情動と進化(読み)じょうどうとしんか(英語表記)emotion and evolution

最新 心理学事典の解説

ダーウィンDarwin,C.が『ヒトと動物の情動表出The expressions of emotions in man and animals』(1872)で,人間と動物は情動の表出において共通性をもつことを指摘して以来,行動の系統発生とその適応目的に関する多くの研究が行なわれてきた。それはまた,心と行動進化の「なぜ」を問う研究でもあった。ここでは,昆虫以上の種に見られる社会性の進化を推し進めた原理は何かという視点からこの問題を考え,末尾部では嫉妬を具体例に,おとなと子ども,雄と雌(男と女)の行動戦略の違いを見る。

【進化生物学evolutionary biology】 進化生物学は生物学の一分野ではあるが,生命進化の歴史を化石に探る古生物学から,種の分岐の歴史を分子構造の変化に探る分子生物学や分子遺伝学,また人類の心の構造や社会・文化進化,あるいは知能ロボティクスの研究まで,非常に広範な領域が含まれる。ダーウィンの自然選択理論は現在の科学全般に大きな影響を与えているが,ヒトを含むすべての動物種の社会的行動を進化論モデルで説明することを可能にした。なお進化生物学の最終目的は,言語に代表される「心の構造」の特殊性がなぜ人類のみに進化してきたのかという問いに解を与えることにある。その学派には,以下のようなものがある。

【行動進化の諸学派】 比較行動学ethology ダーウィンは『人間の由来と性に関連した選択The descent of man,and selection in relation to sex』(1871)の中で,動物は本能instinct以上の知性intelligenceをもってさまざまな問題解決を図っていると述べたが,これを実験レベルで証明したのがソーンダイクThorndike,E.L.(1911)である。動物に関する彼の実験は多岐にわたるが,なかでも「ネコの問題箱実験」は有名である。この実験で彼は,動物は単なる見通しによって行動しているのではなく,自らの行動が問題解決に効果をもたらしたか否か(効果の法則law of effect)によって反応が生じやすくなることを証明し,行動のオペラント学習モデルを示した。

 同時期にヨーロッパでは,ハインロートHeinroth,O.の弟子であるローレンツLorenz,K.や動物の行動が解発因releaserによって引き起こされることを研究したティンバーゲンTinbergen,N.,あるいはミツバチが8の字ダンスで花の位置に関する情報伝達を行なっていることを研究したフリッシュFrisch,K.vonなどによって比較行動学が発展した。ローレンツは家禽類の親子の絆を形成する刷り込みimprinting現象の研究で有名である。彼らは「個体的および社会的行動様式の組織化と誘発に関する発見」によって,1973年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。個体内部に発生する生理的なエネルギーが増大することによって行動が解発されるという彼らの考え方は本能論instinct theoryであるが,ノーベル賞受賞理由に見るように,動物の行動はその形態的特徴同様,環境に合わせて独自の進化を遂げてきたことを証明したことに対して与えられた評価であった。

 当然のことであるが,行動の機能研究は一般性をもつ原理の発見でなければならない。そこでティンバーゲンは,広く知られている四つの「なぜ」という問いを発した。すなわち,行動の直接の因果関係と行動の発達,それがどのように個体の環境適応につながったのか,また行動の系統発生的基盤は何かの四つである。彼は後に自閉症の研究に移ったが,刷り込みのアイデアに強く影響を受けていたことから,子どもが示す情緒混乱などの社会的不適応行動における母親の影響を強調した。すぐにわかるようにそれは大きな間違いであったが,ティンバーゲンのような影響力のある研究者が精神分析学的な「母性」を重視したことは,自閉症という発達障害の社会的理解に遅れを作り出したことは否めない。

 行動の機能を単一目的で説明する比較行動学は,行動の連鎖(固定的動作パターン)のなぜは説明できても,社会的行動のなぜを説明することができない。またヒトと動物が進化の環でつながっている時,本能モデルは人間の行動が動物の行動にその祖型をもつことを強調するため,理性を重視するジェームズJames,W.やデューイDewey,J.の影響が強かったアメリカにおいては,思潮の水面下に潜んでいた。

