デジタル大辞泉
「特発性心筋症」の意味・読み・例文・類語
とくはつせい‐しんきんしょう〔‐シンキンシヤウ〕【特発性心筋症】
原因不明で起こる心筋の障害。心室壁が肥厚して内腔が狭くなる肥大型、心筋細胞が変性して収縮力がなくなる拡張型があり、拡張型は国の指定難病となっている。
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とくはつせい‐しんきんしょう‥シンキンシャウ【特発性心筋症】
- 〘 名詞 〙 原因不明の心筋疾患。臨床的には、拡張型と肥大型に類型化される。心悸亢進、呼吸困難、胸痛、めまいなどの症状があり、突然死することもある。また、遺伝的に出現するものもある。
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家庭医学館
「特発性心筋症」の解説
とくはつせいしんきんしょう【特発性心筋症 Idiopathic Cardiomyopathy】
◎肥大型(ひだいがた)、拡張型(かくちょうがた)が大半を占める
[どんな病気か]
心臓は心筋(しんきん)という特別な筋肉からなり、冠動脈(かんどうみゃく)から血液の供給を受けて、全身に血液を送り出すポンプとしての役割をはたしています。この心筋に原因不明の異常が生じ、心臓の形やはたらきに異常を生じた病態を総称して、特発性心筋症といいます。
一方、心臓以外の臓器の病気、または全身の特定の病気にともなって、心筋に異常が生じた場合は特定心筋疾患(とくていしんきんしっかん)と呼ばれ、特発性心筋症と区別されてきました(コラム「特定心筋疾患」)。しかし、最近の医学の進歩によって、特発性心筋症の一部は、遺伝子の異常に基づくことが明らかになりました。そのため、近い将来、これらの呼び名は、変わる可能性もあります。
心筋症は、10万人に10人程度の頻度でみられます。そのなかで特発性心筋症には、肥大型、拡張型、拘束型の3つの型があり、肥大型と拡張型が全体の大部分を占めています。
特発性心筋症には、根本的な治療法がありません。なかでも、心不全をくり返したり、突然死をおこす確率が比較的高い特発性拡張型心筋症(とくはつせいかくちょうがたしんきんしょう)は、厚労省が定めた特定疾患(いわゆる難病)に指定され、医療費の自己負担分は、大部分が公費で支払われます。
◎肥大型心筋症(ひだいがたしんきんしょう)
心室(しんしつ)の壁の厚みが異常に増すタイプで、心室内での肥大する場所によって、中隔肥大(ちゅうかくひだい)とか、心尖部肥大(しんせんぶひだい)というようにグループ分けされ、それぞれ症状も異なります。発生数の約3分の1は、家族性(遺伝的)といわれ、1つの家族内で何人も発生することがあります。
最近、この病気は、遺伝子の異常によって、心筋細胞を収縮させるたんぱく質が、うまくはたらかないことで生じることがわかりました。しかし、異常の原因となる遺伝子は、1つのパターンにとどまらないこともわかっており、正確に遺伝子的な診断ができるようになるには、もう少し時間がかかることでしょう。
●症状
肥大型心筋症の場合、その多くは無症状で経過し、職場などでの健康診断時に、聴診、胸部X線像や心電図の異常から発見されます。
心筋の肥大にともなって心臓がかたくなり、肺から左心室(さしんしつ)に血液が入りにくくなったりします。また、肥大の場所によって、血液を大動脈へ送り出す際に左心室から血液が出にくくなり、動悸(どうき)、胸部の不快感、胸痛、息切れ、めまいをひきおこすことがあります。
不整脈(ふせいみゃく)で発見されることもあります。ときに突然死の原因となり、とくに運動中や運動をやめた直後に多くおこるとされています。また、長期的な経過のなかで左心室が拡張し、心不全(しんふぜん)にいたることもありますので、循環器専門医の定期的診察を受けるようにしてください。
●検査と診断
肥大型心筋症は診察、心電図、心臓超音波検査により、ほぼ診断がつけられます。ときに心臓カテーテル検査を行なって、冠動脈に異常がないことを確認したり、心臓の組織を少し切り取って顕微鏡で心筋の異常を確認する必要もあります。24時間心電図(ホルター心電図検査)や心臓核医学検査が有用なこともあります。
