日本大百科全書(ニッポニカ) 「ごみ処理」の意味・わかりやすい解説
ごみ処理
ごみしょり
日常生活や事業活動に伴って生じるごみを、公衆衛生の向上を図り、生活環境を保全するために保管、収集、運搬、中間処理、あるいは最終処分すること。中間処理とは、ごみの減容化、安定化、資源化を目的として、物理的または生物学的な方法により形態、内容、性質を変化させることをいい、焼却、高速堆肥(たいひ)化(コンポスト化)、資源選別などが行われている。最終処分とは最終的に環境中に排出することをさし、具体的には埋立て処分と海洋投入処分(2007年から原則禁止)がある。
[田中 勝]
ごみ
ごみは生活または事業活動に伴って発生する不要の固形物をいう。ごみの取扱いについては、おもに「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法、1970年制定)により定められている。それによれば、放射性物質や放射能に汚染されたものを含まない一般の廃棄物のうち産業廃棄物以外のものを一般廃棄物という。さらに一般廃棄物のうち屎尿(しにょう)や生活雑排水等の液状廃棄物を除いたものを一般的に「ごみ」とよぶ。ごみのうち事業活動に伴って発生するものを事業系ごみといい、それ以外を生活系ごみまたは家庭系ごみとよぶ。
ごみはその大きさ、形状により粗大ごみと一般ごみ(普通ごみ)とに分けられる。粗大ごみは机、たんすなど家具類、自転車などで、不定期に排出される大型ごみをいう。このほかにもごみの素材や特質によって不燃ごみ、可燃ごみ、不適ごみ(一般的な処理に適さないごみをいい、通常、焼却不適ごみを意味する)とに分けている自治体もある。また、排出されたのちどのような処理を施すかによって、焼却ごみ(または可燃ごみ)、埋立てごみ(または不燃・不適ごみ)、資源ごみ(古紙、金属、ガラス、ペットボトル、古布、プラスチック製容器包装、紙製容器包装など)、有害ごみ(乾電池、蛍光灯、体温計など)、粗大ごみなどに分けている自治体もある。容器包装リサイクル法の施行により、自治体においてガラス瓶、ペットボトルなどを資源ごみとして回収して生産者に引き取ってもらう事例が増えている。また家電リサイクル法の施行により、エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機の4品目は小売店を通じて回収・再商品化されるようになった。
[田中 勝]
ごみ処理問題
一般にごみの存在は、悪臭の発生や、ネズミ、ハエなどの繁殖につながり、生活環境を悪化させ、公衆衛生上望ましくないばかりか、貴重な空間を占有して人に不便を与え、美観を損ね、不快感をもたらす。このようにごみの存在自体が生活環境を阻害するので、保管、収集・運搬、中間処理、最終処分という一連のごみ処理を行うのが普通である。
かつては食生活に伴い発生する厨芥(ちゅうかい)類がごみの大部分であり、動物の餌(えさ)にしたり、堆肥にして肥料として使うなど自己処理で対応ができたが、第二次世界大戦後の急速な経済成長に伴い、大量生産大量消費型社会構造が生まれ、大量のごみを発生させるようになった。また消費者の意識、需要の変化に応えて、生産者は食品をはじめ種々の商品を大量かつ安全に、そして消費者の使用、消費に便利なように缶詰、瓶詰、その他使い捨て容器や包装(紙、プラスチックなど)に入れて供給するようになると、ときとして本来の役割を超えた過剰包装もみられるようになった。それに伴い、ごみの発生量はますます増大し、ごみの組成も以前の厨芥を中心とするものから、しだいに紙、プラスチック類、ガラス、金属の多いものに変わってきた。日本のごみの排出量は年々増加し、2000年度(平成12)には過去最高となる1人1日約1200グラム、日本全体では年間約5500万トンを記録した。
ごみ発生の増加と日本の経済社会構造の変化は、さまざまなごみ処理問題を顕在化していった。通常の処理方式、たとえば焼却などの中間処理、埋立て処分においても、大気汚染、埋立地からの浸出液による水質汚濁などの問題が発生し、これらに対処するために処理費も急増した。また、ごみ処理施設の用地確保も問題になっており、とくにかなりの空間を必要とする埋立て処分場の適地は減少し続け、新たな用地の確保がむずかしくなっている自治体が多い。また、使い捨て商品の象徴として人目につきやすい空き缶、空き瓶の散在ごみなどは、その処理責任が製造・流通業者にも追及され、販売商品がごみになった際の後始末までを考慮した商品のデザイン、製造、販売が求められている。また、ごみ処理の観点から市民にも食生活も含めた生活様式の見直しが要求されており、社会でも家庭でもごみを出さないようにする、リデュースReduce(発生抑制)、リユースReuse(再使用)、リサイクルRecycle(再生利用)という3Rへの対応が強く求められている。
1990年代から、ごみに関する法制度が整備されるなかで3Rの取組みは着実に日本社会に浸透してきており、ごみ処理問題も新たな局面を迎えている。自治体や市民におけるごみの分別の徹底化、減量化の努力が行われており、企業においてもISO14000や環境会計の導入などごみを発生させない仕組みづくりが行われている。またごみ処理の現場においても、新聞・雑誌等資源ごみの集団回収に加えて、容器・包装の回収も増え、資源化の比率も高まりつつあり、2002年度に15.9%であったリサイクル率は、2009年度には20.5%にまで増加している。2000年度以降、日本におけるごみの排出量は年々減少を続けており、2009年度のごみの排出量は1人1日約1000グラム、日本全体では年間約4600万トンであり、過去最大を記録した2000年度に比べておよそ2割減少している。しかし、依然として最終処分場や焼却施設の立地問題や環境汚染などの問題が解決しておらず、いっそうの3R推進循環型社会への努力が必要とされている。