 社会生物学sociobiology 個体を進化の単位と考えたダーウィン理論は,自らの繁殖を放棄して血縁を助けるアリやハチなど,半倍数性性決定システムをもつ真社会性昆虫の社会が成立する理由を説明することができなかった。しかしハミルトンHamilton,W.D.(1964)が,血縁度relatedness()という遺伝子共有率のアイデアを出し,血縁選択モデルkin selection modelでこの問題を解決した。これはハミルトンの包括適応度モデルinclusive fitness model(B>C)とよばれるが,利他的行動を取ることで個体が得る利益(B)が,支払うコスト(C)を上回るときに血縁度()が増加することを意味している。つまり個体は,自分が直接子孫を残さなくても,血縁を助けることで互いが共有する遺伝子型(対立遺伝子)を集団内に広げていくことができる。しかしそれは,支払う経費よりも受容者が受ける利益が大きい場合に限定されることを明らかにした。

 血縁選択モデルはダーウィン理論とメンデルMendel,G.を祖とする集団遺伝学を融合させ,人間の営みのすべてを自然選択理論で説明することを可能にした。ハミルトンをアメリカに紹介したウィルソンWilson,E.O.(1975)が,「すべての社会行動の生物学的基盤についての体系的研究」をめざすと宣言した社会生物学はその一つである。しかしウィルソンが総合を試みた社会生物学は,適者生存や優勝劣敗を合理化してナチズムと結びついた社会ダーウィニズムsocial Darwinismの再来を恐れる左翼知識人の警戒をよび起こし,有名な社会生物学論争sociobiology debateを巻き起こした。論争の最初は,グールドGould,S.J.やルウォンティンLewontin,R.たち「人民のための科学派」とウィルソンとの対立であったが,後には哲学のポパーPopper,K.や神経生理学のエックルスEccles,J.たちを「人民のための科学派」に巻き込み,ウィルソン側に同じく哲学のデネットDennett,D.や人類学のデ・ボアDe Vore,I.,社会人類学のフルディHrdy,S.たちを巻き込んでほぼ30年間続いた。しかしながらこの論争は,最終的には仮説検証に忠実な社会生物学,あるいは行動生態学の研究者たちの勝利に終わった。

 行動生態学behavioral ecology すべての生物学者たちが,前述の「ウィルソン」対「人民のための科学派」論争に巻き込まれたわけではない。ティンバーゲンの弟子であり,後述する『利己的遺伝子The selfish gene』(1976)を著わしたドーキンスDawkins,R.は,ウィルソンよりもさらに過激に遺伝子の役割を強調したし,ミームmemeという文化伝達に機能する遺伝子を仮説したりもしたが,イギリスという国柄のせいか,ウィルソンほどの攻撃は受けなかった。

 動物の心や行動,それに社会構造の複雑化の「なぜ」を論じる生物学者たちの中には,無意味な論争に巻き込まれることを避け,自らの理論的立場を社会生物学ではなく行動生態学,あるいは進化生物学evolutionary biologyと称する人たちも多い。代表的な研究者としてドーキンスのほかに,メイナード・スミスMaynard-Smith,J.やトリバースTrivers,R.,文化や国家をも含む社会における人間の行動パターンを研究したアレグザンダーAlexander,R.D.,あるいはルウォンティンの師であり,文化はラマルク的な形式で蓄積されていくとして人間社会の学習の重要性を強調したドブジャンスキーDobzhansky,T.などがいる。ウクライナからアメリカへ帰化したドブジャンスキーは社会生物学論争とは距離をおいたが,アメリカ的な機会の平等を強く主張し,人間に見られる遺伝的多様性は社会の利益を最大限にするためのものであると主張した。

