仏道の修行に資する器具類の総称。宗教一般の祭祀(さいし)に用いられる器具類を総称して祭具というが、仏具も広義には祭具に属する。祭具は宗教儀礼と有機的に結合している。すなわち、祭場の荘厳(しょうごん)に用いられたり、神的存在と人間主体とが交わる通路づけの役割を果たしたり、また祭具自体が宗教的象徴物となるなど、さまざまな機能を担って、地上に聖なる儀礼的空間を現出させる。仏具も祭具と同様の機能をもつ器具である。
[藤井正雄]
仏道の修行の場は伽藍(がらん)で、伽藍は仏堂と僧房とからなる。仏堂は、仏の浄土である仏国土の象徴であるから、浄土にふさわしい飾り、仏の威徳を表す器具を荘厳具という。荘厳具は仏を供養(くよう)するための供養具でもある。どんな簡素な仏堂にも仏前に荘厳・供養具として置かれている三具足(みつぐそく)(香炉(こうろ)、燭台(しょくだい)、華瓶(けびょう))は仏具の基本となる。仏前に奉仕する僧の持ち物および僧服を僧具という。大乗文献では『梵網経(ぼんもうきょう)』下巻に、修行僧がつねに携帯すべき「三衣六物(さんねろくもつ)の道具」として楊枝(ようじ)(歯を磨き、口臭を除く)、澡豆(そうず)(手を洗うための豆の粉)、三衣(さんね)、瓶(びょう)(飲用水用と洗水用の2種)、鉢、座具、錫杖(しゃくじょう)、香炉、漉水嚢(ろくすいのう)(水中の虫を殺さぬため水を漉(こ)す道具)、手巾(しゅきん)(汗拭(ふ)き)、刀子(とうす)(かみそり、つめ切り、鋏(はさみ))、火燧(かすい)(火打ち道具)、鑷子(にょうす)(毛抜き)、縄牀(じょうしょう)(縄張りの椅子(いす)、今日の曲彔(きょくろく)にあたる)、経、律(『梵網経』)、仏像、菩薩(ぼさつ)形像の、いわゆる比丘十八物(びくじゅうはちもつ)をあげている。僧が法会(ほうえ)(法要)を営むことは重要な修行の一つであり、威儀を整えた立ち居ふるまいが要求される。このような僧の威厳を象徴する持ち物をとくに威儀具と称する。また、僧具に含まれる僧服も、法会に着用する荘厳服をとくに法衣(ほうえ)とよんで区別する。このように、広義には〔1〕荘厳・供養具、〔2〕僧具、〔3〕法衣、〔4〕威儀具に、〔5〕密教独自の仏具としての密教法具(略して法具)の5種類を総称して仏具というのである。しかし、5種の分類はいちおうの区別であって、一つの器具が2種以上の機能を兼ねることも多いので厳密には区別できない。なお仏具の分類については、たとえば『和名抄(わみょうしょう)』では仏塔具、伽藍具、僧坊具、『古事類苑(るいえん)』では仏具(法具)、僧具、僧服の三部に分類するなど、同じ仏具でも文献によって部門を異にし、一定の分類法はみられない。
[藤井正雄]
便宜上仏具を、(1)仏の荘厳・供養具と、(2)修行・法会に用いられる僧具・法衣・威儀具・法具の仏具、とに分けることができる。しかし、狭義には器具に限定して、法衣を除いていう場合もある。ここでは狭義にとって具体的にみてみる。仏の荘厳・供養具としては、舎利(しゃり)塔、厨子(ずし)、須弥壇(しゅみだん)、天蓋(てんがい)、幢幡(どうばん)、打敷(うちしき)、水引(みずひき)、華鬘(けまん)、礼盤(らいばん)、経机(きょうづくえ)、三具足、五具足(ごぐそく)(香炉と、燭台・華瓶各一対)などがあげられる。密教の荘厳具として密壇(大壇)、護摩壇などがこれに加わる。法会の仏具は、鳴物といわれる梵音具と僧の持ち物としての僧具とに区分できる。梵音具には梵鐘、喚鐘(かんしょう)、鏧(きん)、引鏧(いんきん)、鈴(れい)、磬(けい)、鐃鈸(にょうばつ)、太鼓、木魚などがある。浄土教系の鉦鼓(しょうこ)、伏鉦(ふせがね)、禅系の雲版(うんばん)、日蓮(にちれん)系の木鉦(もくしょう)などがこれに加わる。僧具としては数珠(じゅず)、扇(おうぎ)、華籠(けこ)、柄香炉(えごろ)、座具、如意(にょい)、錫杖、払子(ほっす)、中啓(ちゅうけい)、警策(きょうさく)、曲彔などである。このほか金剛杵(こんごうしょ)、金剛盤、金剛鈴、羯磨(かつま)、六器などは密教法具として一括される。このほか、修験道(しゅげんどう)法具として一括される仏具として、頭襟(ときん)・法螺(ほら)・笈(おい)・金剛杖、最多角(いらたか)念珠などのいわゆる山伏十二道具・山伏十六道具といった峰入(みねいり)道具、儀礼仏具、入峰斧(にゅうぶおの)・三鈷柄剣(さんこえけん)・碑伝(ひで)(入峰修行の証(あかし)として峰中の宿に立てた角柱の標識)などの峰入用具がある。
[藤井正雄]
『蔵田蔵編『仏具』(『日本の美術16』1967・至文堂)』▽『石田茂作監修『仏具』(『新版仏教考古学講座 第五巻』1976・雄山閣出版)』▽『清水乞編『仏具辞典』(1978・東京堂出版)』
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…現在では広義に祭器具として一括して祭具としている。
[仏具]
仏教で用いられるあらゆる道具を仏具あるいは法具とよぶ。どんな簡素な仏堂にも仏前に荘厳・供養具として置かれている三具足(みつぐそく)(香炉,燭台,華瓶)は仏具の基本である。…
…この意味での〈道具〉の語は室町時代以後の日本語で,それ以前や中国の漢語では仏教で用いる器具を指した。たとえば《讃岐典侍日記》では仏具の意味で用いられている。これが一般的な道具を指すようになったのは禅僧によるらしく,狂言には現在の用法が見られる。…
…この系列の美術に羅漢像や祖師像などの肖像や,僧侶自身の墨跡がある。また僧によって仏事を営むための仏具,供養具,梵音具,芸能具も多岐にわたり,僧侶の生活用具も重視された。インドでは僧の生活する僧院と,礼拝供養の対象である仏塔とは別々に発生し,やがて両者は結びついて伽藍(がらん)となり,前者は僧房,講堂,経蔵,鐘楼,後者は塔,金堂となって寺院を形成する。…
※「仏具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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