多次元尺度法(英語表記)multidimensional scaling

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

多次元尺度法
たじげんしゃくどほう
method of multidimensional scaling

多次元尺度構成法ともいう。対象のもつ心理学的特性が単一の次元にそったものでなく,複雑な,多次元にそったものであると考えられる場合,それに一定の尺度値を与えるための手続きをさす。まず,当該の対象を含む一群の対象間の類似の程度を判断し,その結果に基づいて,それらの対象群にとって必要不可欠な心理的尺度を決め,それに応じて,一群の対象の尺度値が決定される。

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たじげんしゃくどほう
多次元尺度法
multidimensional scaling

MDSと略称される。対象間の距離的データを分析して,近接する対象同士は近くに,隔たる対象同士は遠くに位置づけられる空間布置を求める手法であり,多次元尺度構成法multidimensional scalingともよばれる。距離的データとは,人同士の心理的隔たりや知覚される刺激間の非類似性など,数学的に定義される距離そのものではないが,距離で近似される数値を一般に指す。

【多次元尺度法の基礎】 個の対象同士の距離的データからなるn×nの正方行列Qの要素をij(対象の距離的データ)と表わそう。ここで,ijjiである。さらに,MDSの解として得られる対象×次元の座標行列Xの要素をir(対象の次元の座標値)と表わそう。座標値から定義される間のユークリッド距離Euclidean distance



に誤差が加わったものが,データijであるとみなす。これがMDSの基本モデルである。ijが比尺度上の数とみなせる場合には,誤差平方和



を最小化する座標行列Xが求める解となり,Xに基づいて対象の空間布置を描ける。なお,解Xに右から直交行列Tを乗じたXTも解であり,得られた布置は直交回転できる。

【計算のアルゴリズム】 多次元尺度法で用いる計算のアルゴリズムalgorithmについて説明する。前述の最小化には反復解法を要する。解法の一つは,Xに関する(X)の偏微分に基づく最適化法を用いるものであるが,距離ij(X)の定義に平方根が現われるため,偏微分が1/ij(X)の関数となり,もし反復途中にij(X)=0が発生すれば計算不可能になる。この危惧を伴わない解法が,1970年代後半から1990年代にかけて,デ・レーウde Leeuw,J.,ハイザーHeiser,W.J.やフローネンGroenen,P.J.F.などのオランダの計量心理学者を中心に開発された優関数法majorization algorithmである。この方法の基本は,Xと同じサイズの行列をZで表わすと,次の3条件を満たす関数(X,Z)を用いることにある。 ⑴平方根が現われず,Xに関する最小化が容易である。⑵(X,Z)≧(X)。⑶(Z)=(Z,Z)。固定されたZに対して(X,Z)を最小化するXをX*と表わすと,⑵と⑶より



が得られ,上記の最小化のたびごとに(X)が減少することがわかる。以上の解法は,MDSのアルゴリズムPROXSCALで用いられる。

 平方根が現われないように(X)を変形したアルゴリズムが,1970年代中ごろに高根芳雄らによって開発されたALSCALであり,データと距離の平方に基づく



を最小化する。さらに時代をさかのぼると,トーガソンTorgerson,W.S.(1952)とガウアーGower,J.C.(1966)が独立に主座標分析principal coordinate analysisとよばれる方法を開発している。これは,2ij(X)からなる対象×対象の行列Dの左右から,次の単位行列Iと×1の1=[1,1,…,1]′に基づく行列J=I--111′を乗じると-0.5JDJ=JXX′Jになることに着目し,データも同様に変換して定義される∥-0.5JQJ-JXX′J∥2を最小2乗基準とする方法であり,反復計算を要しない,

 さて,ijが間隔尺度上の数とみなされる場合には,切片を加えた基準



を最小にするX,を求めればよい。ijを順序データとみなすMDSはとくに非計量多次元尺度法nonmetric multidimensional scalingとよばれ,



を最小化する。ここで,σ2(X)は距離ij(X)のを通した2乗和または分散であり,これを分母にする目的は,すべての点が同一点になるといった退化した解の回避である。またij)は,ijklならばij)≦kl)を満たす関数であり,Xを固定したうえで(X,ij))を最小にするij)は,クラスカルKruskal,J.B.(1964)の単調回帰法によって求められる。

【多次元展開法multidimensional unfolding】 行と列を異なる対象が占める個体×変数のデータ行列Zに対するMDSを,とくに多次元展開法とよぶ。個体×次元の座標行列をX,変数×次元の座標行列をY,各行列の要素をそれぞれirjrで表わすと,個体と変数の距離は



と表わせ,Zの要素ijとの誤差平方和



を最小にするX,Yが,多次元展開法によって求められる。これを,たとえば参加者が刺激を好むほど小さい値を取るデータijに適用すると,各刺激とそれを好む参加者どうしが近くに,嫌う参加者が遠くに位置づけられる空間布置が得られる。

【個体差多次元尺度法individual difference scaling(個体差MDS)】 再び,個の対象同士の距離的データの正方行列Qに着目し,それが複数個ある場合,つまりデータがn×nの行列Qk=1,…,)で表わせるケースを考えよう。たとえば,人の参加者が個の対象間の非類似性を評定した場合,Qkは参加者の対象に関する評定値ijkから成る。参加者間の個体差を考慮しながら上記のデータを分析するための拡張型MDSが,1970年前後のホランHoran,C.B.やキャロルCarroll,J.D.らの考案に始まる個体差多次元尺度法であり,次の二つの仮定に基づく。⑴すべての個体(参加者)に共通する対象の座標行列X(その要素はir)が存在する。⑵個体にとっての対象間の距離的データは,重みつきユークリッド距離weighted Euclidean distance



によって近似される。ここで,wkの要素2krは参加者が次元に与える重みを表わし,個体差を説明する役割を果たす。以上の仮定のもとに,個体差MDSでは,



を最小にする座標行列Xと重みW=[w1,…,wK]を求める。Qkが時期や条件のようにヒト以外であっても,もちろん個体差MDSを適用できる。個体差MDSの特徴は,一般に座標行列Xを回転できないことにある。個体差MDSにも間隔・順序尺度のijに対応できる方法があり,これらが実行できるようにするため,前述のアルゴリズムPROXSCALやALSCALは拡張されている。

 なお,最小2乗法だけでなく,最尤法やベイズ法に基づくMDSも開発されている。また,1970年代中ごろより,ijjiである非対称な距離的データに対するMDSの諸モデルも提案されている。 →多変量解析
〔足立 浩平〕

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