 進化心理学evolutionary psychology タブラ・ラーサtabula rasa(磨いた板)モデルを唱えたロックRock,J.以来,人間の意識や行動は後天的に白紙の上に書き込まれていくことを前提としたイギリス経験論が近代を主導したが,行動の多様性を作り出している要因は「氏か育ちか」という二項対立で論じられることが多かった。現代的にいえば,遺伝的要因と環境的要因である。移民国家でありプラグマティズム思潮が強かったアメリカでは,環境要因を極端に重視する立場として行動主義心理学が成立したし,逆にヨーロッパではゴールトンGolton,F.以来の本能を重視する立場が強く,比較行動学の成立につながっていった。なお,ロンドン大学のゴールトン研究室はピアソンPiason,C.やフィッシャーFisher,R.たちによって継承され,ハミルトンやプライスPrice,G.R.といった社会生物学,あるいは行動生態学の理論モデルを発展させる原動力になった人びとが在籍していた。ここから統計学や人類遺伝学が誕生したが,それらはやがて行動遺伝学や進化心理学に発展していった。

 社会生物学がそうであったように進化心理学は,証明することができない「お話なぜなぜ物語」としてポップ心理学扱いされることも多いが,トリバースの弟子であったコスミデスCosmides,L.,その夫のトゥービーTooby,J.,さらにバーコウBarkow,J.たちを中心として,1990年代以後,急速に拡大されてきた研究領域である。ウィルソンが,「結果として遺伝子=心=文化のフィードバックを伴う,継続的な人類進化に焦点を合わせた」(Segerstrale,S.,2000)のに対し,進化心理学は現在の文化環境における心の構造を問題にする。約1万年前から急速に進化速度を速めた文化内容を受け入れるための心理システムが,人類に新しく構造化される必要があったその理由を,人類に備わった利他性や利己性の視点から考える新しい学際領域が必要となったのである。

【心の構造の進化要因】 このように脳と心は分離不可分なものであり,個体がその環境に最大に適応する過程で,人類はことばを獲得し,文化を創造して進化させてきた。そこで以下,ことばという記号を操作してイメージを作り上げることができる人類の心の構造を進化させてきた要素について概説する。

 包括適応度inclusive fitness ハミルトンはその血縁選択モデルの中で,環境適応に有利な特性が直系の子ども以外にどのようにして広がっていくかを説明する概念として,包括適応度を提起した。包括適応度の概念は集団遺伝学の祖の一人であるホールデンHaldane,J.B.S.が提起していたが,ハミルトンは自分が直接子孫を残すだけではなく,同じ遺伝子型をもつほかのメンバーの繁殖を助けることでも同じ効果があることを,プライスの数式モデルを使って証明した。ただ,遺伝子を共有する確率(血縁度)計算は兄弟・姉妹の場合0.5,いとこの場合0.25といった単純なものではなく,社会環境による利益や損失を計算しなければならないのでかなり複雑なものになる。またプライスは,協力か裏切りか,いずれの戦略が集団の中心的行動戦略になり得るかという問題を検討したメイナード・スミスの「タカ・ハト(・ブルジョアジー)」ゲーム理論の成立にも寄与している。これは「進化的に安定した戦略モデルevolutionary stable strategy(ESS)」という名前でも知られている。

 利他主義altruism ある遺伝子が集団の中に広がっていくためには,もしそうすることが必要であるならば,自分の直接の繁殖を犠牲にしてでも,他個体を助ける行動が具体化される必要がある。これが利他的行動altruistic behaviorである。他個体を助けることで遺伝子を共有する個体の生き残りが促進されるならば,自己犠牲は成立するのである。

 利他主義は,人類の道徳性の進化にまで踏み込んだ社会生物学の絶対的な理論的背景であったが,互いに無関係か,あるいはほとんど関係をもたない個体が種内あるいは種間で助け合う行動が,自然界には広く見られる。この行動はトリバース(1971)によって,互恵的利他主義reciprocal altruismと名づけられた。過去に助けてくれた個体に対し見返りを与えることであるが,助けた個体が支払ったコスト以上に見返り利益が大きいとき,利他的行動は進化するが,このとき「だまし」をする個体を見つけ出す必要がある。これがアクセルロッドAxelrod,R.やハミルトンが進化生物学の中に導入した「囚人のジレンマ」ゲームである。しかし,利他的行動が確実に自分に見返りをもたらすことを証明する数理モデルはいまだできていない。

