出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
拡張型心筋症は、心筋の細胞の性質が変わって、とくに心室の壁が薄く伸び、心臓内部の空間が大きくなる病気です。その結果、左心室の壁が伸びて血液をうまく送り出せなくなり、うっ血性心不全を起こします。左心室の血液を送り出す力は、心臓の壁が薄く伸びるほど弱まるので、心筋の伸びの程度で重症度が決まってきます。拡張型心筋症の5年生存率は76%ですが、突然死の発生もまれではありません。
このことからこの病気の原因解明と有効な治療法の早期確立が求められていますが、現状では自覚症状および予後の改善につながる診断・治療が中心になっています。
原因がわからない拡張型心筋症は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されているため、医療費の自己負担分が、公費で支払われる場合があります。
先に述べたように、この病気の原因もはっきりわかっていません。これまでの研究では、ウイルス感染、遺伝子異常、免疫系の異常、アルコールのとりすぎ、妊娠などが関係しているらしいことがわかっています。複数の修飾因子(高血圧症、動脈硬化、感染、薬物など)が絡み合って病態を複雑にしていることも少なくありません。
最初のうちは自覚症状はありません。しかし、病状が進んでうっ血性心不全が重くなると症状が現れてきます。
初期には疲れやすくなったり、運動時などに動悸や息切れを感じたりという症状が現れ、ひどくなると夜間発作性呼吸困難も出てきます。夜間発作性呼吸困難とは、夜間眠りについて数時間たったころに突然起こる強い呼吸困難のことです。横になったことで下半身の血液がより多く心臓へ流れ込み、肺全体が血液で満たされ、肺がうまく酸素を取り入れられなくなって起こります。
もっと重症になると、全身にむくみが出たり肝臓がはれたりしてきます。
診断の基本は心不全の重症度と、その原因となる心室拡大と左心室の収縮能低下の程度を評価することにあります。
胸部X線検査では心陰影の拡大や肺うっ血などの所見がみられます。心電図における不整脈やSTT異常、左脚ブロックなどの異常所見の出現は重症化を反映しています。心臓超音波検査は拡張型心筋症の診断および経過観察に欠かせない検査法です。
拡張型心筋症を含む慢性心不全の状態では、神経体液因子と呼ばれるホルモンが体内で活性化しています。なかでも脳性利尿ペプチド(BNP)の血中濃度は心不全の重症度をよく反映しています。二次性心筋症と区別するために心筋生検による組織診断が行われることもあります。
拡張型心筋症の患者さんには、その初期には心不全の症状に合わせて利尿薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、ジギタリス薬などが処方されます。利尿薬ではループ系利尿薬がよく用いられます。カリウム保持性利尿薬であるスピロノラクトンを他の心不全治療薬とともに用いると、重症心不全患者の心事故(症状が悪化して治療薬が変更されたり、入院治療が必要になること)率および死亡率が減ることが知られています。
症状が進行した患者さんには、心機能を回復させる目的で
また本症では、心臓のなかに血栓(血液の固まり)が生じやすいため、血液が固まりにくくするような薬剤(ワーファリン、アスピリンなど)がよく用いられます。重症の不整脈を合併している場合には、抗不整脈薬や高周波
内科的治療に反応しない重症例には外科的治療が行われます。拡大した心臓の一部を切除して心室を縮小させることにより、心機能を改善させる左室部分切除術という方法もありますが、今のところ明らかに有効な治療法は心臓移植しかありません。日本でも1997年10月に脳死臓器移植法が成立し、心臓移植が可能になりました。しかし、提供される臓器の数には限りがあるので、末期の拡張型心筋症患者すべてを移植治療で救命することは極めて困難です。
これらの問題点を解決するため、細胞移植や遺伝子を用いた心筋再生治療など新しい治療法の早期開発が望まれています。
前嶋 康浩
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
…非閉塞性肥大型心筋症が病状の進展によって拡張型に移行する可能性も推測されている。
[拡張型心筋症]
心筋の変性,繊維化が起こり,心室筋の収縮不全が生ずるために心臓の拡大が著しく,ポンプ不全が特徴的である。その結果,以前につけられていた診断名鬱血型のとおり肺に鬱血症状を呈する心不全状態を将来することが多い。…
※「拡張型心筋症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新