拘束型心筋症(読み)コウソクガタシンキンショウ

デジタル大辞泉 「拘束型心筋症」の意味・読み・例文・類語

こうそくがた‐しんきんしょう〔‐シンキンシヤウ〕【拘束型心筋症】

心筋症の一つ。心室拡張肥大はなく、心筋の収縮力も正常であるのに、心室の筋肉が硬くなり、拡張不全になる。進行すると心不全不整脈塞栓症などが起こる。原因が不明な特発性拘束型心筋症と、アミロイドーシスサルコイドーシスなど他の疾患に伴って発症する二次性拘束型心筋症がある。指定難病の一つ。RCM(restrictive cardiomyopathy)。

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内科学 第10版 「拘束型心筋症」の解説

拘束型心筋症(心筋症)

(3)拘束型心筋症
概念・定義
 2005年に発表された特発性心筋症調査研究班による診断手引きによると,拘束型心筋症の基本病態は左心室拡張障害であり,①硬い左心室(stiff left ventricle)の存在,②左室拡大や肥大の欠如,③正常または正常に近い左室収縮機能,④原因(基礎心疾患)不明の4項目が診断の必要十分条件とされている.二次性心筋症の中では心アミロイドーシスが拘束型心筋症の病態を呈する疾患としてよく知られている.左室拡張機能が障害されると拡張期の左室への血液流入に伴う充満圧の上昇とそれに引き続く肺うっ血が起こる.これは,当初は労作時息切れの原因となり,また1回拍出量の予備能も損なわれ,運動時に組織の需要に見合った心拍出量の増加が制限され,運動耐容能の低下に結びつく.さらに拡張機能障害が進むと,安静時の心拍出量すら維持できなくなり,うっ血もさらに進行し,低心拍出状態となり多臓器不全へと結びついてゆく.
疫学
 拘束型心筋症は肥大型,拡張型に比較してまれな疾患で,2002年の大規模なわが国での疫学調査によると,心筋症の有病率は(人口10万人あたり)は拡張型心筋症が14.0人,肥大型心筋症が17.3人,拘束型心筋症が0.2人と推定されている(Matsumoriら, 2002).
病因
 病因は左室の拡張機能障害で,その原因は単一ではなく心筋細胞自体のカルシウム動態の障害,心筋間質組織の線維化や異常物質の蓄積などが関与すると考えられる.しばしば家族歴を有し家系によってはHCMとの混在もみられる.基本的には拘束型心筋症は特発性のものを指すが,同様の病態を呈する二次性心筋症としては心内膜心筋線維症や心アミロイドーシスなどがあり,鑑別が必要となる.
病理(図5-13-17)
 拘束型心筋症に特異的な心筋病理所見はなく心筋細胞肥大,間質の著明な線維化,心内膜の肥厚などがみられる.心筋細胞錯綜配列がみられることもある.
予後
 米国における成人を対象とした予後調査報告では5年生存率は64%,10年生存率は37%,最近の小児を対象とした研究では心移植回避生存率はわずか22%で小児における予後は不良である.生存率に影響する因子として,男性・NYHA機能分類・胸部X線写真上の肺うっ血・肺動脈楔入圧が18 mmHg以上・左房径60 mm以上が負の因子として考えられている.
臨床症状
 臨床症状はおもに心不全症状である.拘束型心筋症では左室収縮能は保持されるが,拡張機能が高度に障害される.その結果左室充満圧が上昇し肺うっ血を招き,労作時息切れなどの症状につながってゆく.一方,拘束型心筋症では右室心筋も左室同様に障害されるため右室充満圧も上昇し,体静脈系のうっ血をきたし,浮腫,頸静脈怒張肝腫大,肝-頸静脈反射,腹水などをもたらす.心不全が持続すると,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系やバソプレシン系の亢進も起こり,これらも体液貯留を増強し,心不全症状を悪化させる.
 聴診上は著明なⅣ音を聴取する.Ⅲ音を聴取することもある.
検査所見
