拡張型心筋症(読み)カクチョウガタシンキンショウ

デジタル大辞泉 「拡張型心筋症」の意味・読み・例文・類語

かくちょうがた‐しんきんしょう〔クワクチヤウがたシンキンシヤウ〕【拡張型心筋症】

心筋症一つ心室筋肉が薄くなり、心筋収縮力が極端に低下し、心臓が拡張してしまう。原因は不明。心臓のポンプ機能が低下し、動悸呼吸困難が見られる。進行すると浮腫不整脈などが現れ、心不全をもたらす。DCMdilated cardiomyopathy)。原因が不明の特発性拡張型心筋症は国の指定難病に登録されている。→バチスタ手術

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内科学 第10版 「拡張型心筋症」の解説

拡張型心筋症(心筋症)

(2)拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy)
概念・定義
 拡張型心筋症はWHO/ISFC分類では肥大型心筋症などと並ぶ心筋症の1つのタイプで左室内腔の拡張と収縮の低下を伴う.WHO/ISFC分類では原因または全身疾患との関連が明らかな心筋疾患は「特定心筋疾患」として除外される(表5-13-1).
 拡張型心筋症の病態は左室収縮機能低下であり,その結果心不全症状を呈する.わが国においては心不全の原因疾患の約20%を占め,いわゆる「非虚血性」心不全の主要原因疾患の1つである.
病因
 拡張型心筋症は遺伝的素因,ウイルス感染などさまざまな病因によるものが含まれると考えられる.家族性の拡張型心筋症は,外国での報告は20~30%,わが国の厚生省の調査では5%であった.肥大型心筋症のように心筋収縮関連蛋白のさまざまな遺伝子異常との関連が示唆され,心筋アクチン遺伝子,デスミン遺伝子,ラミン遺伝子,δ-サルコグリカン遺伝子,心筋βミオシン重鎖遺伝子,心筋トロポニンΤ遺伝子,αトロポミオシン遺伝子の異常が報告されている.一方,ウイルス感染との関連も注目されており,本症の心筋からコクサッキーウイルス,アデノウイルスやC型肝炎ウイルスなどのウイルスゲノムが検出されている.
 予後については拡張型心筋症のみについてのデータは少なく,左室収縮機能低下に基づく心不全全体の予後については,わが国の信頼できる心不全登録研究のデータでは年間死亡率が7~8%であるが,非虚血性心筋症の予後はいわゆる虚血性心筋症よりも予後は良好である.死因は心不全自体の悪化による心不全死と突然死が大半を占めるが,血栓塞栓症も死因となる.
病理(図5-13-11)
 拡張型心筋症に特徴的な病理所見はない.基本的には心筋細胞の変性,脱落,線維化などがみられる.また個々の心筋細胞は肥大し,筋線維の大小不同もみられる.
症状
 拡張型心筋症に特異的な症状はなく心不全症状が主体となるが,不整脈に伴う症状もある.
 心不全症状としては労作時息切れ,浮腫,倦怠感,不眠等である.急激に悪化する場合には起坐呼吸,夜間呼吸困難などがみられる.心房細動や心室頻拍などの頻脈性不整脈を合併すれば動悸を自覚し,持続性心室頻拍であれば意識消失をきたすこともあり,突然死につながる.身体所見では重症例では聴診上Ⅲ音,Ⅳ音をしばしば聴取し奔馬調律(ギャロップ)となり,左室拡大に伴う二次性僧帽弁閉鎖不全に起因する汎収縮期雑音を聴取する.心尖拍動は鎖骨中線より左側かつ下方に偏移する.右心不全がある場合には頸静脈は怒張し,胸水や腹水を認める.肺うっ血が高度となり肺浮腫をきたせば下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する.
検査所見
 胸部X線(図5-13-12)では心陰影の拡大がみられる.おもに左室が拡大するが,充満圧の上昇を反映して左房も拡大する.心筋障害はしばしば右心系にも及び,また左心不全でも肺静脈性肺高血圧をきたす結果,右心系も拡大する.高血圧性心疾患と異なり一般に大動脈弓(左第1弓)は拡大しない.肺うっ血に基づく肺血管影の増強があり,また急性心原性肺水腫の病態を呈する場合には肺門から末梢に広がるいわゆるbutterfly shadowを呈する.体液の貯留に伴い胸水がみられる.心電図(図5-13-13)ではST低下を伴う左室肥大,左房負荷(V1のP波の後半の陰性部分),異常Q波,陰性T波,左脚ブロックなどがみられる.Holter心電図では心室性期外収縮,心室頻拍などがみられる.心房細動も2~3割に合併する.
 心エコー(図5-13-14)では左室の拡大と収縮低下,心室壁の菲薄化,左房の拡大がみられる.左室収縮の低下はびまん性のことが多いが,局所の収縮の時相のずれによる協調運動障害(dyssynchrony)をしばしば認める.ドプラの左室流入速度波形は左室充満圧の上昇に伴ってimpaired relaxation(弛緩障害)から pseudo-normalization(偽正常化),さらにはrestrictive pattern(拘束パターン)へと変化する.左室拡大に伴い僧帽弁のtetheringテザリング:左室の拡大に伴い,乳頭筋により僧帽弁尖がひっぱられ閉鎖が妨げられる現象)によるさまざまな程度の機能性僧帽弁閉鎖不全(図5-13-15)もみられる.