[田中 勝]
ごみ処理の状況
ごみ処理は原則として市町村が、その区域全域を対象に、一定の処理計画を定めたうえで行っている。ごみ処理は行政組織の直営または民間業者への委託により行うのが通例であるが、これらの方式による処理が困難な場合には、許可業者である一般廃棄物処理業者が処理している。
(1)ごみ処理の基本 ごみ処理の基本プロセスは、まずごみの発生をできるだけ抑制すること。次に、発生したごみをできるだけ再使用、再生利用し、処理対象ごみを減量すること。それらがむずかしいごみを焼却などによる中間処理で安定化と同時に減容化して、できればエネルギー回収すること。そして最後に、衛生的に埋立て処分することである。埋立て処分地の新規確保が非常に困難なことから、可燃物は埋立てを回避して全量焼却しているところが多い。
(2)ごみの収集 ごみ収集は自治体の直営、委託業者または許可業者により実施されている。その比率は2009年度(平成21)には直営27.3%、委託46.2%、許可26.5%となっており、直営の比率(1993年度で45.9%)は年々減少してきている。収集は車両によるのがほとんどで、一部大型の車両または船舶により中継輸送して、ごみ処理施設まで運搬している。一部の自治体では、ごみを地下に埋設したパイプの中に入れ空気で輸送している。これをパイプ収集とかパイプ(または空気)輸送とよんでいる。
(3)ごみの処理方法 ごみ処理の方法として、焼却することにより減容化、安定化し、その焼却残渣(ざんさ)を埋め立てる方法が一般的である。処理方法の経年的推移をみると、焼却処理される量は1998年度(平成10)以降は約4000万トンでほぼ一定となっていたが、2004年度から減少し始め、2009年度には約3500万トンとなっている。直接最終処分されるものは、1993年度が712万トンであったのに対して、2009年度で72万トンと10分の1に減少している。計画処理対象ごみ(計画収集ごみと直接搬入ごみ)について、2009年度の処理内訳をみると、79%が直接焼却、1.6%が直接埋立てされており、焼却残渣量を含めた埋立て量は処理対象ごみの12%、年間約507万トンが埋立て処分されている。
(4)ごみ処理施設 ごみ処理の中心的施設となっているごみ焼却処理施設などは2009年度で1243施設であり、その総処理能力は1日当り18.6万トンとなっており、近年、施設数、総処理能力ともに減少傾向にある。
ごみは最終的には埋立て処分されるが、その埋立て処分地は2009年度末で1800か所あり、残余容量は1億1604万立方メートルが確保されているが、人口集中の都市部では残余容量はわずかである。
[田中 勝]
ごみ処理の今後
(1)発生源での対応 ごみ発生の抑制と適正処理を推進するため、家庭では厨芥の水切り、可燃・焼却不適・資源ごみなどの分別排出が要請されている。
(2)収集・運搬 プラスチック袋に入れたごみは、いくつかの世帯で1か所のごみ集積所(ステーション)に集め、そこから車両に積み込むステーション収集が主体である。今後、広域化等により輸送が長距離化する場合には、中継輸送を行い効率化を図る必要がある。
(3)中間処理 ごみ焼却による余熱利用が増加するものと思われる。とくに1日当り200トン以上処理できる炉では発電も行われている。今後の焼却施設は、広域処理によるより大きな施設で、高効率発電技術により、売電量を増やすことが求められる。
(4)最終処分 人口が集中する都市部では埋立て処分場の確保が極端に困難なため、広域的に最終処分場を確保しなければならなくなってきた。近畿圏域では大阪湾に広域廃棄物埋立て処分場が建設されており、フェニックス計画とよばれている。今後はますます最終処分場の確保難という制約条件から、処分量削減に向けた中間処理が求められると考えられる。
[田中 勝]
関連法規
循環型社会を構築し、ごみゼロ社会を実現するためのリサイクル関連法制度の整備が進められてきた。1970年(昭和45)に制定された廃棄物処理法は、1991年(平成3)、1997年、2000年(平成12)の3回にわたって大きな改正が行われ、廃棄物へのさまざまな対応が強化された。さらにリサイクル促進に向けて、ガラス瓶やペットボトルなどの容器包装廃棄物を対象にした「容器包装リサイクル法」(1995年、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)、廃家電製品を対象にした「家電リサイクル法」(1998年、特定家庭用機器再商品化法)が制定された。2000年には循環型社会形成に向けての基本法といえる「循環型社会形成推進基本法」、建設廃棄物のリサイクルのための「建設リサイクル法」(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)、食品廃棄物のリサイクルのための「食品リサイクル法」(食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律)などが制定された(2001年4月に施行)。2002年7月には、自動車の廃車時における適正処理とリサイクルおよび再資源化を推進し、環境を保全、循環型社会をつくることを目的として、「自動車リサイクル法」(使用済自動車の再資源化等に関する法律)が成立した(2005年完全施行)。これらの法律が整備されることで、製造事業者が製品生産段階からリサイクルに関して責任を負う環境配慮型産業の育成が推進されることになった。
また、家庭や公共施設などで、ごみを焼却する際に発生して大きな社会問題となったダイオキシンについては、「ダイオキシン類対策特別措置法」(1999)が制定された。
[田中 勝]
『田中勝著『新・廃棄物学入門』(2005・中央法規出版)』