心肥大ともいう。心臓の壁,とくに心室の壁の心筋が肥大して厚くなることをいう。肥大が主としてみられる部位によって,心房肥大,右心室肥大,左心室肥大,中隔肥大,両室肥大などの種類があり,肥大が内腔に向かって起こり,容積が大きくならない場合を求心性肥大,壁の肥大とともに容積が増大し,心臓の拡張を伴う場合を遠心性肥大という。肥大が起こると,肉柱や乳頭筋も太くなるため,心臓の重量も増し,著しい肥大では,心臓壁の厚みは正常の3倍,重量は4倍にも達することがある。
心臓の肥大は主として,血流量の増加または血圧の上昇による心臓の負荷の増大によって起こる。心臓弁膜症,先天性心疾患などの心臓病のほか,高血圧,貧血,甲状腺機能亢進症,呼吸器疾患などに際してみられ,運動選手などでは,運動による過負荷によって起こる。運動選手にみられる心臓肥大は〈スポーツ心臓〉とも呼ばれる。また特発性肥大型心筋症による場合もあるが,この場合,肥大の原因は不明で,先天的に肥大が起こりやすい素質によると考えられている。原因が同じでも(たとえば同程度の高血圧でも),肥大の起り方には個人差があることが知られている。
循環障害があったり心臓のポンプ機能が低下すると,心臓の血液拍出量(心拍出量)を維持するために種々の調節機構が働く。これを代償というが,心臓肥大はこのような代償作用の一つで,肥大が起こると,心筋の収縮によって発生する張力は増大し,心臓の収縮力は増大する。しかし,肥大が進むと,負荷の増大による過度の伸展や収縮の不均衡によって,心筋の障害が起こったり,壁の肥厚による冠状動脈の分布の不足や心筋の収縮による冠状動脈への圧迫などから,血流の不足,とくに内壁の虚血による障害が加わって,心筋の一部が破壊され,繊維化する傾向がでてくる。さらに肥大が進むと,心臓の拡張を伴うようになる。一般に球体の場合,内圧を維持するためには,内径が大きくなるほど壁の張力を増大させなければならない。このため,拡張を伴う肥大では,心筋にかかる張力は大きくなる。一方,心臓の壁が厚くなると,血流が心腔内に流入する拡張期の伸展性は悪くなり,心筋の障害による収縮力の低下とあいまって,心臓の機能は徐々に低下するようになる。したがって,心臓肥大は心臓機能の改善よりもむしろ,悪化をもたらすことが多い。
心臓肥大の測定には各種の検査が用いられるが,著しい場合には打聴診でもわかる。心エコー図では心室壁の各部の厚みの増加や内腔の拡大および収縮性の変化から肥大の程度を知ることができる。心電図でも肥大と障害の程度がわかり,そのほか心筋シンチグラム,胸部X線検査,心血管造影法なども判定に用いられている。
心臓肥大があると,予後は悪く,心不全に陥りやすく,とくに虚血性心疾患にかかる頻度は高くなる。原因疾患への治療によっては肥大の回復が期待できるが,心筋障害や心臓拡張を伴う場合は回復は困難である。
→心臓拡張
執筆者:細田 瑳一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
心室壁の厚さが増し、心筋重量の増加をきたした状態をいい、心臓が持続的に過大な仕事をした場合に生じ、心肥大ともいう。スポーツマンや重労働者にみられる生理的なものもあるが、一般には大動脈弁狭窄(きょうさく)症や肺動脈弁狭窄症など心室流出路の狭窄や高血圧症などにみられる病的なものが多い。また、心内腔(くう)の拡張(心室拡張)を伴うことも少なくない。これら心筋の圧仕事(圧負荷)増大に対する代償性変化として生ずる場合のほか、特発性心筋症など心筋自体の疾患に起因するものもあるが、いずれも心筋線維の数が増すわけではなく、心筋線維が太くなるためと考えられている。臨床的には、肥大の存在およびその程度は心電図、超音波心エコー図、胸部X線などにより知ることができる。
[井上通敏]
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