明治初年の神仏分離と神道国教化政策のもとでの寺院,仏像,仏具などの破壊。中国では,北魏の太武帝による446年の廃(排)仏など4回にわたって大規模な廃仏(三武一宗の法難)がなされ,日本でも,1666年(寛文6)に水戸藩と岡山藩で寺院破却が行われた。また長州藩と水戸藩の天保改革にさいして寺院整理や淫祠破却がなされたが,これは明治初年の宗教政策の源流と考えることができる。廃仏毀釈という言葉は,これらすべてを指すともいえるが,一般的には明治初年のそれのことである。
1868年(明治1)1月,成立したばかりの維新政府は,第1次官制のなかに神祇科をおき,復古神道説の立場の国学者や神道家を登用して宗教政策を担当させた。天皇の神権的権威を確立するために,祭政一致がスローガンとされ,同年3月の一連の布告で神仏分離が命じられた。そのなかでも,仏教語を神号とすること,仏像を神体としたり神前に仏具をかざることなどを禁止した3月28日令は,神仏判然令として知られるもので,この布告を待ちうけていたかのように,比叡山麓の日吉山王社では仏像,仏具などのはげしい破壊が行われた。江戸時代の大きな寺社では,僧侶身分の者が高い地位を占め,神職身分の者はそのもとに従属していたから,明治初年の一連の宗教政策は後者の勢力拡大の機会となり,寺院からの神社の独立や神社からの仏教的要素の除去などが全国的に行われた。また,国学や水戸学の影響をうけた人物が藩政の実権をにぎり,藩政改革の一環として徹底的な廃仏をすすめ,藩士はもとより領民にも仏教信仰の放棄を強要して,神葬祭を行わせるような場合もあった。津和野藩,苗木藩,富山藩,松本藩,佐渡,隠岐などはそうした事例として知られているが,廃仏の動きがはげしくなると,真宗の僧侶・門徒を中心にこれに反対する運動が高まり,菊間藩三河領や越前では,廃仏毀釈に反対する農民一揆がおこった。明治政府は,最初のはげしい廃仏である日吉山王社の事件の直後に,私憤をはらすような破壊行為の禁止を命じ関係者を処分したが,70年12月には地方管庁で勝手に寺院の廃合を行わないように命じて,仏教勢力との妥協をはかった。そのため,地方寺院を廃絶する動きは収束されたが,山岳信仰など神仏習合的な宗教と宗教施設における仏教的要素の除去は,その後にむしろ強化された。また,路傍や山間の小祠,石仏,石碑などの民俗信仰的な宗教施設の廃絶は,大規模な廃仏毀釈の嵐がすぎてからも,上からの文明開化の風潮のなかでさらに徹底して行われていった。
→神仏分離
執筆者:安丸 良夫
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排仏毀釈とも。仏教を排斥しようとする政策や行動。江戸時代には儒学者や国学者による僧侶の堕落を指弾した排仏論があり,水戸・岡山両藩では儒教思想や財政危機を背景とした寺社整理が行われたが,一般には1868年(明治元)の神仏分離令を契機に行われたものをさす。神仏分離令は神仏習合の寺社から神と仏を峻別して,神道を国教化することが目的だったが,藩当局の政策的意思や神職・民衆などによって廃仏毀釈が徹底して行われた地域もあった。代表例として津和野・鹿児島・苗木・松本・富山の各藩や佐渡・隠岐など。廃仏毀釈には仏教側の反省を促し,近代的教団へ脱皮させた側面もあった。
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…さらに,閏4月19日には,神職の者は家族にいたるまで神葬祭とするように定められた。これら諸法令のうち,3月28日令が神仏判然令と呼ばれるもので,それ以後各地で実際に神仏分離や廃仏毀釈が行われ,神社に勤仕していた僧侶が還俗(げんぞく)して神職となったり,職業を失ったりした。また,江戸時代には僧侶身分の者の支配をうけていた神職身分の者が,勢力拡大にこの機会を利用してはげしい廃仏毀釈を行う場合や,地域で藩政担当者などが廃仏毀釈を推進して神葬祭が強制される場合などがあった。…
…平安時代から続いた神仏習合の風習は禁止され,塔や仏像や仏具が神社から撤去され,社僧は復飾し,寺院と神社は分離した。政府は廃仏令こそ出さなかったが,明治初年,寺領の上地令,宗門改の停止に伴う寺檀制度の解体,旧来の陋習(ろうしゆう)としての祈禱禁止令などをつぎつぎと打ち出し,加えて士族階級の没落や農村人口の都市流入に伴う離檀の増加,滔々として押し寄せてくる西洋の文明開化の思想が他方にあり,仏教界は1872年から74年をピークとして,廃仏毀釈の嵐にさらされた。都市でも農村でも多くの寺院が廃寺となり,僧侶の還俗が続き,優れた仏像や仏具や仏画が狂騒の巷に消失した。…
※「廃仏毀釈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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