元素分析(読み)ゲンソブンセキ(英語表記)elementary analysis

デジタル大辞泉 「元素分析」の意味・読み・例文・類語

げんそ‐ぶんせき【元素分析】

有機化合物を作っている元素炭素水素窒素などの種類や割合を調べるために行う化学分析

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精選版 日本国語大辞典 「元素分析」の意味・読み・例文・類語

げんそ‐ぶんせき【元素分析】

  1. 〘 名詞 〙 化合物を分解し、構成元素の量を決めること。有機化合物では主として水素、炭素、窒素の占める割合を測定するのが一般的である。〔稿本化学語彙(1900)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「元素分析」の意味・わかりやすい解説

元素分析 (げんそぶんせき)
elementary analysis

有機化合物または有機金属化合物を構成する元素(炭素,水素,窒素,酸素,ハロゲン,硫黄,リン,ヒ素,その他の金属)を定量的に検出して,含まれる元素の百分率組成を定める分析法を総称して元素分析または有機元素分析という。この分析法の重要性は,分析結果に基づきその化合物の実験式を定め,実験式と化合物の分子量とから分子式を決定し,分子式からさらにその化合物の化学的・分光学的諸データとを総合して,化合物の化学構造式を決定することにある。このため元素分析は有機化学における新化合物の判定,確認および化学構造式決定のための基本となるきわめて重要な分析法である。

有機化学における先駆者たちは1700年代後半から1820年ころにかけて,有機化合物を純粋に取り出し,分析によって実験式を正確に定める問題にしばしば遭遇した。当時はフランスのA.L.ラボアジエの提案(1784)による元素分析の原形ともいうべき方法で,有機化合物を酸素中で燃焼し,存在する元素を見いだしていたが,有機化合物の実験式は正確さを欠き,分子式の決定も十分ではなかった。したがってラボアジエ法に代わる精密な定量分析法の確立が一つの目標であったが,ついにドイツのJ.vonリービヒがこの目的を達成した(1831)。リービヒは彼の師L.J.ゲイ・リュサックの示唆により,燃焼試薬に酸化銅を用い,装置上の研究も種々重ねた結果,燃焼法による有機化合物中の炭素,水素の定量分析法を創案した。この分析法の確立によって初めて有機化合物の正確な実験式と分子式を決めることが可能になった。リービヒと前後してフランスのJ.B.A.デュマも有機化合物中の窒素の定量法を確立した(1830)。当時の有機化学はその進歩において,すでに分析法の確立していた無機化学に比べると,比較的遅れているとみなされていたが,リービヒとデュマの有機元素分析法の確立によって,ようやくその遅れを取り戻し,その後めざましい発展を遂げるに至った。元素分析法は発見から現在まで,過去1世紀半の間に,それぞれの時代の技術革新を反映し,有機化学の発展とともに絶えず進歩を続けてきたが,そのなかでとりわけ時代を画する二つの大きな進歩がみられた。リービヒとデュマの時代は分析用試料の量として,マクロ的量(0.3~0.9g)を取り扱う元素分析法であったが,1910年ころ精密な微量化学てんびん(天秤)(0.000002gまで正確に測れる)が完成してから,試料量も数mg(0.003~0.005g)で分析できる微量分析法がオーストリアのF.プレーグルにより1911年から13年にかけて完成された。この微量分析法により,化合物によってはほんの微量しか入手できない貴重な有機物質の分析にも適用可能となった。たとえばブテナントAdolf Friedrich Johann Butenandt(1903-95)は男性ホルモンのアンドロステロンをわずか15mgほど得たが,このプレーグル法で2回分析できた(1931)。この方法で未知の多数の分子の化学構造式がつぎつぎと決定され,有機化学の進歩に多大の貢献をした。微量分析法の完成以来70年余を経過した現在でも,プレーグル法はなお化学の研究室で盛んに使用されつづけている。発達史上のもう一つの進歩は日本とアメリカでほぼ同時にもたらされた。60年から70年ころにかけてエレクトロニクス技術の革新により,気体の電気的熱伝導度の測定技術が元素分析にも導入されたからである。たとえば,窒素を含む有機化合物の燃焼により生成する水,二酸化炭素,窒素(窒素酸化物は銅で還元して窒素にする)の混合気体を分離し,これらの熱伝導度を測って定量することが可能になり,有機化合物中の炭素,水素,窒素の3元素を1回の分析で同時に分析できるようになったのである。この方法は現在世界的に普及し,分析の迅速化(1回の分析所要時間15~20分,従来のプレーグル法は約60~80分)に役立っている。