 利己的遺伝子selfish gene 高等脊椎動物に広く備わっている利他的行動は,遺伝子が自己の複製を集団の中に広めることにつながっているというドーキンスの利己的遺伝子説によって,人びとに強いショックを与えた。ドーキンスが用いた比喩を,人間は遺伝子に操作されていると解釈した人が多くいたのである(遺伝子の乗り物説)。しかし彼が主張したことは,ある個体が利他的行動を取ることでその遺伝子を共有する他個体が生き残れば,結果的に集団内での遺伝子共有率が上がるということであり,利他的行動をとらえる視点の違いにすぎない。

 社会脳social brain 動物はその社会生活において,相互に影響を及ぼし合う手段として多種多様な信号を用いるが,利用目的は求愛から子育て,資源の獲得競争に至るまでの社会的行動のすべてにおける情報交換である。このとき,つねに変化する状況に合わせて適切に信号を送る手段として情動が進化した。包括適応度の視点からいうならば,哺乳類以上の種において情動をコミュニケーション行動にうまく応用してきた個体が,生き残る子どもの数を最大にした。言い換えれば眼や表情,しぐさなどに表出される情動を処理する認知機能や,「心の理論」に代表される他者の心理的過程を推測するソーシャル・ブレイン(社会脳)機能を洗練させた個体が生き残り,社会的場の関係を意識の中に構造化するための脳機能が進化した。これはマキャベリ的知性仮説Machiavellian intelligence hypothesisともよばれ,なぜ知の社会的機能が進化したのか,霊長類学からの問いかけでもある(Byrne,R.,& Whiten,A.,1988)。現在,ソーシャル・ブレイン領域と考えられているのはミラー・ニューロン系を代表に,意志と感情制御の中枢である前頭前皮質内側部,感覚・運動に関係する帯状回,とくに吻側部,1次評価の座である扁桃体などである。

 心のモジュール理論modularity of mind 脳における言語関連領域がブローカBroca,P.P.やウェルニッケWernicke,K.によって発見されていたが,重篤のてんかん患者の脳梁切断手術を行なったスペリーSperry,R.やガザニガGazzaniga,M.S.たちによって,左右半球に局在するさまざまな機能が発見された。このような先行研究から,認知科学者のフォーダーFoder,J.A.は,脳に存在する情報処理機能単位としてのモジュール論を展開した。しかし,脳のすべての情報処理機能をモジュールだけで説明することには無理があり,ミラー・ニューロン系を構成する複合的システムのように,モジュール同士がネットワークを形成して処理にあたっていると考えるのが妥当である。

 感情関連でも脳のモジュールは確認されている。ヘビのみに特殊に反応する扁桃体のモジュールや,同じくクモやスイカ,笑顔などに反応するモジュールがそれである。なぜ扁桃体にこのようなモジュールが備わっているのかの理由であるが,感覚刺激が視床皮質路に到達する半分の時間で扁桃体に到達するため,危険に対して正確な認知以前にとりあえずの回避反応をすることで,齧歯類や原猿類が生き延びてきたからである。

 性選択sexual selection ダーウィンが進化原理の一つと考えていたのが性選択である。鳥類の雌は目立たない色彩をしていることが多いが,雄は逆に非常に目立つ装いをしている。目立つことで捕食圧が強くかかるが,それに耐えて生き延びていくことは雄のもつ優秀な資質をアピールすることにつながり,雌によって選択される機会が増加する。こうして雄と雌は,異性に選択されるために互いにその形態や装いを違えてきたというのが性選択で進行した現象である。これは雌雄選択sexual selectionとよばれている。同性間競争は主に雄同士の間に働く選択圧であるが,例外的にレンカクのように雌の間に働く場合もある。雄は多くの雌に自分の遺伝子を継承させることが包括適応度の増加につながるため,競争が強く働くのである。逆に雌は,自分およびその子どもに雄から投資をさせることで包括適応度が増加するため,雌雄間には利害対立が発生する。これに関連して,適応をめざしたものではないが,雄または雌の間にある頻度以上で相手のもつ形質の好みが固定される場合に起こるランナウェイ説runaway theory(暴走説),クジャクの羽模様のように,野生の環境では目立つことは本来はハンディキャップであるはずだが,ある指標が寄生虫耐性などの指標になっている可能性を示唆し,子孫の生存上の有利さにつながる優良遺伝子説good gene theoryなど,さまざまな現象が性選択において発見・報告されている。

