冠婚葬祭や祝宴に用いる菓子。宴席の引物とする装飾菓子で、引菓子ともいう。祝儀は、練り切り、求肥(ぎゅうひ)などの上菓子や羊かん、紅白のまんじゅうや落雁(らくがん)、不祝儀は、焼きまんじゅうや緑白のまんじゅう、落雁が多く使われる。最近は落雁にかえて、砂糖で慶事、仏事にちなんだ形につくり、引物に用いることが多い。江戸時代に金花糖を用いた例が復活の傾向にある。
引物は引出物の意で、平安時代に始まった慣習である。賓客をもてなす真情の表現として物を贈る形式が生まれたが、その最高の贈り物は馬であった。その後、刀剣や衣服、織物、金品から、しきたりの普及に伴って、宴席の膳(ぜん)に添えて出す肴(さかな)となった。これを引肴といったが、肴より日もちする菓子が重宝され、引菓子が使われるようになったのである。この傾向は江戸時代中期には各階層に浸透し、分相応の引菓子が用いられた。引菓子を式菓子ともいうのは、幸福にあやかり(祝儀)、危難を逃れたい(不祝儀)願望から神仏への祈願を込め、主客とともに式次第を重視したからで、慶事には鯛(たい)や出世魚、鶴亀(つるかめ)、松竹梅などをかたどったおめでた尽くしの菓子をあしらい、葬式には絶対に引物の折を重ねない(不幸を重ねない)などの配慮がされてきた。
神仏への祈願から、供饌(ぐせん)菓子と式菓子の関係は深い。節供菓子や七五三の千歳飴(ちとせあめ)、歓喜団なども供饌菓子であり、式菓子の一種であった。また古社名刹(めいさつ)の門前土産(みやげ)として発達した菓子も、本来は供饌菓子であった。
[沢 史生]
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