,明治初年の一連の宗教政策は後者の勢力拡大の機会となり,寺院からの神社の独立や神社からの仏教的要素の除去などが全国的に行われた。また,国学や水戸学の影響をうけた人物が藩政の実権をにぎり,藩政改革の一環として徹底的な廃仏をすすめ,藩士はもとより領民にも仏教信仰の放棄を強要して,神葬祭を行わせるような場合もあった。津和野藩苗木藩富山藩,松本藩,佐渡,隠岐などはそうした事例として知られているが,廃仏の動きがはげしくなると,真宗の僧侶・門徒を中心にこれに反対する運動が高まり,菊間藩三河領や越前では,廃仏毀釈に反対する農民一揆がおこった。明治政府は,最初のはげしい廃仏である日吉山王社の事件の直後に,私憤をはらすような破壊行為の禁止を命じ関係者を処分したが,70年12月には地方管庁で勝手に寺院の廃合を行わないように命じて,仏教勢力との妥協をはかった。そのため,地方寺院を廃絶する動きは収束されたが,山岳信仰など神仏習合的な宗教と宗教施設における仏教的要素の除去は,その後にむしろ強化された。また,路傍山間小祠,石仏,石碑などの民俗信仰的な宗教施設の廃絶は,大規模な廃仏毀釈の嵐がすぎてからも,上からの文明開化の風潮のなかでさらに徹底して行われていった。
神仏分離
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百科事典マイペディア 「廃仏毀釈」の意味・わかりやすい解説

廃仏毀釈【はいぶつきしゃく】

明治初年,維新政府の神道国教化政策に基づいて起こった仏教排斥,寺院・仏像・仏具破壊運動。1868年旧3月,太政官布告による神仏判然令によって神仏分離が急激に実施されると,平田派国学者の神官らが中心となって,各地で神社と習合していた寺院の仏堂,仏像,仏具などの破壊・撤去運動を起こし,隠岐のごときは全島の仏寺を破毀して1寺も残さなかった。1875年に信教の自由が保障されたが,この廃仏毀釈によって政府は宗教に対する政治優先の姿勢を確立した。→復古神道
→関連項目大国隆正臥雲辰致葬式東大寺文書仏教

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「廃仏毀釈」の意味・わかりやすい解説

廃仏毀釈
はいぶつきしゃく

一般には仏教を廃毀し,僧侶を排斥する宗教政策,運動,思想をさす。インドでは前2世紀バラモン教のプシャミトラによる仏教徒迫害,13世紀初めのイスラムの侵入によるものがあるが,中国では3世紀以来廃仏の動きがあり,唐の韓愈や宋以後の朱子学派の廃仏論はきびしく,かつその影響も大きかった。中国仏教史で「三武一宗の法難」といわれるのは有名である。これは,北魏の太武帝,北周の武帝,唐の武宗,後周の世宗によって行われた廃仏をいう。日本で廃仏思想が表面化してくるのは江戸時代末期,神道,儒教の学者が神国思想を鼓吹するようになってからで,寺院や仏像の破壊が行われた。特に明治維新後政府によって神仏分離の政策がとられると,多年仏教によって圧迫を受けてきたと考えていた神職者たちは,仏教を排撃し,各地で仏像,経巻,仏具の焼却や除去を行なった。しかしこれらの廃仏運動は,むしろ仏教覚醒の好機であり,日本近代仏教は廃仏毀釈をてことして形成されていった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「廃仏毀釈」の解説

廃仏毀釈
はいぶつきしゃく

排仏毀釈とも。仏教を排斥しようとする政策や行動。江戸時代には儒学者や国学者による僧侶の堕落を指弾した排仏論があり,水戸・岡山両藩では儒教思想や財政危機を背景とした寺社整理が行われたが,一般には1868年(明治元)の神仏分離令を契機に行われたものをさす。神仏分離令は神仏習合の寺社から神と仏を峻別して,神道を国教化することが目的だったが,藩当局の政策的意思や神職・民衆などによって廃仏毀釈が徹底して行われた地域もあった。代表例として津和野・鹿児島・苗木・松本・富山の各藩や佐渡・隠岐など。廃仏毀釈には仏教側の反省を促し,近代的教団へ脱皮させた側面もあった。

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四字熟語を知る辞典 「廃仏毀釈」の解説

廃仏毀釈

仏法を排斥し、釈迦の教えを棄却すること。仏教排斥運動のこと。仏教を廃絶すること。

[使用例] 明治の廃仏毀釈の時、西琳寺が一堂も残さず破却されつくすと共に[井上靖*玉碗記|1951]

[解説] 特に明治初年、政府の神道国教化政策に基づいて行われた、仏教の抑圧・排斥運動をいい、このときに多くの寺院・仏像・経文などが破壊・焼却などのよって失われました。

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防府市歴史用語集 「廃仏毀釈」の解説

廃仏毀釈

 仏教を排除しようとする政策や行動のことです。江戸時代の末までは神仏習合[しんぶつしゅうごう]と言って、日本独自の神をうやまう神道[しんとう]と仏教がいっしょになっていましたが、神道を国の宗教にするために、1868年に神仏分離令[しんぶつぶんりれい]が出され,神道と仏教がわけられました。これによって、とりこわされてしまった寺も多くあります。

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旺文社日本史事典 三訂版 「廃仏毀釈」の解説

廃仏毀釈
はいぶつきしゃく

明治初年,1868年の神仏分離令の実施などによりおこった寺院・仏像・仏具などの破壊運動
平田派国学者や,従来僧侶に圧倒されて不満を持っていた神官らが先頭に立ち,旧弊打破の風潮と結びついて全国的に極端な廃仏運動が展開された。

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世界大百科事典(旧版)内の廃仏毀釈の言及

【神仏分離】より

…さらに,閏4月19日には,神職の者は家族にいたるまで神葬祭とするように定められた。これら諸法令のうち,3月28日令が神仏判然令と呼ばれるもので,それ以後各地で実際に神仏分離や廃仏毀釈が行われ,神社に勤仕していた僧侶が還俗(げんぞく)して神職となったり,職業を失ったりした。また,江戸時代には僧侶身分の者の支配をうけていた神職身分の者が,勢力拡大にこの機会を利用してはげしい廃仏毀釈を行う場合や,地域で藩政担当者などが廃仏毀釈を推進して神葬祭が強制される場合などがあった。…

【仏教】より

…平安時代から続いた神仏習合の風習は禁止され,塔や仏像や仏具が神社から撤去され,社僧は復飾し,寺院と神社は分離した。政府は廃仏令こそ出さなかったが,明治初年,寺領の上地令,宗門改の停止に伴う寺檀制度の解体,旧来の陋習(ろうしゆう)としての祈禱禁止令などをつぎつぎと打ち出し,加えて士族階級の没落や農村人口の都市流入に伴う離檀の増加,滔々として押し寄せてくる西洋の文明開化の思想が他方にあり,仏教界は1872年から74年をピークとして,廃仏毀釈の嵐にさらされた。都市でも農村でも多くの寺院が廃寺となり,僧侶の還俗が続き,優れた仏像や仏具や仏画が狂騒の巷に消失した。…

※「廃仏毀釈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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