女性における性ホルモンで,広く動物をも含めて一般的にいう場合には雌性ホルモンという。女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類がある。女性特有のものである精子の受入れ,着床,妊娠の維持や分娩,授乳などを支配しているのは女性ホルモンであるが,また,このホルモンは女性の二次性徴の発達や維持のために重要な役割をはたしている。そのために,その不足,欠乏は諸種の機能障害や疾患をひき起こすので,これらの異常時の欠乏の補償や治療に女性ホルモンが用いられる。ただし近年,より強力な合成ホルモン剤が開発され,エストロゲン(エストロン,エストラジオール-17β,エストリオールなど),プロゲステロンともに天然のホルモンの臨床利用は少なくなった。
2種の女性ホルモンはいずれも卵巣でコレステロールからつくられるが,胎盤,副腎皮質のほか微量ながら男性の睾丸でもつくられる。これらの生成は,脳下垂体の性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピンのこと。卵胞刺激ホルモンFSHと黄体形成ホルモンLHがある)によって支配される。エストロゲンの分泌は,その血中の濃度からみると,月経発来時は低く,その後漸次増加して排卵(月経周期の14日ころ)直前に最大となり,20日ころに再び第2のピークを示し,一方プロゲステロンは排卵後黄体がつくられることによって分泌が始まり,周期の22日ころに最大の分泌を示す。エストロゲンの分泌に伴い子宮粘膜は増殖する(増殖期)が,排卵後黄体が形成されると分泌期に入る。
エストロゲンは,女子が思春期に達したときに起きるいろいろな変化に重要な影響を及ぼし,〈女性らしさ〉の形成に関与する。すなわち,腟や子宮の成長を促し,乳腺の発育や間質への脂肪の沈着,乳頭・乳房や陰部の皮膚への局部的な色素の沈着,腋毛や恥毛の成長をもたらすとともに,心理的・情緒的な変化をひき起こす。プロゲステロンは,黄体期に分泌されると,先行したエストロゲンによって増殖した子宮内膜や子宮頸管腺から豊富な粘稠度の高い水様分泌物を生成させる変化をもたらすが,乳腺にも作用し,腺管の増殖をひき起こす。妊娠末期に乳腺の血管網は著しく増殖するが,分娩後の腺管破裂による乳汁分泌は,両種ホルモンの作用下にのみ発現する。プロゲステロンには発熱作用があり,正常月経周期中の体温を毎日測定すると,周期の中ごろに約0.6℃の上昇をみるが,これは排卵と相関性がある。体外からプロゲステロンを投与すると,子宮内膜の間質の脱落膜の変化が妊娠初期像と似てきて,投与を続けると次の月経が発来しない。経口避妊薬(ピル)はこの原理をもとにつくられたものである。
→エストロゲン →プロゲステロン
執筆者:大森 義仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
基準値
エストロゲン(尿検査)
男性:2~20μg/日
女性:卵胞期 3~20μg/日
排卵期 10~60μg/日
黄体期 8~50μg/日
閉経期 10μg/日以下
プロゲステロン(血液検査)
男性:0.4ng/mℓ以下
女性:卵胞期 0.1~1.5ng/mℓ
黄体期 2.5~28.0ng/mℓ
黄体中期 5.7~28.0ng/mℓ
閉経期 0.2ng/mℓ以下
卵巣や黄体、胎盤の機能などをチェック
エストロゲン、プロゲステロンともに卵巣から分泌される女性ホルモンです。
エストロゲンは、女性の第二次性徴の発現、生殖機能維持や卵胞の成熟、排卵促進、子宮内膜の増殖などの性周期の前半を維持する役割を果たしています。
一方、プロゲステロンは、卵胞発育の抑制などの性周期後半の維持、子宮内膜の肥厚、妊娠持続作用などの役割を果たしています。
これらのホルモンは、卵巣や黄体、胎盤の機能を調べるときに検査します。
検査値からの対策
エストロゲンやプロゲステロンの値は、性差・個人差・年齢別変動・月経周期変動が極めて大きいため、これらを考慮して解釈しています。
すなわち、1回の測定で診断を行うのでなく、日をかえて何回か測定し、その測定値を総合的に判定します。
疑われるおもな病気などは
◆エストロゲン
高値→エストロゲン産生腫瘍、先天性副腎酵素欠損症
低値→卵巣機能不全、黄体機能不全
◆プロゲステロン
高値→排卵誘発剤使用
低値→卵巣機能不全、黄体機能不全
医師が使う一般用語
「エストロゲン」「プロゲステロン」
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
女性および雌性動物の生殖器官の機能調節,発育維持,第二次性徴の発現をつかさどるホルモン.発情ホルモン(エストロゲン,卵胞ホルモン,濾胞ホルモンともいう)と黄体ホルモン(ゲスタゲン)に大別される.発情ホルモンは,卵巣濾胞,胎盤などから分泌され,黄体ホルモンと協力して性周期を起こさせる.黄体ホルモンは卵巣黄体および胎盤から分泌され,発情ホルモンと協力して性周期を起こし,妊娠を持続させる作用をもっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報
…そしてほとんどの男性化作用をとりしきるのは男性ホルモンであるといって過言ではない。これに対し,女性ホルモンは性分化にはほとんど意味をもたず,女性に分化したものを,より強調し,修飾する作用をもつにすぎない。
[性の連続性]
男性ホルモンは解剖学的な性,生理学的な性,行動科学的な性を強力に方向づけ,規定していく。…
…発生初期には性腺の分化にも関係する。性ホルモンは雄性ホルモンまたは男性ホルモンと雌性ホルモンまたは女性ホルモンに二大別されるが,いずれもステロイドホルモンである。近年,生体内には存在しないが,性ホルモンと同じ作用をもつ合成物質がいくつも作り出されており,これらを含めた総称として性ホルモン物質sexogenという言葉が用いられる。…
※「女性ホルモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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