出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
慢性閉塞性肺疾患(以下、COPDと略)は、たばこ煙を主とする有毒物質を長期間吸入することによって生じる肺の炎症による病気です。主に肺胞系の破壊が進行して
COPDは、
COPDの患者数は全世界的に増加しており、2020年までに全世界の死亡原因の第3位になると推測されています。
日本で2000~2001年に行われた疫学調査により、40歳以上の成人の8.5%、530万人がCOPDに
COPDの原因の約90%は喫煙です。主な症状は慢性の
重症になると呼吸不全に至り、息苦しさのために日常生活ができなくなったり、かぜなどをきっかけに急に症状が悪化すること(
早期の診断には肺機能検査が不可欠です。禁煙によるリスクの回避と適切な病気の管理により、有効な予防と治療が可能な病気です。
COPDの危険因子は、外因性危険因子と患者さん側の内因性危険因子に分けられます。外因性危険因子には、喫煙、大気汚染、職業上で吸入する
喫煙はCOPDの最大の外因性危険因子であり、COPDの発症に関与することが立証されています。
日本では1960年以降の経済成長に伴い、たばこ販売量や消費量が増加し、これに20年遅れてCOPD(慢性気管支炎および肺気腫)が増加しています(図29)。1985年以降は、とくに男性において顕著です。
一方、喫煙者すべてがCOPDを発症するわけではなく、一般的に喫煙者の20~30%に発症します。患者さん側の内因性危険因子として、COPD発症に関係するさまざまな候補遺伝子が報告されつつありますが、α1アンチトリプシンの欠損を除いては、COPDの発症にどの程度関係しているのかは明らかになっていません。
COPDの症状は慢性の
階段や坂道での息切れにはじまり、重症になると歯みがきや着衣の動作でも強い息切れが現れます。一方、
COPDは肺の病気のみにとどまらず、全身に症状が現れます。進行すると体重減少や食欲不振も起こり、体重と生命予後との関連も明らかにされています。
体や手足の筋力、筋肉量も減ってしまいます。また、
肺が過度に
安定期のCOPD患者が気道感染や大気汚染をきっかけに急に肺機能が悪化し、呼吸困難が増悪することがあります。呼吸数や脈拍数が増え、痰の量や膿性痰が増加し、
咳、喀痰、労作性呼吸困難などの症状があり、喫煙歴などの危険因子をもつ中高年者でCOPDが疑われます。診断の確定にはスパイロメトリー検査(肺機能検査)が必須です。
気管支拡張薬を吸入したあとの検査で、1秒率(FEV1:努力性肺活量に対する1秒量の比率)が70%未満であれば、気流閉塞が存在すると判定されます。画像診断や呼吸機能の精密検査により、ほかの気流閉塞を起こす疾患が除外されれば、COPDと診断されます。
区別を要する疾患として、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎(はんさいきかんしえん)、先天性
胸部X線検査は、ほかの疾患を除外するためと、比較的進行した肺気腫病変や気道病変を診断するために用いられますが、早期COPDの検出は難しいとされています。
一方、気腫優位型COPDの早期検出においては、胸部CT検査が有用です。最近は、胸部CTの精度が年々向上し、肺気腫の最小単位と考えられる数㎜径の病変内の構造までもとらえるまでに解像度が上がっています(図30)。
COPDの病期分類は気流閉塞の程度を表す1秒量(FEV1)で行います。病期分類は、
・Ⅰ期:FEV1≧80%
・Ⅱ期:50%≦FEV1<80%
・Ⅲ期:30%≦FEV1<50%
・Ⅳ期:FEV1<30%、あるいはFEV1<50%で慢性呼吸不全合併
となります。
重症度はこれらの病期に加えて、呼吸困難の強さ、運動能力や併存症・合併症の有無などから総合的に判断されます。
リスクの回避と適切な病気の管理により、有効な予防と治療が可能です。図31に日本呼吸器学会「COPD診断と治療のためのガイドライン第3版」に示された安定期COPDの治療法を示しました。COPDの治療は、病期や症状に応じて階段的に増強していきます。
COPDの発症を予防し進行を遅らせるためには、たばこの煙からの回避が最も重要です。禁煙、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が大切です。インフルエンザワクチンは、増悪によるCOPD死亡率を50%低下させることが報告されています。
軽症の場合では症状の軽減を目的に、必要に応じて短時間作用性の気管支拡張薬を使用します。
中等症では、症状の軽減に加え、生活の質(QOL)の改善、運動能力の改善などが主な目標となり、長時間作用性の気管支拡張薬の定期的な服用と、呼吸リハビリテーションがすすめられます。
重症の場合の薬物療法は、長時間作用性の気管支拡張薬の定期服用が中心ですが、効果に応じて複数の長時間作用性気管支拡張薬が併用されます。