 嫉妬と裏切りjealousy and betrayal マーギュリスMargulis,L.(1981)によると,太古の地球にはタンパク質資源を多くもった大型細胞と,移動しながら大型細胞を乗っ取る機会をうかがっている小型細胞の2種類があり,これが性の原型になった。互いが共生することで配偶子を交換し合い,生命進化が進行してきたというのである。これは現在に至るまで,雄と雌の繁殖戦略の違いに反映されている。

 嫉妬jealousyは情動的側面よりは感情的側面を多くもつが,その起源は資源をめぐる親子対立にある。これは遺伝子を共有するものの,親子間でその最適化を図る戦略が異なることを指摘したトリバースによって,血縁選択の理論的拡張として提唱された。ヘイグHaig,D.(2000)によると,親子の対立は胎児期にまでさかのぼるが,妊娠という現象自体が母親の自らが利用できる資源の胎児に対する分配であり,互いの間には対立が発生する。

 兄弟・姉妹の間にも,親子対立同様,資源獲得をめぐる対立がある。多胎児はそれぞれ異なる体重で誕生してくるが,それは胎内で児の間で資源獲得競争が行なわれていた証拠である。鳥類の兄弟・姉妹間に発生する資源獲得競争はよく知られているが,ヒトでも誕生後,兄弟・姉妹の間では激しい競争が繰り広げられる。弟妹の誕生による子どもの退行現象は対立の証拠であり,嫉妬の発生につながる。

 性選択でも述べたように,投資した資源に対する見返りを最大にするための雄と雌の戦略は異なる。人間でいうならば,男性は自分が投資をした資源を無駄にしないため,女性の浮気に対して敏感になり,より強い嫉妬心が形成される。逆に女性にとっては,今ある配偶者よりも優れた相手とめぐり会うことは,子どもに優秀な遺伝子を残す確率を高めることにつながり,浮気を動機づける。また鳥類で確認されているように,ヒトの場合でも複数の男性から投資を受けることが女性の包括適応度を高めることにつながる。結果として嫉妬に伴う殺人の発生率は男性に高く,女性に低い。国や文化によっても異なるが,ウィルソンによると大体10対1の比率であるとされている。ただ嫉妬の強弱に関係なく,人類社会における浮気は夫にも妻にも見いだされる行動であり,アタナシウAthanasiou,R.とサーキンSarkin,R.(1974)は夫の40%,妻の30%が浮気をすると計算している。またカップル外性交渉は最も受胎の確率が高いときに行なわれるという研究もあり,男女とも無意識のうちに互いの包括適応度を高めるための行動を採用するようである。

 一方,裏切りbetrayalは囚人のジレンマゲームが示唆するように,互恵的利他性のバランスが崩れるときに発生する。社会的なヒトhomo sociusである人間は,つねにだれかと結びつくことで自分の利害や安全を調整しているが,何を最優先して調整するかは,その時々の感情に支配される。このとき,二重接近-回避コンフリクトのように,片方の選択肢のプラスはもう片方の選択肢のマイナスであるようなジレンマ状態が発生する。そこで目先の利害で得失を計算する事態も多々生じ,裏切りが発生する。ただし,すでに囚人のジレンマゲームの理論で証明されているように,長い目で見たときに裏切りは,結果的に利益の増加には結びつかない。 →感情 →行動生態学 →進化 →進化心理学
〔荘厳 舜哉〕

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