核医学検査,MRI所見
 タリウムやテクネシウムなどを用いた心筋血流シンチグラフィは虚血性心筋症との鑑別に有用である.MIBGシンチグラフィでは心筋からの洗い出し率(washout rate)の増加とH/M比(心臓/縦隔の比)の低下とがみられる.ガドリニウムを用いた造影MRI検査による遅延造影の評価は虚血性心筋症との鑑別に有用であり,また特定心筋疾患との鑑別にも役立つ.
心臓カテーテル所見
 右心カテーテルを含む心臓カテーテル検査は心機能の評価のため必要であり,また冠動脈造影は冠動脈疾患の除外のため有用である.
 左心機能不全を反映して左室拡張末期圧の上昇,肺動脈楔入圧の上昇,肺動脈圧の上昇,心拍出量の低下がみられる.左室収縮期圧は低めで,重症例では期外収縮の後などに収縮期圧が高低を繰り返す交互脈(pulsus alternans)がみられる.心拍出量は正常または低下し,体血管抵抗は上昇する.左室造影(図5-13-16)では左室拡張末期容積の増大,左室駆出率の低下,びまん性の左室壁運動低下,ときに左室運動協調障害,僧帽弁逆流などがみられる.冠動脈には有意狭窄を認めず,左室拡大に伴い全体に“引き伸ばされた”印象をうける. 心筋生検は心筋炎や特定心筋疾患の除外のため行われることが望ましい.バイトームを用いて右心側心室中隔あるいは左心室の心内膜下生検が行われる.
バイオマーカー
 心不全の重症度を反映するバイオマーカーとしてBNPあるいはNT Pro-BNPが汎用され,予後予測,治療効果の判定などに用いられる.そのほかにトロポニンTが陽性となる症例ではongoing myocardial damageがあると考えられ予後不良の予測因子となる
治療
 治療は左室収縮機能の低下に基づく心不全の治療が主体となる.つまりうっ血に基づく労作時呼吸困難や浮腫を軽減するためにはループ利尿薬をはじめとする利尿薬,生命予後の改善のためにはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(忍容性がない場合はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬),β遮断薬,抗アルドステロン薬が用いられる. 非薬物療法としては突然死の予防のための植え込み型除細動器(ICD)が効果的である.心臓再同期療法(CRT)は内科治療の最適化を行ってもNYHAⅢ度以上の心不全症状があり,左室駆出率は35%以下,QRS幅が120 sec以上の症例が良い適応となる.
 わが国で開発された和温療法は拡張型心筋症を含む心不全患者の死亡または入院を減少させることがわかっている.和温療法とは,鄭忠和らによって開発された治療法で,全身を摂氏60 ℃で15分間加温・保温の後,さらに30分の安静保温で和温効果を持続させ,終了時に発汗に見合う水分補給を行うものである.この処置により,深部体温が約1.0 ℃上昇する.心臓リハビリテーションは心不全患者の運動耐容能,QOLを改善しさらには予後も改善することがメタ解析などで明らかになっている.合併する睡眠呼吸障害の治療も心機能,運動耐容能などを改善することが報告されている. 外科的治療法としては僧帽弁閉鎖不全が高度の場合,僧帽弁形成術もしくは僧帽弁置換術が行われることもある.あらゆる治療が奏効しない場合には心臓移植を考慮する.[百村伸一・和田 浩]
■文献
友池仁暢,他:拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン,日本循環器学会.http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_tomoike_h.pdf
厚生労働省難治性疾患克服事業 特発性心筋症調査研究班:心筋症,診断の手引きとその解説(北畠顕他編),かりん舎,札幌, 2005.
McKenna WJ, et al: Report of the 1995 World Health Organization/International Society and Federation of Cardiology task force on the definition and classification of cardiomyopathies. Circulation, 93: 841, 1996.

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世界大百科事典(旧版)内の拡張型心筋症の言及

【心筋症】より

…非閉塞性肥大型心筋症が病状の進展によって拡張型に移行する可能性も推測されている。
[拡張型心筋症]
 心筋の変性,繊維化が起こり,心室筋の収縮不全が生ずるために心臓の拡大が著しく,ポンプ不全が特徴的である。その結果,以前につけられていた診断名鬱血型のとおり肺に鬱血症状を呈する心不全状態を将来することが多い。…

※「拡張型心筋症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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