日本大百科全書(ニッポニカ) 「フクロムシ」の意味・わかりやすい解説
フクロムシ
ふくろむし / 袋虫
節足動物門甲殻綱根頭(こんとう)目Rhizocephalaに属する海産動物の総称で、フクロムシ科、イタフクロムシ科、ナガフクロムシ科、ツブフクロムシ科などからなる。ほとんどが十脚(じっきゃく)甲殻類の寄生虫であって、成体は単なる袋状であるが、幼生はノープリウス、キプリスを経るため、フジツボと同じ蔓脚(まんきゃく)亜綱に属する。自由生活の幼生期を終わって寄生生活に移ると、蔓脚類特有の体制を完全に失い、宿主の腹部から体内に根状突起を差し込んで栄養分を吸収する。殻板、付属肢、消化管などは完全に退化し、袋状の虫体主部はほとんど卵巣によって占められる。寄生を受けた宿主は死ぬことはないが、いわゆる寄生去勢の現象を示し、性的な機能を失ってしまう。
日本近海では、ヨツハモガニやイッカクガニに寄生するケハダフクロムシSacculina pilosellaやイソガニ、ヒライソガニなどに寄生するウンモンフクロムシS. confragosaがごく普通で、ともに長径約1センチメートル、短径約5ミリメートルである。カニの腹部に抱かれた状態で収まり、肉眼的には滑らかであるが、拡大すると前種には短毛があり、後種には雲紋模様がある。イソカニダマシに寄生するイタフクロムシLernaeodiscus okadaiは扁平(へんぺい)、ホンヤドカリに寄生するナガフクロムシPeltogaster paguriは細長く、ともに宿主の体形に対する適応である。各種のカニやエビ、シャコなどにつくツブフクロムシThompsonia japonicaは一つの宿主に100以上も付着することがあり、これは一種の多胚(たはい)現象と考えられる。
[武田正倫]