(読み)ド

デジタル大辞泉 「弩」の意味・読み・例文・類語

ど【弩】[漢字項目]

[音]ド(漢) [訓]いしゆみ
機械じかけで石や矢を発射する強力な弓。石弓。大弓。「強弩
1906年にイギリスが建造した強力戦艦ドレッドノートの「ド」の音訳。「弩級艦超弩級

ど【×弩】

中国で、戦国時代以降用いられた機械仕掛けの弓。いしゆみ。おおゆみ。

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精選版 日本国語大辞典 「弩」の意味・読み・例文・類語

ど【弩】

  1. 〘 名詞 〙 武器の一つ。弓のもつ反動力を利用した投石具。いしゆみ。
    1. [初出の実例]「令当府。教習弓馬刀、弄槍、及発弩、抛上レ石」(出典令義解(718)軍防)
    2. [その他の文献]〔史記‐秦始皇本紀〕

おお‐ゆみおほ‥【弩・大弓】

  1. 〘 名詞 〙 強大な弓。古く、石をはじき飛ばすのに用いたという大型の弓。滑車(かっしゃ)を用いることもある。
    1. [初出の実例]「大角小角、皷吹、幡旗及び弩(オホユミ)(いしはじき)の類は私の家に存(お)く応からず」(出典:日本書紀(720)天武一四年一一月(北野本訓))

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普及版 字通 「弩」の読み・字形・画数・意味


8画

[字音]
[字訓] おおゆみ・いしゆみ

[説文解字]
[その他]

[字形] 形声
声符は奴(ど)。〔説文〕十二下に「弓に臂(ひぢ)なり」として〔周礼〕の四弩の名をあげている。「臂り」とは、弩を設けて、発射する装置をいう。諸孔明は連弩を作り、一時に十矢を発することができた。

[訓義]
1. おおゆみ、いしゆみ。
2. 声のはげしいさま。

[古辞書の訓]
和名抄〕弩 に云ふ、りしなり。於保由美(おほゆみ) 〔名義抄〕弩 オホユミ 〔字鏡集〕弩 オホユミ・カケテトル・―トカケテトル・カク・トル・ヲヲシ

[語系]
弩・拏・naは同声。力を加えて強くうごかすものの意がある。

[熟語]
・弩弩弓・弩弦弩矢弩士弩師弩式・弩車弩射・弩手・弩人・弩弩台弩団・弩弾・弩砲・弩末・弩力
[下接語]
火弩・角弩・機弩・弓弩・彊弩・勁弩・建弩・車弩・神弩・置弩・馬弩・布弩・負弩・伏弩・兵弩・木弩・遊弩・連弩

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改訂新版 世界大百科事典 「弩」の意味・わかりやすい解説

弩 (ど)

弓に類する機械じかけの飛道具。中国では戦国時代中期(前4世紀)に出現し,それ以降,軍事に欠かせない重要な武器として発達した。構造は矢をつがえ狙いを定める臂(ひ)という柄,臂の先端に取り付ける弓,弓の弭(ゆはず)にかけて弓をためる弦からなる。臂は木製の角材でつくり,上面に溝をつけて矢を装着する。基部には上下に貫通する孔をあけ,そこに各種の部品からなる青銅製の弩機を取り付ける。弩機は,弦をかける牙と照準用の度をつくりだした金具を臂の上にのぞかせ,その下に,引金にあたる懸刀(けんとう)という金具を,その基部に軸棒を通してつなぎ,臂に軸の両端を取り付けるので,懸刀の先端が臂の下に出ることになる。発射しないときに,牙,度,懸刀をとめておくため,後方に牛という留金具をつけ,これを軸棒で臂に固定する。秦以前にはこれらの部品が直接臂に埋めこまれたが,漢以降になると部品の外側を郭という覆いで包み,これを臂にはめこむようになり,弩機がいっそう精巧なものとなる。弓は竹をはぎあわせ,全体を糸巻にして漆をかける。弦には絹糸とカラムシの糸があるという。漢代では大きさによって,大弩とか小弩とか呼び分けられたり,〈六石の具弩(完形に組み立てた弩)〉というように,弓を張るに必要な重量によって強弱をあらわし,銘文にみえる最も強力なものは12石(360kg)にも達するという。弩に用いる矢は,三角鏃とよばれる三角錐形の青銅鏃をつけた鋭い矢である。