●治療
肥大型心筋症には、心臓のかたさを改善し、血液の流出障害を軽減し、不整脈を予防するためにβ遮断薬(ベータしゃだんやく)、カルシウム拮抗薬(きっこうやく)や、抗不整脈薬が使われます。
薬剤が効かない場合は、心筋の肥大部分を切除する手術を行なったり、ペースメーカーや植(う)え込(こ)み型除細動器(がたじょさいどうき)(コラム「植え込み型除細動器」)を植え込むこともあります。
●日常生活の注意
肥大型心筋症の場合、日常生活の範囲では、ほとんど問題はありません。女性では、妊娠、出産も可能です。しかし、スポーツをしたり、バスや電車に乗り遅れまいと急に駆けだしたり、重い物を持ち上げたりするのは避けるほうがよいでしょう。具体的な運動制限の範囲については、循環器専門医の指導を受けましょう。
◎拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)
左心室の拡張を特徴として、心臓のポンプとしてのはたらきが低下した病態を示します。
心筋は変性、減少して、左心室は線維化しますが、肥大型心筋症のような左心室壁の肥厚はありません。近年は、ウイルス性心筋炎(せいしんきんえん)(「心筋炎」)の後遺症として、心筋が障害されて、この病態を示すものが多いと考えられていますが、数%は遺伝性の発症といわれています。
●症状
拡張型心筋症の場合、心臓のポンプとしてのはたらきがおちても、すべての人に症状がみられるわけではありません。健康診断で、心臓の拡大や心電図異常を指摘されて発見されたり、息切れ、動悸、疲れやすさ、足のむくみのような軽い症状から発症することもあります。重症例では、安静時や臥床時(がしょうじ)(寝込んでいるとき)にも息苦しさがあり、全身のむくみや危険な不整脈が現われます。
●検査と診断
拡張型心筋症の場合は、診察、心電図検査、胸部X線検査、心臓超音波検査によって、ほぼ診断がつきます。動脈硬化(どうみゃくこうか)の危険因子をもつ人には、心臓カテーテル検査が行なわれ、冠動脈の異常(虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん))の有無が確認されます。
また、特定心筋疾患ではないことを確認するため、心臓の組織を切り取ってきて顕微鏡で心筋の異常を確認する場合もあります。24時間心電図(ホルター心電図)や心臓核医学検査も有用な情報を与えてくれます。
●治療
拡張型心筋症に対しては、以前は強心薬(きょうしんやく)(ジギタリス強心配糖体など)や利尿薬(りにょうやく)による治療が中心でしたが、最近は、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(へんかんこうそそがいやく)やβ遮断薬の有効性が明らかにされています。
不整脈に対しても、細心の注意が必要で、特殊な抗不整脈薬やペースメーカー、植え込み型除細動器の植え込みが必要になることもあります。
また、拡張型心筋症に心房細動(しんぼうさいどう)などの不整脈を合併すると、血栓症(けっせんしょう)がおこりやすくなります。そのため、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬(こうぎょうこやく))も使われます。
重症例では、心臓移植も考えなければなりません。心臓移植の第1の対象となるのは、この病気です。
●日常生活の注意
拡張型心筋症の場合、残念ながら、心不全死や突然死(とつぜんし)をおこす人が多いために、この病気であると診断された人は、循環器専門医の指導のもと、厳格な生活管理が必要になります。
塩分を控え、安静に生活することがなによりも重要です。症状がなくても薬は必ず飲み続けてください。
軽い事務などの仕事はできますが、力仕事や長時間にわたる勤務はやめてください。
◎拘束型心筋症(こうそくがたしんきんしょう)
心室内に血液を充満させるために心室が拡張しようとするはたらきが障害された病態で、心内膜や心筋の病変により機能障害が生じます。
治療は、肺や全身のうっ血をとるために、利尿薬の使用が主体になります。