炭水素分析の原理は次の化学式で示される。

 C6H12O6+12CuO─→6CO2+6H2O+12Cu

操作法はてんびんで白金ボートに測り取った化合物を石英製燃焼管に入れ,酸素を通しながら外側をガスバーナー(現在では電気炉)で加熱し蒸気状にし,灼熱(850℃)酸化銅層(現在は白金触媒層)に導いて燃焼させると二酸化炭素CO2と水H2Oが生成するから,酸素気流に乗せて管内を運びながら,水は塩化カルシウム吸収管(現在は過塩素酸マグネシウム)に,二酸化炭素は古典的には水酸化カリウム液入りカリ球に吸収させ,プレーグル法では粒状水酸化ナトリウム吸収管に吸収させる。ハロゲン,硫黄を含む有機化合物は銀を使い,燃焼管内で捕集する(図1)。窒素を含む有機化合物は燃焼により窒素酸化物が生成するから,二酸化炭素吸収管の手前でこれを取り除くくふうが行われ,以前は180℃に加熱した過酸化鉛層を通して除き,最近は二酸化マンガン粒で除去する。H2O,CO2を各吸収管に吸収後てんびんで増量を秤量し,化合物中の炭素,水素の百分率を求める。

 百分率計算法としてかつてリービヒが1838年に行った分析結果と実験式の計算法を再現する。彼はお茶などのタンニンから得られる没食子酸の0.533gを元素分析にかけ,H2O=0.172g,CO2=0.969gを得た。その百分率は

ただし係数0.1119=2.016(H2の分子量)/18.016(H2Oの分子量),0.2729=12.01(炭素の原子量)/44.01(CO2の分子量)である。分析結果から没食子酸の実験式を求めると,

となり,(C141H123O1nが得られた。この原子比は整数から離れているので,整数に近い値を得るためn=5としてC71H62O5を得た。そこで整数比式をC7H6O5とし,この理論値と分析値を比較すると,次のように分析誤差範囲(±0.30%)で一致するので,

没食子酸の実験式をC7H6O5と定めた。後の研究((OH)3C6H2COOHなる分子式)からリービヒの実験式と分析の正しさが証明された。

この元素に関しては多くの分析法が提案され使用されているが,シェーニガーW.Schönigerのフラスコ燃焼法が現在最も頻繁に利用されている。原理は酸素中で燃焼後,吸収液に吸収させたハロゲンイオンまたは硫酸イオン滴定法などで定量する方法である。操作法はハロゲンを含む化合物を図2-aのように,ろ紙に測り取り,ろ紙をたたんで白金かごに入れ,火口に点火し,酸素を充満した三角フラスコ中にすばやく入れ,激しく燃焼させ(図2-b),分解生成物をアルカリ吸収液に吸収後,ハロゲンイオン(Cl⁻,Br⁻,I⁻)を濃度の定まった硝酸第二水銀溶液で滴定しハロゲンの含有量を求める。フッ素は石英製フラスコを用い同様に操作し,フッ素イオンF⁻を硝酸トリウム溶液で滴定する。硫黄を含む化合物は吸収液に過酸化水素を少量加えて同様に操作し,生成する硫酸イオンSO42⁻を濃度の定まった過塩素酸バリウム溶液で滴定する。操作法の簡便さと精度の高さの利点をもつため現在有効に利用されている。

リン,ヒ素はフラスコ燃焼法で,ホウ素はケルダールフラスコ中で試料を分解後,容量分析,または吸光光度法で分析する。有機金属化合物中の金属は濃硫酸とともに加熱,灰化させ,金属の性質に対応して硫酸塩,酸化物,金属単体に変化するから,これらの重量を測って分析する。酸素はリービヒ=プレーグル法ではふつう分析しないが,分析原理は次のようである。酸素を含有する有機化合物を窒素気流中で燃焼させ,生成するCO2,CO,H2Oの混合気体を高温炭素層(900~1000℃)に導き,混合気体すべてを一酸化炭素COに変え,COを五酸化ヨウ素I2O5層を通過させると次の化学反応

 5CO+I2O5─→5CO2+I2

によって定量的にヨウ素とCO2を生成するから,いずれか一方を定量して酸素の百分率を求める。なお有機元素分析法のなかで重要な地位を占める〈窒素定量法〉については同項目を参照されたい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「元素分析」の意味・わかりやすい解説

元素分析
げんそぶんせき
elementary analysis

有機物質の構成元素を検出し、その含有量を定める方法。普通、単に元素分析というときは、定量元素分析、とくに炭素、水素、窒素の分析を行うことをいう場合が多い。検出法、すなわち定性元素分析法は種々あるが、その原理はいずれも同じで、有機化合物を分解して簡単な無機体とし、それをそれぞれの方法に従って検出する。ほとんどの場合、炭素と水素が含まれているので、炭素と水素の検出は行わないことが多い。定量元素分析法は、分析に供する試料の量により、常量法(0.2~0.3グラム程度)、半微量法(セミミクロ法ともいい、常量法の10分の1程度)、微量法(ミクロ法ともいい、常量法の100分の1程度)、超微量法(100マイクログラム以下)などに分けられるが、現在では分析装置、天秤(てんびん)、試薬の純度などが格段と進歩し、特別な場合を除いて有機元素分析はほとんど微量法で行われている。定量法には多岐多様な方法が報告されているが、そのほとんどは、まず試料を損失、汚染なく定量的に分解し、これを測定が容易な物質に変換したのちに、それぞれについて適当な方法で定量する方法がとられている。変換の方法を原理的に大別すると、キャリヤーガス中における燃焼法と、液体中で分解剤を加えて行う湿式法とになる。定量は、分解生成物を適当な吸収剤に吸収させて増加量を測定する重量法、滴定による容量法、その他いろいろな方法が行われている。たとえば、炭素、水素の分析は、酸素の存在下で完全燃焼させ、それぞれ二酸化炭素と水とに酸化し、適当な方法で捕捉(ほそく)してその量を測定することによって同時に決定する。窒素は、炭素や水素とは別に、試料を二酸化炭素気流中で燃焼補助剤とともに完全燃焼させて窒素ガスN2に変え、これをアルカリ液を満たしたアゾトメーター(窒素計)に補集してその体積を測定するデュマ法(燃焼法)、試料に分解剤を加え、アンモニアに変換後、補集剤に補集するケルダール法(湿式法)などがよく行われる。ハロゲンは、ハロゲン化銀に変えてその重量を計るカリウス法、硫黄(いおう)は、硫酸バリウムとしてその重量から求める方法、そのほかにも数多くの方法がある。酸素、リン、ヒ素、その他の金属についても種々の分析法が考案されている。

