循環器疾患の手術適応(読み)じゅんかんきしっかんのしゅじゅつてきおう(その他表記)Surgery for cardiovascular diseases

六訂版 家庭医学大全科 「循環器疾患の手術適応」の解説

循環器疾患の手術適応
じゅんかんきしっかんのしゅじゅつてきおう
Surgery for cardiovascular diseases
(お年寄りの病気)

手術適応となる主な病気

 人は血管とともに老いるといいますが、高齢者では加齢現象に加えて糖尿病高血圧脂質異常症などの動脈硬化を促進する因子が作用して、心臓を含めた血管の病気が多くなります。

 血管には動脈静脈がありますが、血管の病気はその管が詰まる(閉塞(へいそく))か、拡張する((こぶ))か、どちらかの病態になります。動脈では、体のどこの場所にこうした変化が起こっても、閉塞した場合には動脈が血液を送っている臓器に血液が行かなくなり(虚血(きょけつ))、その組織が死んでしまったり(壊死(えし))、十分に機能しなくなったりします。

 虚血の程度によっては命を脅かしたり、日常生活に支障を来したりするので、患者さんに必要とされる機能の程度に応じて手術適応が決まってきます。

 下肢への動脈閉塞の時には、治療しなければ下肢の切断になりそうな時(重症虚血肢(きょけつし))や、歩くとすぐに足が痛くなり歩けなくなる時(間欠性跛行(かんけつせいはこう))などでは手術を検討します。

 心臓に栄養を送る冠状動脈の場合には、内腔が75%以上狭くなったり詰まったりした場合に問題となります。

 (けい)動脈の場合には、70%以上狭くなって脳梗塞(のうこうそく)を起こしたり、脳の虚血発作がある場合には、今後の脳梗塞の頻度が高くなるので手術を検討します。

 最近は、こうした動脈閉塞部位カテーテルを通して広げる方法が普及してきたので、外科的手術にするかどうかは、閉塞部位や範囲によっていろいろと検討が行われます。

 一方、動脈瘤(どうみゃくりゅう)の場合には、(こぶ)が発生した動脈によって大きさは異なりますが、一定の大きさになると破裂して命を落とすことになるので、その大きさによって手術適応が決まります。胸部腹部大動脈瘤では、最大横径が5~6㎝以上になると手術を検討します。大動脈の壁が裂ける(解離(かいり))場合もありますが、解離した部位や範囲によって手術適応は異なってきます。

 心臓にある大動脈弁や僧帽弁(そうぼうべん)に異常を来した場合には、心機能や血管の状態などを考慮して手術を検討します。そのほか、主に下肢の静脈が詰まったり(深部静脈血栓症(けっせんしょう))、皮下の静脈が拡張する静脈瘤(じょうみゃくりゅう)なども多い病気ですが、程度が軽い場合には手術を行うことはありません。

主な手術法

 動脈が閉塞している場合には、閉塞している場所をバイパス迂回(うかい))して血流を改善します。バイパスとする代用血管には、自分の動脈(内胸(ないきょう)動脈や橈骨(とうこつ)動脈など)や静脈(大伏在(だいふくざい)静脈)、人工血管などが使われます。バイパスする血管の場所によって、どれを選ぶかは異なります。

 閉塞した血管を開いて、閉塞の原因となっている血栓や厚くなった動脈の壁を切除する方法も行われます(血栓内膜摘除術(てきじょじゅつ))。動脈瘤の場合には、動脈瘤を開いて、中に代用血管を入れて血行を再建します。近年は、大腿動脈などからステントグラフトを挿入して治療を行う血管内手術も盛んになってきました。

 大動脈や大腿動脈などの太い血管には人工血管が使われます。心臓の弁を替える時にも、人工弁や生体弁などいろいろと検討が行われます。

手術後の注意点

 代用血管でバイパスしたり、動脈を置き換えたりしたあとの再建成績は比較的良好です。しかし、病気になった血管だけではなく、ほかの場所の血管も同様に悪いと考えて、動脈硬化を起こした自分の血管がさらに悪くならないように、禁煙を励行し、糖尿病高血圧脂質異常症などの管理をしっかり行い、アスピリンをはじめとした抗血小板薬を服用する必要があります。

 また、がんなどの好発年齢で喫煙歴のある人が多いので、肺がん胃がんなど、血管以外の病気にも十分注意を払い、定期的に健康診断を受けましょう。

重松 宏

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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