増悪の予防も大きな課題です。増悪を繰り返す患者さん(たとえば、過去3年間で3回の増悪を繰り返す人)では、吸入ステロイド薬を追加あるいは吸入ステロイド薬と長時間作用性気管支拡張薬の配合薬を使用することにより増悪の頻度が減少し、QOLの悪化が抑えられることが報告されています。喀痰調整薬などにも増悪の予防効果のあることが報告されています。
呼吸リハビリテーションや栄養管理などの非薬物療法は、薬物療法と同じくらい重要です。呼吸不全を合併する場合、在宅酸素療法が行われ、生命予後が改善することが示されています。
最大限の包括的な内科治療にもかかわらず病気が進行した場合には、十分に検討したうえで外科的治療(肺容量減少手術、肺移植)が考慮されます。
増悪時には、気管支拡張薬の吸入の用量や回数を可能な範囲内で増やします。ステロイド薬の全身投与(経口または経静脈投与)は増悪から回復するまでの時間を短縮させ、肺機能をより早く回復させます。喀痰量や喀痰の膿性度が増えていれば、抗菌薬が投与されます。
肺機能の低下が高度の場合、マスクなどを用いた
一方、COPDには慢性的な全身性炎症が関わるため多くの疾患を併存します。代表的なものとして
肺がんの合併も問題となります。毎年健康診断を受けるなど、これら併存症や合併疾患の対策も重要です。
過去に肺機能検査を受けたことのある人は少ないと思います。健康診断でも心電図検査は必ず含まれていますが、肺機能検査はあまり含まれていません。
40歳以上で喫煙歴があり、咳、痰が長く続く場合や階段や坂道での息切れに気づいたら、医療機関を受診して、肺機能検査を受けることをすすめます。
吉見 格, 植木 純
肺は、外界に直接、接している内臓で、いつも外気に触れていて、肺に出入りする空気の量は1日1万ℓを超えます。そのため、ガス体や微粒子を含む汚染された空気を繰り返し長期にわたって吸入するような環境下で生活していれば、影響を受けて病気になることがあります。
慢性閉塞性肺疾患は、これまで慢性気管支炎、
世界の死亡原因ランキング(世界銀行調査)によると、COPDは1990年の6位から2020年には3位になると予想されています。
また、病気によって生じる人的負担は、早死により損失した年数と、障害のある状態で生存した障害の重症度で調整した合計値(DALY)により算出しますが、これによるとCOPDは、1990年の12位から2020年には5位に上昇するといわれています。
COPDは糖尿病なみに多い病気で、日本での患者数は500~700万人と推定されています。しかし、実際に治療を受けている人は20数万人程度といわれ、著しく診断率が低いことが問題になっています。
COPDは、汚れた空気を繰り返し吸うことにより発症します。いちばんの原因はたばこです。COPDの人の95%以上はたばこが原因で、喫煙者のなかの約20%がCOPDになるといわれています。COPDは、予防できる肺の生活習慣病として注意しなければなりません。
日本は、先進諸国のなかではきわだって喫煙率が高いままで、また青少年、若い女性の喫煙率が上昇していることから、さらに患者数は増えると予測され、対策が求められています。WHO(世界保健機関)は2001年にGOLDと呼ばれる診療の指針を発表し、世界的な啓蒙活動を行うことを求めています。
COPDは中高年に多い病気で、主な症状は
とくに息切れは、階段や坂を登る時に強く、病気が悪化していくと家から外出できずに引きこもりがちになり、やがてベッドから出られなくなる、つまり寝たきりの原因となりえます。
高齢者の気管支喘息(ぜんそく)は、COPDと混同されていることが少なくありません。しかし、COPDは気管支喘息と違って、肺がんや、脳卒中などの体のほかの臓器の病気を多く合併していることが少なくなく、また治療が不十分だと年ごとに肺機能は急速に低下していきます。
決め手となる診断方法は、スパイロメトリーと呼ばれる簡単な肺機能検査です。COPDの可能性が高いことがわかったら、気管支を拡張させるような吸入薬を吸って、その前後で精密な肺機能検査を行います。これによって、治療薬の効果をあらかじめ推定することができます。
また、息切れが心臓の病気など、ほかの原因で起こっていないかを調べます。胸部のCT検査は、
リスクを除くこと、つまり禁煙を厳守しなければなりません。節煙やニコチンの量の少ないたばこに変えても、COPDは確実に進行していきます。
気管支を広げるような吸入薬を最初に使います。これには、β2刺激薬と呼ばれるものと、抗コリン薬に分類されるものがあり、両方を使うことで相乗効果があります。ステロイドの吸入薬や、そのほかに飲み薬を使うこともあります。
肺機能検査によって病気の重症度を判断し、これに基づいて治療方針が決められるよう診療のガイドラインが発表されています(図8)。