 有機物質は少数の種類の元素から構成されるので、元素分析だけで未知化合物の種類までを決定するのは困難であり、構成成分元素の百分率を以上の諸方法でそれぞれ単独に求めて組成式を決め、さらに他の方法で求めた分子量から分子式を導き、そのうえで元の化合物を判別するという手続をとる。

 そのほか化学的方法と並行して、物理的方法、たとえばX線その他の電磁波や、質量分析などの方法を使って未知物質の元素の分析を行うことも広義には元素分析といえる。

[高田健夫]

『C. Vandecasteele著、原口紘気他訳『微量元素分析の実際』(1995・丸善)』

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化学辞典 第2版 「元素分析」の解説

元素分析
ゲンソブンセキ
elementary analysis, elemental analysis

有機化合物を構成する各元素を定性または定量し,その含有元素を確認したり,含有率などの量的関係を測定する有機分析法.有機化合物は,炭素,水素,酸素,窒素などの元素を主体として構成されている化合物であるが,それらを同定するためには元素分析を行い,各成分元素の百分率を求め,1分子中に含まれる原子数の相対比から実験式(組成式)を算出し,これと分子量の測定結果から構成原子の実数を求めて分子式を導く必要がある.試料の量によって,常量分析(0.1~1 g)から超微量分析(1 mg 以下)にまで分類されるが,通常は微量分析(1~5 mg)が多く行われる.現在,実施されているおもな有機元素定量分析法は次のとおりである.
(1)炭素,水素,窒素同時定量法(熱伝導度法).
(2)炭素,水素定量法(重量法).
(3)窒素定量法(デュマの窒素定量法).
(4)酸素定量法(重量法,容量法,熱伝導度法など).
(5)ハロゲン定量法(重量法,容量法).
(6)硫黄定量法(重量法,容量法,分光光度法).
(7)金属定量法(重量法など各種).
(8)リン,フッ素定量法.
(9)そのほか特殊元素の定量法.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「元素分析」の意味・わかりやすい解説

元素分析
げんそぶんせき
elementary analysis

有機化合物に含まれる元素の種類を調べる元素定性分析と,組成元素の量を決定する定量分析とがある。炭化水素定量分析法としてリービヒ=プレーグルの方法がある。試料を酸素気流中で加熱分解し,酸化銅上を通過させて完全に酸化して成分の炭素,水素をそれぞれ二酸化炭素と水にして定量する。窒素の定量にはデュマ法ケルダール法が適用される。そのほか,ハロゲン,硫黄,酸素などの定量も必要に応じて行われる。現在では数 mg以下の試料を用いる微量分析法が常用され,自動化された分析機器がつくられている。元素分析によって組成式が決定されても,有機化合物ではほとんどの場合に種々の異性体が存在するので,化学構造を知るためにはさらに炭素骨格や,特性基についての分析が必要である。

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百科事典マイペディア 「元素分析」の意味・わかりやすい解説

元素分析【げんそぶんせき】

成分元素を検出しその含有量を定めること。一般に有機化合物の場合をさし,特に炭素,水素,窒素の定量分析をいうことが多い。試料を適当な条件下で燃焼,分解し,生成する炭酸ガス,水の量からそれぞれ炭素,水素を定量。窒素はガスまたはアンモニアとして定量し,酸素は他元素の百分率の総和から計算する。気体の電気的熱伝導度の測定を応用して,3元素を1回の分析で同時に定量できる方法も開発されている。
→関連項目微量分析

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栄養・生化学辞典 「元素分析」の解説

元素分析

 元素の種類とその量を測定する分析.

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世界大百科事典(旧版)内の元素分析の言及

【有機化学分析】より

…狭い意味では有機化合物の構成元素の種類と量を分析する有機元素分析,あるいは有機化合物中の官能基の種類と数を分析する官能基分析をさす。広い意味では構造決定までを含めた,有機化合物に対する分析的な方法のすべてをさす。…

※「元素分析」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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