改訂新版 世界大百科事典 「悔返」の意味・わかりやすい解説
悔返 (くいかえし)
中世の日本で,いったん処分,譲与した財産所領をその譲り主が改めて取り戻す行為のこと。とくにこれは,《御成敗式目》の第20条に,父祖が子孫に与えた財産所領は,父祖が自由にこれを悔い返しうるとする表現がみられるように,鎌倉時代における父祖権のもっとも重要な内容の一つとみなされていたのである。しかも,この父祖の悔返権はきわめて強力なものであって,たとえ父祖からいったん所領を譲られた子孫の権利が,幕府によって安堵(あんど)(公認)されたのちであっても,父祖の気持ちが変わったときには,父祖はこれを取り戻し,幕府の安堵状を無効にすることさえできたのであった。ただしこの父祖の悔返権の法的根拠については,父祖のもつ〈親権〉に由来するという見方と,彼がその所領の開発主の子孫であるという領主権にもとづくとみる見方とがあって,まだ必ずしも定説をみるにはいたっていない。
執筆者:鈴木 国弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報