感覚尺度(読み)かんかくしゃくど(英語表記)sensory scale

最新 心理学事典の解説

かんかくしゃくど
感覚尺度
sensory scale

刺激と関連づけられた感覚または知覚について,その主観的な大きさや強さの量的指標を感覚尺度という。これには,単一の刺激を受容したときの感覚量と,複数の刺激が引き起こす感覚量の差の両者が含まれる。古くはフェヒナーFechiner,G.T.によって,刺激強度と感覚量の関数関係を導く手法が考案され,その礎が築かれた。以降,ギルフォードGuilford,J.P.やサーストンThurstone,L.L.らが体系化し,計量的尺度化を試みてきた。こういった感覚尺度を作成する手法は感覚尺度構成法sensory scaling,あるいはより広義に心理尺度構成法psychological scalingとよばれる。

【感覚尺度の分類】 感覚尺度の理解と測定において重要な概念の一つは,スティーブンスStevens,S.S.(1951)による尺度の分類であろう。名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比尺度の4水準である。

 名義尺度nominal scaleは,ラベルを付けられた値に計量的な関係が定まらない尺度である。たとえば絶対閾や弁別閾を測定する際の,光点が「見える」か「見えない」か,複数の音量の差が「ある」か「ない」かの判断が挙げられる。

 ラベルの数値に大小関係が規定できるとき,それは順序尺度ordinal scaleとなる。複数の光刺激について,どちらがより明るいか,あるいは順位づけられた好ましさなどが相当する。

 ラベル間の差に計量的な意味のあるものが間隔尺度interval scale,比が意味をもつものが比尺度ratio scale(比率尺度ともいう)である。たとえば,物理的には摂氏・華氏温度は間隔尺度であり,絶対温度は比尺度となる。熱刺激によって心理的に「温かさ」といった感覚が誘発されるが,これらの感覚量の尺度化にあたって,間隔尺度以上の水準による表現をめざす場合が多い。間隔尺度に明示的に原点(絶対ゼロ)を仮定できる場合は,比尺度として運用できる。

 スティーブンスのいうところの定量的連続体prothetic continuum,すなわち温かさや音の大きさなど,その強さが加算的連続量として生じる感覚事象は,神経生理学的にも尺度水準の根拠を求めることができる。神経細胞の興奮度合いや刺激に反応する細胞数といった生理学的反応が,刺激強度に対して加算的に生じるためである。

【感覚尺度構成法】 感覚尺度を構成するに当たり,表現しようとする尺度と,反応として取得される測定値の二者について,その水準を考えなければならない。表現する尺度には,定量的な意味のある順序尺度以上の水準,とりわけ間隔尺度あるいは比尺度の構成をめざす。一方,反応取得には,あらゆる尺度水準による手法が考案されており,そのため測定値の水準によって,尺度構成法は間接法と直接法に分けられる。

 間接法は,反応に刺激の選択や順位づけなどの名義尺度あるいは順序尺度を用い,感覚量の尺度化を行なう方法である。取得された低次の尺度から,高次の間隔尺度もしくは比尺度を導出するには,水準を上げるためのなんらかの媒介仮定を必要とする。古典的かつ代表的な媒介仮定として,フェヒナーの法則やサーストンの比較判断の法則law of comparative judgementなどがある。間接法を用いた尺度構成法には,一対比較法method of paired comparison,順位法method of rank order,フェヒナーの尺度化法Fechnerian scalingなどが考案されている。いずれも間隔尺度を構成するが,比尺度にみなした扱いも可能な場合がある。たとえばフェヒナーの尺度化法では,弁別閾の算出を通じて間隔尺度を構成するが,絶対閾を原点とみなすことで,比尺度と同様に扱える。

