引出物(読み)ひきでもの

日本大百科全書(ニッポニカ)「引出物」の解説

引出物
ひきでもの

来客供応の際に、主人から客に贈る物。「引き物」または「引き」ともいう。客をもてなすため、古くは庭先にを引き出して贈ったことから「ひきでもの」とよんだといわれる。この際、主人のほうが貴人であるときは、客のほうから贈ることもあった。現在でも結婚式など、改まった招宴のとき、引出物を添えるのはこの名残(なごり)である。昭和初期までは、地方の婚礼などには本膳(ほんぜん)のほかに五のぐらいまで出して、客はその食物の大部分に箸(はし)をつけず、折り箱に詰めて持ち帰る習わしが広く行われていた。これも一つの引き物の形で、古い作法に基づくものという説もある。室町時代の武家の間には、酒一献(こん)について一品を贈るという風があり、なかにはかならず太刀(たち)や馬、小袖(こそで)、(よろい)などが加えられ、食物は入っていない。一般の間では近年は砂糖、菓子などが引出物として使われ、菓子などは祝儀・不祝儀の際の色や形まで決まったものが市販されている。かつて慰労の意味で贈られた禄(ろく)や被物(かずけもの)、あるいは他家の使い人や遊芸の徒に与える纏頭(はな)とか祝儀という種類のものと、引出物とのけじめがだんだん混同されてくる傾向がある。

[高野 修]

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精選版 日本国語大辞典「引出物」の解説

ひきで‐もの【引出物】

〘名〙 招待した来客に、主人から贈る物品。平安のころ、馬を庭に引き出して贈ったところからの名。後代は、引出物の名のもとに馬代(うましろ)として金品を贈るのが普通となり、現在では、酒宴の膳(ぜん)に添える物品をさし、さらに、広く招待客へのみやげ物をさすようになった。ひきいでもの。ひきで。ひきもの。
※九暦‐九条殿記・大臣大饗・承平六年(936)一月四日「大饗如常、献鷹一聯・馬一疋、為引出物也」

ひきいで‐もの【引出物】

※宇津保(970‐999頃)祭の使「ひきいでものなども、乏しくは」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「引出物」の解説

引出物
ひきでもの

饗宴に招いた客への贈り物。古くは馬を引出して贈った習慣があり,そこから出た言葉といわれる。のちに金,,鎧,太刀なども使われるようになった。武家の間では,引出物は五献と定め,征矢,鞍鎧,太刀,小袖,馬としたことが『今川大双紙』にある。この流儀食膳にも及び,1の膳 (本膳) ,2,3,4 (与) ,5の膳というように,客がそので食べられずに持帰るものをも予想した引出物の膳も備えた。

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世界大百科事典 第2版「引出物」の解説

ひきでもの【引出物】

宴会に当たって招待した客に主人から贈る物。〈ひきいでもの〉ともいう。古くからの習俗であるが,《江家次第》の大臣家大饗に〈引出物 馬各二疋〉とあるように,平安中期以降の貴族たちの大饗に当たっては,ふつう馬が引き進められたが,鷹や犬,あるいは衣類も用いられている。武家の場合,源頼朝が1184年(元暦1)平頼盛を招待したとき,刀剣砂金,馬を贈っており,刀などの武具がこれに加わる。こうした引出物とされた物からみて,この行為は本来,みずからの分身ともいうべき動物,物品を贈ることによって,共食により強められた人と人との関係を,さらに長く保とうとしたものと思われる。

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