建物の区分所有(読み)たてもののくぶんしょゆう(その他表記)condominium

翻訳|condominium

改訂新版 世界大百科事典 「建物の区分所有」の意味・わかりやすい解説

建物の区分所有 (たてもののくぶんしょゆう)
condominium

建物所有の一形態で,1棟の建物を数個の部分に区分して所有すること。区分所有,区分有ともいう。これには,縦に区分する場合,横に各階ごとに区分する場合,横と縦に区分する場合の三つがあり,あとの二つの区分所有を階層所有propriété de l'étage(フランス語),Stockwerkseigentum(ドイツ語)ということがある。いわゆるマンション,タウンハウスなどのような集合住宅multiple dwelling houseとか共同建築ビル,再開発ビルなどは区分所有,とくに階層所有であることが多い。

ローマ法,ゲルマン法に由来するとされる。しかし,1804年のフランス民法はごく簡単な規定を1ヵ条おいただけであり,96年のドイツ民法では禁止するなど,かつては,立法上,概して冷淡に扱われた。社会的に注目され法制度的に整備されるようになったのは比較的最近で,フランスでは1938年に従来の民法規定を廃止して特別法を制定したが,65年に大改正があり,旧西ドイツでは1951年に特別法を制定するなど,現在ではアメリカ合衆国その他世界の多くの国でも広く行われている。

 日本では,1955年前後ころから,都市での人口集中,地価上昇などが顕著となるにつれて建築物の立体化・高層化が進み区分所有建物が増加するに至ったが,その複雑な法律関係に対処するには,従来の簡単な民法規定(208条)では不十分であるため,62年にそれを削除して新たに〈建物の区分所有等に関する法律〉を制定したが,83年に内容・体裁ともに大幅な改正があった。この法律は区分所有法とかマンション法などともよばれる。つぎに,この法律の主要な点を概観する。

(1)専有部分共用部分 区分所有建物は,それぞれ独立して住居,店舗,事務所などの用に供される数個の建物部分とこれ以外の建物部分に分けられる。前者専有部分,後者が共用部分である。専有部分は各区分所有者の専有で,その権利区分所有権という。共用部分には,1棟の建物全体を支える骨格部分(軀体部分)とか共同の廊下,階段室,エレベーターなどのような性質・構造上当然の共用部分と共同の集会室,別棟の付属建物などのように規約で定めてはじめて共用部分とされるものがあるが,どちらも,共用する区分所有者の共有である。各人の共有持分は専有部分の床面積割合による。共有物分割請求権は認められない(1条,2条1~4項,4条,11~14条)。

(2)敷地 区分所有建物が存在する土地は法律上当然の敷地であるが,このほか規約で定めてはじめて敷地とされる土地もある。どちらの敷地であっても,その所有権や借地権は区分所有者全員で共有するのが普通である。この共有は共用部分の共有とだいたい同じである。敷地についての各人の共有持分を敷地利用権という。専有部分,共用部分の共有持分,敷地利用権の三つは不可分一体の関係にあり分離処分できないのが原則である(2条5,6項,5条,15条,22~24条)。

(3)管理組合 建物,敷地,付属施設の管理を目的とする管理組合は区分所有の成立と同時に法律上当然に成立する。区分所有者全員が当然に組合員となり,これには区分所有者の相続人,譲受人などの承継人も含まれる。管理組合は集会を開き,規約を定め,管理者をおくことができる(3条)。集会では,区分所有者と議決権(専有部分の床面積割合)の各過半数による決議が原則であるが,共用部分・敷地の変更,規約の設定・改廃などの重要事項は,区分所有者と議決権の各4分の3以上の多数による決議である(17条,21条,31条,39条)。規約は,建物,敷地,付属施設の管理・使用に関する区分所有者相互間の事項を定めたものである(30条)。管理者は,対外的には区分所有者を代理し,区分所有者のために訴訟当事者として訴訟を追行する権限をもつ(26条2項前段,同条4項)。管理組合は,区分所有者が30人以上いる場合には,区分所有者と議決権の各4分の3以上の多数による集会決議を経て,法人として登記できるが,この管理組合法人では,管理者に代えて理事,監事をおかなければならない(47条1~4,9項,49条,50条)。