 一方,直接法では,感覚量は主観的に計量可能だと仮定し,観察者が自身の感覚の大きさが報告される。すなわち,間隔尺度あるいは比尺度とみなした測定値を,反応として直接取得する方法である。直接法による尺度構成には,カテゴリー尺度法categorical scaling method,等分割法method of equisection,マグニチュード推定法magnitude estimation,マグニチュード産出法magnitude productionなどが含まれる。なかでもマグニチュード推定法は,スティーブンス(1958)によって提唱され,最も多用されてきた尺度構成法の一つである。マグニチュード推定法には,2種の運用法がある。第1は,標準刺激と比較刺激を同時あるいは継時的に観察する方法である。標準刺激の刺激強度(輝度や音量など)には,「10」や「100」などのモジュラスmodulusとよばれる値が,実験者によりあらかじめ設定される。観察者はこのモジュラスを参照し,比較刺激がもたらす感覚量を評価する。たとえば,標準刺激よりも比較刺激の光源が2倍明るいと評価したときは,モジュラス「10」に対して「20」を回答すればよい。第2に,実験者がモジュラスを設定しない運用法がある。刺激強度の異なる複数の刺激に対して,観察者は自身のモジュラスを設定し,回答する。

 スティーブンス(1957)はマグニチュード推定法による実験結果から,感覚量Ψと刺激強度φがもつ次の関係を主張した。

  Ψ=kφn

は固有の係数,は感覚事象によって定まるベキ指数である。これをスティーブンスの法則Stevens' law,あるいはスティーブンスのベキ法則Stevens' power lawとよぶ。両辺の対数を取ることで直線関係に還元され,絶対閾などの妥当な原点を設定できるときには,比尺度として扱える。マグニチュード推定法は,さまざまな感覚に適用され,「明るさ(5°の光:0.33,光点:0.5)」「味(ショ糖:1.3,塩:1.4,サッカリン:0.8)」などについて,代表的なベキ指数が導出されている。後に「窃盗の罪の重さ」「社会的望ましさ」といった社会的対象にも応用されている。

 マグニチュード推定法では,観察者は感覚の大きさについて,極端な値の報告を避ける傾向がある。この回帰バイアスを相殺するために,マグニチュード産出法の併用が提案されている。マグニチュード産出法は,与えられた数値に対応するように,観察者が刺激強度を調整する手法で,推定法とはちょうど逆の関係にある。推定法と産出法から導出された関数の幾何平均を取り,単一の関数を導くことができる。

 ベキ法則の妥当性は,主観的な感覚量を観察者が正しく数値化できるか否かに依存する。この点を考慮したスティーブンス(1959)は,数値表現に依存しない方法で,その検証を行なおうとした。

 ベキ法則を満たす2種の感覚量

  Ψ1=φ1n1

  Ψ2=φ2n2

について,Ψ1Ψ2が感覚の量,すなわち強さあるいは大きさという1次元に還元できれば,Ψ1Ψ2と表わせる。ここから,

  φ1n1=φ2n2

両辺の対数を取ると

  

であり,感覚量Ψ1Ψ2の関係は,両者の指数の比と等価な勾配をもつ直線で予測できる。この予測値が,感覚量Ψ1Ψ2を直接比較し,尺度化するクロスモダリティ・マッチングcross-modality matchingによる実験結果と整合すれば,ベキ法則に根拠を与えることになる。実際に,握力の強さと音の大きさや温かさを比較し,同等な感覚量を同定するマッチング実験が行なわれ,その測定値はマグニチュード推定法やマグニチュード産出法から予測された値とよく一致した。

 以上の手法は,1次元尺度構成法unidimensional scalingに分類される。しかし,たとえばワインを味わうときに香りや温度も同時に感じるように,われわれの感覚・知覚は多要素で構成されると考える方が現実的である。感覚事象を含み,より一般的な心理的事象を尺度化する手法として,多次元尺度構成法multidimensional scaling(MDS)がある。多次元尺度構成法は,複数の刺激項目の類似度(非類似度)評価に基づき,平面あるいは空間上に項目を配置する方法である。トガーソンTogerson,W.S.によって開発され,1960年代以降急速に発展した。クラムハンスルKrumhansl,C.L.やクラスカルKruskal,J.B.などによってそのモデルやアルゴリズムが考案されている。 →尺度 →精神物理学 →精神物理学的測定法 →多次元尺度法
〔甲村 美帆〕

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