建築製図(読み)けんちくせいず

改訂新版 世界大百科事典 「建築製図」の意味・わかりやすい解説

建築製図 (けんちくせいず)

建築物を図面に表示することおよびその手法をいう。建築製図とともに製図において主要な位置を占めている機械製図と同じく,その裏づけとなっている学問画法幾何学である。したがって機械製図と共通する面も多いが,一方では建築製図独自の特徴をもつ。建築製図は,基本的には次のような三つの特徴をもっているということができる。(1)建築物という内部に空間をもった三次元の立体を二次元の平面に図示するものであること,(2)図示する対象は,巨大な寸法をもつ建物全体の形状から,小さな寸法の細部に至る幅広い寸法をもつものであること,(3)建築物は美的表現を併せもった構築物であり,したがってときに建築製図は,単に寸法,形状の輪郭を示すだけでなく,その美的特質を表現する必要があることである。(1)(2)は機械製図でも,その対象とするものによってはあてはまるが,(3)の特徴は機械製図には見られないものである。

第1の特徴,すなわち三次元の立体あるいは空間を平面上に示す方法として,立面図断面図平面図,あるいは透視図,等測投影図などがある。立面図は,建物の立面をそれに平行な平面に投影した図であって,建物外面各部の高さと幅が示されるが,奥行きは示されない。断面図とは,建物の断面をそれと平行な面に投影した図であり,通常断面図といった場合,それは建物の垂直断面図であり,壁,はり,床,屋根,天井などの断面が示される。平面図は,建物の平面(床面)をそれに平行な平面に投影した図であり,通常床より約1mほど上部での壁,柱などの水平断面も同時に示される。したがって,正確には,平面図とは平断面図のことである。以上の図面では,つねに上下方向の寸法と左右の寸法のみが示され,奥行方向の寸法は示しえないが,三次元の寸法を,二次元の平面に同時に示す方法が,透視図法あるいは等測投影図である。

 第2の特徴,すなわち建築物のもつ大小さまざまの寸法を適切に表示するために,建築製図には,いろいろな縮尺が用いられる。大きくは建物の全体図や配置図を示すために,1/200,1/500,ときには1/1000以上の大きな縮尺の図面が用いられる一方,小さくは建物の細部を示すためには1/5,1/2,ときには現寸といった小さな縮尺の図面も用いられるのである。

 第3の特徴,すなわち建築が美的表現を伴ったものであることによって,その建築物の美的・造形的特徴を示すのに適切な,さまざまな表現方法がくふうされている。建築物の輪郭線を図示するだけでなく,ときにはその陰影や色彩,素材の特徴や周辺の風景が表される。またそれを描くにあたっても,インキや鉛筆だけでなく,絵具や色鉛筆,さらに最近ではスクリーントーンやカラートーンといったはり付材,あるいはエアブラシなどが用いられているが,これらは表現上の多様な要求から生み出されてきたものである。

建築設計図は,基本設計図と実施設計図の2種類に大別される。基本設計図は建築物の基本形態を示すもので,比較的大きな縮尺の平面図,立面図,あるいは透視図,ときには構成のシステムを示したダイヤグラムなどを用いて表される。立面図,平面図,断面図などは,大きい建物の場合は1/200ないし1/100の縮尺で住宅など小さい建物の場合は1/100ないし1/50で描かれることが多い。基本設計図は必ずしも定規を用いた正確な線で描かれる(ハードライン・ドローイング)とは限らず,雰囲気を示すために自由なスケッチ風の描法で描かれたり(フリーハンド・ドローイング),着色されたり,陰影をつけられたりすることも多い。こうした自由で多様な表現方法がとられることによって,基本設計図は建築家の個性や思想,方法を明りょうに表現するものとなっていることが多い。

 実施設計図は,建築工事が実際に行えるように,全体から細部までを詳細に示した図面であって,これは大別して,建築図,構造図,設備図の三つとなる。建築図は,建築全体にわたってその形状寸法,材料などを示したものであり,一般的に配置図,全体立面図,全体平面図,全体断面図,矩計(かなばかり)図,平面詳細図,室内展開図,特殊詳細図,天井伏図(ふせず),建具図といった種類の図面からなる。配置図は,敷地内における建物の配置,位置関係を示したものであり,1/500から敷地の大きさに応じて,それ以上の大きな縮尺の図面が用いられるが,小さな建物では,1階平面図によって示されることもある。建物の外部計画,造園計画などは,この図面において示される場合が多い。全体立面図は建物全体の各立面を示したもので,通常東西南北の四面が描かれる。全体平面図は建物全体の平面を各階ごとに示したものである。全体断面図は建物全体の縦断面図であり,通常長手と短手の2方向が描かれる。以上はまとめて一般図と呼ばれ,基本設計図と同じく,1/100~1/200の縮尺で示されることが多い。矩計図とは,建物の主要な壁面の断面のみを詳しく示したものであり,1/20の縮尺が用いられることが多い。小さい建物,例えば小住宅などでは,全体断面図を兼ねることもある。平面詳細図は,主要な部屋を取り出し,その平面の詳細を1/50から1/20の縮尺で描いたものであるが,小住宅などでは,全体平面図がすでにその用を果たしているので,省略されることも多い。室内展開図は各室ごとにその室内の壁面の立面図を描いたものである。特殊詳細図は矩計図で示されなかった特殊な詳細を示したものであり,とくに意匠上重要なものが多い。天井伏図は天井の形状を示す図で,通常床面上の鏡映図として全体平面図と同じ縮尺で描かれる。建具図は,窓,戸,扉といった建具のみを取り出し,それを種類ごとにまとめて示したものである。

 構造図は,構造体のみを取り出し,その架構法および部材の寸法を示したものであり,設備図は,電気設備,給排水設備,空気調和設備など,建築設備を部門ごとに取り出し,そのシステムおよび機器について示したものである。

 実施設計図は,トレーシングペーパーの上に,硬い鉛筆で描かれる場合が多いが,最近では,製図用のプラスチックフィルムの上に特殊な鉛筆またはインキで描かれることも多い。いずれの場合においても,実施設計製図においては,設計中の修正加筆が容易で,かつ完成後青写真のプリントが可能なものでなければならない。
CAD製図
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百科事典マイペディア 「建築製図」の意味・わかりやすい解説

建築製図【けんちくせいず】

建物その他の建造物をつくるための製図。平面図,立面図,断面図,矩計(かなばかり)図(建物の主要な壁面の断面のみを詳しく示したもの)などが作製される。平面図は機械製図の場合と異なり,建物のほぼ中央部を水平に切断したときの断面図で表される。

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