強制不妊手術(読み)きょうせいふにんしゅじゅつ

知恵蔵 「強制不妊手術」の解説

強制不妊手術

1948年に制定された旧優生保護法に基づき、遺伝性疾患や精神疾患、知的障害のある人を対象に行われた不妊手術。本人の同意は不要で、「優生上の見地から不良な子孫出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護すること」を目的に手術が実施された。厚生労働省の統計資料によると、1949年から92年にかけて、全国で約2万5000人の男女に不妊手術が行われ、そのうち約1万6500人については、本人の同意がなかった。
強制不妊手術の背景には、1883年に英国の遺伝学者、フランシスゴルトンが提唱した「優生学」(世代を重ねながら遺伝構造を改良し、人類の進歩を図ると弁じた学問)の思想がある。この思想は各国に広まり、1907年以降、米国やナチス・ドイツスウェーデンで優性思想に基づく法律が制定され、強制的な不妊手術が行われた。
日本でも40年に、優生思想の影響を受けた国民優生法が成立した。そして戦後、多くの引揚者や第1次ベビーブームによる人口急増への対策として、議員立法で旧優生保護法が制定された。法律が施行された当初は、遺伝性があるとされた病気や障害のある人が対象で、医師が診断し、不妊手術が必要と判断した場合、都道府県の優性保護審査会の決定などを経て、手術が行われた。そして、52年の法改正により、手術の対象が遺伝性ではない精神障害や知的障害のある人にも広がった。
しかし、障害者差別に当たるなどの批判が国内外で起こり、旧優生保護法は96年、強制不妊手術の規定など優生思想に基づく部分を削除した母体保護法に改正された。翌97年には、強制不妊手術を受けた人への謝罪賠償を求めて市民団体「優生手術に対する謝罪を求める会」が結成された。国連の国際人権委員会は98年に、女子差別撤廃委員会は2016年に、それぞれ日本政府に対して補償措置などを勧告している。ドイツやスウェーデンでは、被害の実態が明らかになった後、国が謝罪し、救済措置に踏み切った。
18年1月、知的障害を理由に強制不妊手術を受けさせられた宮城県の60代女性が、国に謝罪と補償を求めて、初めて国家賠償請求訴訟を起こした。訴訟をきっかけに、実態の解明や被害者の救済を求める声が高まり、18年3月には自民党を含む超党派の国会議員連盟が発足、自民、公明両党のワーキングチームと連携しながら、議員立法も含めた救済策を検討している。
国はこれまで、「当時は適法だった」と被害者の救済や被害の実態調査に及び腰だったが、訴訟や超党派の国会議員連盟発足などの動きを受けて、新たに調査を始めている(2018年5月現在)。

(南 文枝 ライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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