改訂新版 世界大百科事典 「フクロムシ」の意味・わかりやすい解説
フクロムシ (囊虫)
蔓脚(まんきやく)亜綱根頭目フクロムシ科Sacculinidaeの甲殻類の総称。袋状で,おもにカニなど,十脚類の腹部に着生,寄生する。カニなどの腹部に短い柄でついているフクロムシの体は,薄い外套(がいとう)膜で覆われているだけで,フジツボやエボシガイなどのような殻板はまったくない。袋状をした体の中には内臓があるが,付属肢や消化器官などはまったくなく,卵巣や精巣で満たされている。
卵から孵化(ふか)したノープリウス幼生は袋の一部に開いている小孔から海中に泳ぎ出る。自由生活をして,脱皮を重ねた後,キプリス幼生になると,寄生の対象となる脱皮直後のカニなど,それぞれの種類の特定の宿主を探す。宿主に達すると,その体表に生えている剛毛の根もとにかぎ状をした第1触角でつかまり脱皮をする。このとき,胸部と腹部は捨てられ,残った頭部は細胞の塊になり,キチン質の膜に包まれたケントロゴンと呼ぶこの類に特有な幼生期となる。やがて,ケントロゴン幼生の前端からはキチン質の注射針のような筒がのび,その先端は宿主の剛毛の根もとの膜を突き破る。細胞塊はこの注射針の中を通って宿主の体内に入り,宿主の血液の流れによって腸に達し,そこに付着し,根状の枝を四方にのばす(この時期をフクロムシの体内期sacculina internaという)。根状部は宿主の体内のいたるところに張りめぐらされ,腹部の組織内にのびてきた根状部の結節は,宿主の脱皮とともに外部に袋状の体を現す(この時期をフクロムシの体外期sacculina externaという)。根状部は宿主の筋肉,消化管,中腸腺(肝膵臓),神経や生殖腺などにも広がり,組織を破壊し,これらの組織や体液から養分を吸収する。このため造雄腺の発達がおさえられるなど,雄性ホルモンの分泌障害が起こり雌化が起こる。フクロムシの寄生を受けた雄は交尾肢の消失,抱卵肢の出現,腹部の形の雌化など,雌的形態を現す。一般に雌では外形的には雄ほどの著しい変化は現れない。
ウンモンフクロムシSacculina confragosaは扁平な繭形,長径10mm,短径5mmくらい,黄色をしており,磯にふつうにみられるイワガニやヒライソガニにつく。ニセフクロムシHeterosaccus papillosusは袋状をし,約13mmくらい,イシガニやフタホシイシガニに寄生する。異尾類のイソカニダマシの腹部には,袋状部が赤く,根状部が緑色をした長径5mm,短径2.5mmくらいのイタフクロムシLernaeodiscus okadaiと,大きな角状の突起を袋状部にもち,橙色をしたツノイタフクロムシL.cornutusとが寄生する。ツブフクロムシThompsonia japonicaはカニ,ヤドカリ,エビ,シャコ類などに広く寄生するが,宿主の胸脚や腹肢など,腹部以外の場所にも,小さい長い柄のついた2mmくらいの袋状部をたくさん群生させて寄生する。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報