COPDの日常生活上の注意では、適度な運動と栄養の管理が大切で、また、包括的呼吸リハビリテーションと呼ばれる全身管理が効果的です。これは、医師、看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどがチームワークを組んで包括的に行う医療で、次第に広まってきています。
木田 厚瑞
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
喫煙などで有毒な粒子やガスを吸い込むことによって肺に炎症が引き起こされる。肺には呼吸に伴って空気が出入りするが、この炎症のために空気の流れが障害を受けた病態を慢性閉塞性肺疾患という。慢性閉塞性肺疾患は名称が長いのでCOPD(chronic obstructive pulmonary disease)とよばれることが多い。長く慢性閉塞性肺疾患は、慢性気管支炎と肺気腫に分けて考えられていたが、現在は一つの疾患として取り扱われている。ちなみに慢性気管支炎は痰(たん)が多い状態が長く続く臨床的所見をもとに診断され、肺気腫は肺の気腔(空気が出入りしているところ)が異常に拡大した病理所見をもとに診断されていた。本疾患は、一時的に病状が改善することもあるが、徐々に進行した場合、体を動かすだけで呼吸困難を自覚するようになる。
[鈴木 隆]
2000年(平成12)の日本における慢性閉塞性肺疾患による総死亡数は1万3063人(男性9665人、女性3398人)であり、国内の総死亡数の1.3%であった。人口10万人あたりの死亡率でみると10.4(男性15.7、女性5.3)であった。1985年(昭和60)以降徐々に死亡率が増加している。データには、男女の性差がみられ、死亡率は男性が女性より高い。年齢群ごとにみると高年齢で死亡率が高いことから、高齢化社会を迎える将来、慢性閉塞性肺疾患による死亡数がさらに増加することが懸念される。
[鈴木 隆]
喫煙が慢性閉塞性肺疾患の原因になる。しかし喫煙者であっても慢性閉塞性肺疾患をきたさない者もあることから、個人によってタバコに対する感受性の差があるものと推定される。その他の原因として、大気汚染、受動喫煙、職業上の粉塵(ふんじん)・化学物質の吸入、呼吸器感染などがある。
[鈴木 隆]
慢性の咳(せき)、痰、少し体を動かしただけで呼吸困難を自覚する、などの症状がある。背景に長期間の喫煙、職業上の粉塵暴露があった場合には慢性閉塞性肺疾患の可能性が高い。肺活量計による検査を行って、検査中に治療薬である気管支拡張薬を吸入してある程度以上改善した場合に慢性閉塞性肺疾患と診断する。さらに胸部X線写真、高分解能CT(HRCT:high resolution CT)、動脈血ガスの解析などが病状を診断するために有用である。
[鈴木 隆]
禁煙が必須である。禁煙を達成するために禁煙プログラムやニコチン置換療法などが用いられる。また疾患の重症度にあわせて種々の気管支拡張薬、ステロイド(いずれも経口薬、吸入薬がある)を服用する。疾患が進行して低酸素血症をきたす場合には、酸素を使用する在宅酸素療法(HOT:home oxygen therapy)を行う。慢性閉塞性肺疾患の進行を抑制し、患者の生活の質を改善するために、運動療法、酸素療法、理学療法、栄養指導が行われる。外科的には肺容量減少手術、すなわち膨張しすぎた肺気腫の部分を切除する手術によって自覚症状と呼吸機能の改善を図る治療が行われることがある。さらに肺の破壊が高度で、ほかに有効な治療手段がない場合には肺移植が考慮される。
[鈴木 隆]
(星野美穂 フリーライター / 2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
…イギリスのフレッチャーC.M.Fletcherによって〈1年に3ヵ月以上咳・痰が続き,それが少なくとも2年(2冬)にわたる〉という基準が提唱された(1959)。しかし,このような症状を示す慢性の呼吸器疾患はたくさんあり,とくに慢性閉塞性肺疾患chronic obstructive lung disease(COLDと略す)とよばれる一連の疾患には,慢性気管支炎のほか,肺気腫症,気管支喘息,瀰漫(びまん)性汎細気管支炎などが含まれ,いずれも多かれ少なかれ持続性の咳・痰を特徴とする。また気管支拡張症も同様である。…
…気道の閉塞によって換気障害を起こす慢性呼吸器疾患の一群をさし,正確には慢性閉塞性肺疾患という。気管支喘息(ぜんそく),肺気腫,慢性気管支炎,および日本の瀰漫(びまん)性汎細気管支炎がおもなもので,それぞれ異なる疾患であるが,臨床症状,呼吸機能や治療面で共通点が多いため1960年ころからこの総称が広く使われるようになった。…
※「慢性閉塞性肺疾患」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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