(4)延滞債務,組合債務,損害保険金 管理費,組合費,修繕積立金などの延滞区分所有者がいる場合,管理者,管理組合法人などは,その延滞者の区分所有権について先取特権を行使(競売)し,その売得金から延滞債務の弁済をうけることができる。そのような延滞者から区分所有権を譲り受けた者(特定承継人)は,その延滞債務について,知・不知にかかわらず,延滞者と連帯して管理者,管理組合法人などに弁済する責任がある(7条,8条)。管理者や管理組合法人が業務上第三者に対して負担する債務(組合債務)については,最終的には,各区分所有者が専有部分の床面積割合で分担して第三者に弁済する責任がある(29条,53条)。共用部分,付属施設などに付された損害保険金の請求・受領については,管理者,管理組合法人が当然に区分所有者を代理する(26条2項後段,47条6項)。

(5)専有部分の占有者の権利義務 専有部分の占有者(賃借人など)は,建物,敷地,付属施設の使用の面では,区分所有者なみに扱われる。したがって,建物の保存に有害な行為その他区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないし,規約,集会決議で定められたことは守らなければならない。しかし,その反面,自分に法律上利害関係ある事項が議題とされる集会には出席して意見を述べることができる(6条3項,44条,46条2項)。

(6)共同の利益に反する行為をする者に対する措置 建物の保存に有害な行為その他区分所有者の共同の利益に反する行為をする区分所有者がいる場合には,この者に対し,他の区分所有者全員,管理者,管理組合法人などは,その違反の程度ないし悪質の度合に応じて,(a)違反行為の停止・予防,(b)専有部分の使用禁止,(c)区分所有権の競売のどれかを裁判所に訴求できる。また,違反行為者が専有部分の占有者である場合には,この者に対し,区分所有者全員,管理者,管理組合法人などは,その違反の程度ないし悪質の度合に応じて,(a)違反行為の停止・予防,(b)占有する専有部分の明渡しのどちらかを裁判所に訴求できる。この(a)の措置は区分所有者と議決権の各過半数による集会決議,それ以外の措置は区分所有者と議決権の各4分の3以上の多数による集会決議を経ることが必要である(57~60条)。

(7)建替え 区分所有建物の老朽化,一部滅失による建替えは,区分所有者と議決権の各5分の4以上の多数による集会決議があればできる。建替えは,これに賛成・参加する区分所有者が中心となって行うが,デベロッパー,ゼネコン(大手総合建設会社)なども参画できる。ただし,建替えに反対し参加しない区分所有者に対しては,その区分所有権を時価で買い取って引渡しを受けることを要する。これが区分所有権売渡請求権で,一方的に売り渡せと請求すれば,それで法律上当然に売り渡したことになる(62~64条)。

(8)建物の設置・保存の瑕疵(かし)に関する推定 例えば,マンションの給水設備の設置・保存の瑕疵による水洩れがあって,特定の専有部分の占有者・区分所有者に損害が生じたが,その瑕疵のある部分が給水設備のうちの共用部分に属する部分なのか,専有部分に属する部分なのかが不明であるというような場合には,共用部分に瑕疵があるものと推定され,第一次的には共用部分の占有者,第二次的には共用部分を共有する区分所有者全員が損害賠償の責任を負う(9条)。

(9)団地 数棟の建物(区分所有建物とは限らない)が所在する一団地内に,それらの建物所有者の共有物がある場合には,この共有物の管理を目的とする団地管理組合が法律上当然に成立する。建物所有者全員が当然に組合員で,これには,相続人,譲受人などの承継人も含まれる。団地管理組合も上記(3)の管理組合とだいたい同様に集会を開き,規約を定め,管理者をおくことができる。また,建物所有者が30人以上いる場合には,建物所有者と議決権(共有物の共有持分割合)の各4分の3以上の多数による集会決議を経て法人として登記することができる。これが団地管理組合法人で,上記(3)の管理組合法人とほぼ同様である(65~68条)。
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建物の区分所有【たてもののくぶんしょゆう】

区分所有権

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