同種の雌雄の間で,体の大きさ,形,色などに違いが認められること。こうした形態特徴ばかりでなく,生理,行動特性までを含むこともある。性的二型によって認められる違いを性差と呼ぶ。例えば,ヒトにおいて典型的な例には生殖器官や乳房がある。しかし,人類学,霊長類学的な視点では,体の大きさ,犬歯の歯冠の高さなどが注目される。それは,これらの特徴が,霊長類の社会構造と密接に関係するからである。性的二型は,C.ダーウィンが提唱した性淘汰(性選択)によって説明される。交尾をめぐる個体間の争いに成功し,より多くの子孫を残すことを可能にする特徴が進化するのである。例えば,一部の霊長類の雄に見られる大きな体や長い犬歯は,それを獲得,維持するための生理的コストがかかるものの,雌との交尾権を獲得する上で有利に働く。逆に言えば,雌との交尾権をめぐる争いの程度が低い場合は,体の大きさや犬歯の歯冠高の性差が小さくなる。交尾をめぐる競争以外に,捕食圧が高い場合,捕食防御として雄に大きな体や長い犬歯が発達することもある。
現生霊長類の中で,一般に原猿類には体重の性差は見られず,真猿類では,1.1~1.3倍に含まれる種が多い。現生類人猿では,ゴリラ,オランウータンの雄の体重は雌の2倍以上になるが,単雄単雌の社会をつくるテナガザルでは,体重の性差はほとんどない。現生霊長類で体重の性差が最大の種はマンドリルで2.5倍を超える。それに続くのがゴリラ,オランウータンである。集団によりばらつきがあるものの,現代人はチンパンジー,ボノボと同じで1.2倍程度である。化石類人猿では,性差の知られている多くの種で,雄の推定体重が雌の値の倍を超える。初期人類の体重の性差については,意見が分かれている。アルディピテクス・ラミダスArdipithecus ramidusは,チンパンジー程度の性差だったとされる一方,アウストラロピテクス・アファレンシスAustralopithecus afarensisでは,ゴリラ並の性差を唱える説とチンパンジー並の性差を唱える説が対立している。ホモ・エレクトスHomo erectus以降は,現代人程度の性差だったと考えられている。
雄(男性)の犬歯の小型化は,人類進化の初期段階から起こっている。現代人では,犬歯の歯冠高に性差は見られない。アルディピテクス属やアウストラロピテクス・アファレンシス段階でボノボ程度にまで犬歯が小型化し,雌雄の判定が困難になっている。
性的二型は体色の変異や独特な外部形態として認められることもある。雄マンドリルの顔と会陰部に見られる鮮やかな皮膚色,雄テングザルの著しく長い鼻,オランウータンの優位雄が頬にもつ脂肪を蓄えたヒダ,ヒトの顎髭などが好例である。これらの進化についても,性淘汰から説明することが可能である。
執筆者:中務 真人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…同一種の生物集団に形態やその他なんらかの形質について異なった2種類以上の個体が共存することを多型という。雌雄の区別がある生物では,大きさ,形,色などが違うことが多く,この場合を性的二型sexual dimorphismという。これに対してハチやアリのような社会性昆虫では違った働きをする個体が共存しており,これを社会的多型social polymorphismという。…
※「性的二型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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