大学事典 「情報の越境」の解説
情報の越境
じょうほうのえっきょう
cross-border data sharing
1990年代中頃のインターネット,2010年前後のクラウド・コンピュータ技術の登場により,専門家ならびに市民の間で,国境を越えたデータ(情報および知識を含む)の共有の日常茶飯事化が実現した。なかでも,情報と知識の伝達と創造,共有にかかわる仕事をおもな責務とする大学人は,多種多様な技術を駆使して,既知および未知のデータを世界中の仲間たちと日々越境共有しつつある。そうした越境共有のために,研究者や大学の教育者の間で広く用いられている技術やサービスとしては以下が挙げられる。
(1)オンライン化された学術誌データベース(具体例:JSTOR, ProQuest, ScienceDirect等)
(2)オンライン化された書籍データベース(具体例:LION, Google Books等)
(3)統計/データ共有サイト(具体例:eurostat, OECD iLibrary, UNdata等)
(4)専門家間のネット上の交流サイト(具体例:Linkedin, ResearchGate等)
(5)一般向けのネット上の交流手段(具体例:Facebook, Twitter等)
(6)コミュニケーション手段(具体例:Skype, Google Hangouts, e-mail等)
(7)仮想空間上の会議(バーチャル・カンファレンス)およびウェビナー(ウェブ上のオンライン・セミナー)討論の場(具体例:Adobe Connect, Google Hangouts, Elluminate等)
(8)ビデオあるいはファイル共有サイト(具体例:YouTube, Dropbox, Google Drive, iCloud等)
以上のような多様な情報・通信技術(ICTs)を用いて,研究者や大学の教育者は時間・空間に制約されることなく,他者が産出したデータを容易に参照できるとともに,自らの研究・教育の過程や成果を他者と共有できる。同時に,データ産出の手続き全般を共同体制の下で効率的に遂行できるようになっている。
こうした地球規模でのデータの越境共有は,大学での研究,教育およびサービスに重大な変容をもたらした。研究面では,今日の大学にとって,国境を越えた共同体制が重要な一基準となっている。すなわち,単に研究資金を全国規模ないし国際的な財団等から獲得するだけでなく,研究内容が社会のグローバル化に応え,世界の大学や国境の壁を越えて人的資源,データ,社会システム,諸手続き,構造基盤を最大限に整備する内容でなければならない。教育面では,多くの大学がオープン教育資源(Open Educational Resources: OER)を開発し無料で提供している。これら資源は大学の講義や学生の自習に活用されている。ウェブサイトに加え,Commonwealth Connects Portalに代表される教育研究機関ないし国立,国際的な貯蔵庫からもアクセスできる。OERを通して大学には,地理的・経済的等の理由で伝統的な学修の機会を得られない人々に教育効果を波及させ,同時にマルチメディア等を活用して教育の質を向上させる可能性が開かれつつある。
最近では,世界の一流大学が自校の講義や教育資源,さらには所有するデータを,国境を越えて大規模かつ無制限に公開する動きが盛んである。サービス面で特記すべきは図書館のデジタル化であり,多くの大学はオンライン化されたデータベースやデータ共有サイトを通して,世界の利用者に教育研究上の便宜を図っている。
こうした変化の結果として大学の行政者は,大学の既存の方針や規則等が,国境を越えて情報を産出し共有するグローバル化の時代にふさわしいか否か,検討する必要がある。一方では,大学の成員の著作権や個人情報を保護し,他方では彼らの国境を越えた教育研究活動,さらにはオープン教育活動を促進せねばならない。また大学の教員(さらには学生)には,国境を越えたデータ共有活動に不可欠な諸能力の開発が求められる。具体的には,情報技術上の技能と共同研究にかかわる倫理観,研究の共有を目指した開かれた態度の訓練である。
著者: ,Insung(
参考文献: S. D'Antoni, “Open educational resources: Reviewing initiatives and issues”, Open Learning, 24(1), 2009.
参考文献: P. Kim(ed.), Massive open online courses: The MOOC revolution, New York: Routledge, 2014.
参考文献: N. Romano, J.B. Pick & N. Roztocki, “A motivational model for technology-supported cross-organizational and cross-border collaboration”, European Journal of Information Systems, 19(2), 2010.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報