 ヨーロッパへは中世以降に伝わったと考えられ,英語ではボー・ガンbow gun,またはクロス・ボーcross bowと呼ばれる。12世紀にはヨーロッパで普及したが,1139年,ローマ教皇インノケンティウス2世が,残虐な兵器であるとして,キリスト教徒に対する使用を禁ずる布令を出している。しかし異教徒に対する戦闘はもちろん,その後も弩の使用は続き,14世紀初めには鋼鉄製の弩が作られ,火器の普及まで使用された。イギリスでは13世紀後半に長弓が普及し,百年戦争におけるクレシーの戦(1346)では,弩を使用したフランス軍(ジェノバ人弓兵)をエドワード3世の率いる長弓隊が打ち破った。その原因は,弩を使用した傭兵の未組織性と訓練不足にもあったが,弩が長弓に比して貫通力,射程距離(最大射程は弩の約360mに対し,長弓は約255m),命中精度のいずれにも優ったにかかわらず,長弓が毎分約6本(最大12本)発射できるのに対し,弦の巻上機を使用する弩が,毎分約1本しか発射できなかったためであろう。弩の使用はその後,コルテスによる中南米征服や,スウェーデンの対ロシア戦(1555-57),また日清戦争における清国兵(連射弩)にもみられたが,16世紀以降のヨーロッパでは一般に狩猟用,遊戯用となり,華麗な装飾を施したり,石や先端をとがらせない鋼鉄製の短い矢などを発射するようにもなった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「弩」の意味・わかりやすい解説


弓、弦、臂(ひ)(腕木)、機(引き金の仕掛け部分)からなる機械仕掛けの弓の一種。臂は弓の中央部に直角に取り付けられ、臂の上面に刻まれた凹槽(おうそう)に矢を挿入して発射する。臂の弦側(つるがわ)の一端には引き金としての青銅製の機が組み込まれている。機は弦をひっかける牙(が)、引き金の縣刀(けんとう)、牙と縣刀を包む郭(かく)などからなっている。弩は、春秋時代に楚(そ)の人が用いたといわれているが、遺物は戦国中期以後のものしか知られていない。この時期の湖南省長沙(ちょうさ)市掃把塘(そうはとう)138号墓からは、ほぼ完全な弩が出土し、これに付属する弓と矢も発見されている。この弩の臂は硬い木を2本結合して黒漆を塗り、長さ51.8センチメートルである。戦国後期から秦(しん)漢時代に重要な武器となり、弩の実物や明器(めいき)(副葬用の器物)がしばしば発見されている。秦の始皇帝陵一号兵馬俑坑(ようこう)からは、弩の機が出土し、朝鮮、楽浪の王光墓で発見された弩の臂は黒漆塗りで全体の形がよく残っていた。

[飯島武次]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「弩」の意味・わかりやすい解説

弩[西洋]
いしゆみ[せいよう]
crossbow

棒状の台木の上に直角に小型の弓を固定した中世ヨーロッパの飛び道具。鉄砲が出現するまで戦場で主役を演じ,15世紀末まで使われた。弓身は木製か鉄製。台木の中央に矢の方向を定める溝が縦に刻まれ,引絞った弦を離す引き金装置がついている。木製の弓は手で引き,鉄製では台尻についた小型の手巻きウィンチを使用した。 quarrelと呼ばれる長さ 25cmほどの太い矢が使われた。最大射程は約 300mで,ほとんどの甲冑を貫いた。起源については 10,11世紀にイタリアの都市で生れたと考えられている。現代でもスポーツや狩りに用いられる。

弩[中国]
いしゆみ[ちゅうごく]

古代中国で,ばねを利用して矢や石を射るようにした 64cmぐらいの短い弓。銅製が多く木製もあったらしい。正しくは「ど」と読み,日本では「いしゆみ,おおゆみ」ともいう。また日本では平安・鎌倉時代に,城壁や崖の上などに石を載せた木をゆわえておき,機をみて綱を切って敵の頭上に石を落すようにした仕掛けも石弓と呼ばれた。


「弩[中国]」のページをご覧ください。

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百科事典マイペディア 「弩」の意味・わかりやすい解説

弩【ど】

石弩(いしゆみ)

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【戦争】より

…恒常的に繰り返されたのは領主間の小規模な局地戦で,敵領の劫掠(ごうりやく)に重きをおき,ことさら決戦を回避する傾向が目立っている。歩兵は二次的な兵力とされたが,12世紀に発明された弩(いしゆみ)crossbowはもっぱら彼らの操作するところであった。これは当時もっとも殺傷効果の高い武器で,ラテラノ公会議(1139)はキリスト教徒に対する使用を禁じている。…

【武器】より

…すなわち,鎖帷子(くさりかたびら),鎖靴下,冑(兜),剣,槍,盾,棍棒,短剣,肩当,鉄靴,軍衣,下着,ズボン,靴下,帯,外套,毛皮の17品目だが,このうち槍と剣がおよそ8kg,兜と鎖帷子と盾だけで25kgを超えるから,明らかに防御の武器に重点がかかっている。
[歩兵の役割――弩と矛]
 騎士戦華やかな時代にも,歩兵が廃絶したわけではない。それどころか,補助兵力として不可欠だったほかに,攻城戦や籠城戦では決定的な役割を演じた。…

※「弩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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