 胸部X線写真では心陰影の拡大が明らかでないこともあるが,左房および右房の拡大,肺うっ血による肺血管影の増強,胸水などがみられる.心電図は拘束型心筋症特有のものはないが,非特異的なST変化がしばしばみられる.左房負荷所見であるV1のP波の後半の陰性部分も多くにみられる.さまざまな不整脈を合併するが,心房細動の合併率は高い.心エコーでは左室の拡大がなく,また左室壁肥厚があっても軽度である.左房は充満圧の上昇を反映して拡大する.左室収縮機能は保たれているが(図5-13-18),ドプラによる左室拡張機能障害は顕著である.左室血液流入パターンのE/Aは2をこえ,偽正常化から拘束パターンを呈する(図5-13-19).E波の減衰時間DcTは短縮し150ミリ秒を切る.僧帽弁の組織ドプラにおける早期流入のピークe′とEの比であるE/e′は15をこえる.また左室流入速波形は呼吸の変動を受けず,収縮性心膜炎では呼吸によって大きく変動し,吸気時にE,Aともに減少することと対比できる.僧帽弁閉鎖不全,三尖弁閉鎖不全もみられる.
心臓カテーテル所見
 左室拡張機能障害を反映し,左室拡張末期圧は上昇する.洞調律ではa波が目立つ.肺動脈楔入圧および右房圧は上昇するが前者がより上昇している.心拍出量は正常~低下する.鑑別診断として最も重要なのは収縮性心膜炎である.右心カテーテルデータでは拘束型心筋症では収縮性心膜炎に比べて,右室拡張末期圧が収縮期圧の1/3をこえない,左室収縮末期圧−右室拡張末期圧の差が5 mmHgをこえる,左室拡張期圧波形のdip and plateauが明らかでないなどの特徴があり,肺動脈収縮期圧は上昇していることが多い(図5-13-20). 心筋生検は同様の病態を呈する二次性心筋症との鑑別のため必要である.
CT・MRI所見
 CT,MRIでは拘束型心筋症自体に特徴的な所見はないが,収縮性心膜炎や二次性心筋症の鑑別には有用である.
鑑別診断
 収縮性心膜炎との鑑別が最も重要であるが,心アミロイドーシス,心内膜心筋線維症,ヘモクロマトーシス,Fabry病など左室拡張障害をきたす特定心筋疾患や二次性心筋疾患との鑑別が必要となる.診断には厚生労働省 難治性疾患克服研究事業特発性心筋症調査研究班の特発性拘束型心筋症の診断の手引(厚生労働省 難治性疾患克服研究事業特発性心筋症調査研究班, 2005)が有用である.
治療
 拘束型心筋症に特異的な治療はない.一般にはうっ血に基づく症状を改善するために利尿薬特にループ利尿薬が投与される.心房細動を合併すると特に臨床症状が悪化するが,このような症例では十分な充満時間を得るための心拍数のコントロールが重要である.β遮断薬,ジギタリス,カルシウム拮抗薬が用いられる.[百村伸一・和田 浩]
■文献
厚生労働省 難治性疾患克服研究事業特発性心筋症調査研究班:心筋症,診断の手引とその解説.(北畠 顕,友池仁用,編),かりん舎,北海道,2005.
Matsumori A et al: Epidemiologic and clinical characteristics of cardiomyopathies in Japan: results from nationwide surveys. Circ J, 66: 323-336, 2002.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「拘束型心筋症」の意味・わかりやすい解説

拘束型心筋症
こうそくがたしんきんしょう

心筋が硬くなり、心不全の症状をきたす特発性の心筋症。高血圧、冠動脈疾患、心膜炎、ヘモクロマトーシス、アミロイドーシス、サルコイドーシス、グリコーゲン蓄積症(糖原病)、放射線照射、薬物の副作用など心筋を傷害する原因がなく、左心室の拡大や心筋肥大もなく、左心室の収縮能も正常なのに、心筋が硬くなり心室が拡張できない病気をいう。指定難病。病因は不明である。

 発症率はきわめてまれである。診断には、心エコー検査、MRI(磁気共鳴映像法)検査、心臓カテーテル検査、心筋生検などが行われる。軽症の場合は無症状のことがあるが、進行すると心不全、不整脈、塞栓症をおこすようになる。心不全になると、全身倦怠(けんたい)感、労作時の呼吸困難、動悸(どうき)、起坐(きざ)呼吸(呼吸は臥位(がい)より坐位のほうが楽になるため)、浮腫(ふしゅ)、腹水などの症状がみられる。特異的な治療法はなく、心不全、不整脈、塞栓症等に対して薬物療法が行われる。

[大久保昭行 2016年6月20日]

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