北原白秋の第二詩集。1911年(明治44)6月東雲堂書店刊。1906年から1911年にかけて制作された詩編が収められ、『邪宗門』や『東京景物詩及其他(およびそのた)』と制作時期が重なっている。「序詩、骨牌(かるた)の女王(クイン)、断章 六十一、過ぎし日、おもひで、生の芽生(めばえ)、TОNKA JОHNの悲哀、柳河(やながわ)風俗詩」の7章、全215編の詩からなる。著者自装で自筆の挿絵が用いられ、また西洋画に強い関心を寄せた司馬江漢(しばこうかん)の銅版筆彩画(写真版)が一葉挿入されている。冒頭の散文「わが生ひたち」には、現在生活の根底を強く印象させるため、追憶のうちに感受される自叙伝としての「一種の感覚史なり性欲史」を詩として刻印したことが記されている。象徴的手法と歌謡的要素の混合した抒情(じょじょう)小曲集により、白秋の幼児から少年に至る裏面の恐怖の心理と哀傷、快楽に光が当てられた。
[阿毛久芳]
『『日本近代文学大系28 北原白秋集』(1970・角川書店)』▽『村野四郎編『日本の詩歌9新装 北原白秋』(2003・中央公論新社)』
北原白秋の第2詩集。1911年(明治44)東雲堂書店刊。傍題に〈抒情小曲集〉とある。郷里柳川の風物や幼少時の生活を華麗な散文でつづった長文の序〈わが生ひたち〉と,〈序詩〉のほか190編の詩を収めている。第1詩集《邪宗門》とほぼ並行して書かれた(一部はそれよりも前)ものであるが,前著が南蛮趣味をちりばめ,象徴詩風の技巧をこらして,世紀末的な官能を歌いあげていたのに対して,これは時に歌謡風のより柔軟で軽快な調べのうちに,南国水郷の“静かな廃市”の情緒や,そこでの感覚官能の目覚めに続く少年時の哀歓を歌っている。詩による自叙伝と言ってもよく,《邪宗門》よりも白秋の本領が発揮された詩集である。
執筆者:渋沢 孝輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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