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特発性心筋症
とくはつせいしんきんしょう
原因不明の心筋疾患をいう。病態によって肥大型心筋症と拡張型心筋症(うっ血型心筋症)の2型に大別される。
[井上通敏]
心筋の異常な肥大が病変の主体をなし、そのため心室内腔(ないくう)が狭小化し、心室壁の伸展性が障害され、心室への血液流入が障害される。顕微鏡的に、心筋組織には配列や形の異常な肥大や変性、線維化がみられる。心室壁の肥厚部位により、心室中隔に肥大が著明で大動脈下部の左室流出路が狭窄(きょうさく)する閉塞(へいそく)型と、それ以外の非閉塞型の2型に細分される。家族内発生がしばしば認められ、遺伝的要因が強い。発症年齢は20~40歳代に多く、男性の発生が女性の2倍の頻度で認められる。自覚症状は軽度で無症状のことが多く、しばしば検診などで偶然に原因不明の心肥大を指摘されて発見される。ときに心悸亢進(しんきこうしん)、運動時呼吸困難、失神やめまいを訴えることがある。診断は、心雑音や心電図異常のほか、心超音波エコー法、心カテーテル検査、心血管造影法、心筋生検法によって行われる。治療は、左室伸展性の改善、左室流出路狭窄の改善のためにβ(ベータ)遮断剤が主として用いられ、ときに心筋の肥大した部位を切除することもある。過激な労作中、ときに睡眠中に突然死することがあるので注意を要する。
[井上通敏]
特発性うっ血型心筋症ともいい、心筋は変性が著しく、心筋の収縮不全が病変の主体である。心内腔は著明に拡大し、うっ血性心不全症状を呈する。指定難病である。自覚症状として、呼吸困難、易疲労感、浮腫(ふしゅ)、不整脈などを訴える。心超音波エコー法、心カテーテル検査、心血管造影法、心筋生検法により診断される。治療は、心不全に対してジギタリス剤、利尿剤などが用いられ、長期にわたる安静臥床(がしょう)が必要である。また、しばしば血栓症を伴うため抗凝固剤も併用される。しかし多くの場合、難治性の心不全に発展し、あるいは重篤な不整脈が発現する。肥大型に比べて予後は不良である。
[井上通敏]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
特発性心筋症
とくはつせいしんきんしょう
sudden cardiomyopathy
原因不明の心臓疾患。 10~50歳に多く,男性が女性の2倍以上を占め,動悸,胸痛,呼吸困難,不整脈などの症状がある。大きく分けて拡張型と肥大型の2つのタイプがあり,拡張型は心室が大きくなり,心室壁が薄くなる。肥大型は逆に心室が狭まり,心室壁が肥厚する。拡張型は予後が悪く,しばしば心臓移植の適応となる。肥大型のうち遺伝性のものは自覚症状がないため,心臓に過度の負担をかけ急死するケースもある。治療法は対症療法が中心で,拡張型は安静や食塩制限,利尿剤の投与などが行われ,肥大型ではβ遮断薬が投与される。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の特発性心筋症の言及
【心筋炎】より
…1950年代以後になると,従来問題にされてきたリウマチ熱,ジフテリア菌などによる細菌性心筋炎に代わって,コクサッキーBウイルス,インフルエンザウイルスなどによるウイルス性心筋炎およびマイコプラズマ心筋炎が注目されるようになってきた。とくに各種のウイルス性心筋炎は,原因不明の心筋炎も含めて,特発性心筋症の原因となるのではないかという点で重要であり注目されている。ウイルス性心筋炎は6ヵ月以内の乳児,思春期以後に多くみられる。…
【心筋症】より
…心筋を侵し心臓拡大,心臓肥大をきたす疾患の総称。原因不明のものを特発性心筋症idiopathic cardiomyopathy,診断がついた全身性疾患との関連が明らかなものを特殊な心筋疾患(従来,続発性心筋症といわれていた)と呼ぶ。しかし後者は全身性疾患名を用いればよいので,多くの場合,心筋症という言葉は特発性心筋症を指していう。…
※「特発性心筋症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」