慢性閉塞性肺疾患(読み)まんせいへいそくせいはいしっかん(英語表記)chronic obstructive pulmonary (lung) disease

知恵蔵の解説

慢性閉塞性肺疾患

主に長年の喫煙が原因となって引き起こされる肺の炎症性疾患。略称はCOPD。以前は、慢性気管支炎肺気腫と呼ばれていた。COPDの最大の原因がタバコであり、COPD患者の約9割が喫煙者、前喫煙者であることから、俗称として「タバコ病」と呼ばれることもある。
特徴的な症状は、息切れや息苦しさ、長く続く咳(せき)や痰(たん)など。徐々に進行していく疾患のため、息切れがあっても「年のせいかも」と見過ごされやすく、発症に気が付きにくい。発症当初は階段の昇降などある程度の強度の運動で息が切れていたものが、だんだん数歩の距離を歩く、立ち上がるなどの軽い動きでも呼吸が苦しくなり、重症化すると自力での呼吸が難しくなって、酸素供給装置(酸素濃縮器や液体酸素タンク)から鼻の下にチューブを固定して酸素を送り込む「在宅酸素療法」が必要になることもある。
COPDの最大の原因は喫煙である。喫煙の経験がなく、受動喫煙だけでもCOPD発症のリスクは高まる。タバコの煙を吸入することで、肺の中の空気の通り道である「気管支」に炎症が起きる。そのため気管支が狭くなって空気が流れにくくなったり、咳や痰が出やすくなったりする。また、酸素と二酸化炭素を交換している「肺胞」という組織が壊され、酸素を身体に取り込めなくなる。破壊された組織は元に戻ることはない。
COPDにおける障害は肺だけにとどまらない。栄養障害や骨粗しょう症、筋力の低下、心臓や血圧など、全身に影響を及ぼすことが分かっている。
治療の目標は、悪化させないこと。その時点で残っている肺の機能を、それ以上低下させないことが目標となる。
そのために、基本となるのが禁煙である。その上で、気管支を広げる作用を持つ、気管支拡張薬を使用して症状を和らげる。重症の場合、ステロイドを使用することもある。呼吸訓練や運動療法など「呼吸リハビリテーション」も有用であるといわれている。感染症などにかかると、急速に症状が悪化することもあるため、インフルエンザワクチンや、肺炎球菌ワクチンなどの予防接種も推奨されている。
COPDによる死亡者数は、ここ数年1万6000人前後で増減していたが、2017は1万8523人と急増した。これは1995年以降で最高値である。1960~70年代の喫煙率は高く、男性では80%前後がタバコを吸っていた。その時代に20代、30代だった人たちが高齢となり、今後COPDを発症して死亡率を増加させると推測される。
COPDの患者は、40歳以上の人口の8.6%、約530万人が存在するといわれている。喫煙者の5~6人に1人がCOPDになると推計されているが、実際に治療を受けている患者は26万人。多数が未受診、未治療の状態である。
2013年度に策定された「健康日本21(第2次)」の中で、COPDは対策を必要とする主要な生活習慣病として取り上げられている。そのための課題が、COPDの知識の普及である。しかし、COPDの認知度は、18年12月の調査でも28.1%にとどまる。COPDの早期発見、早期治療のためには、より多くの人にこの疾患についての知識を広めていく必要がある。
2018年7月に亡くなった、愛煙家として知られていた落語家の桂歌丸の死因がCOPDだった。

(星野美穂 フリーライター / 2019年)

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デジタル大辞泉の解説

まんせいへいそくせい‐はいしっかん〔‐ハイシツクワン〕【慢性閉塞性肺疾患】

息切れや咳嗽(がいそう)・喀痰(かくたん)の増加などを主な症状とする、進行性肺疾患の一。「肺の生活習慣病」ともいわれ、喫煙などにより有害物質を長期にわたって吸入することにより引き起こされる肺の機能低下・慢性炎症。気道に生じた炎症や肺胞に生じた障害が原因となり、空気の吸入・呼出が困難となる。肺高血圧症や心不全などの合併症を起こす場合があり、重症化すると呼吸不全などに至る。慢性気管支炎肺気腫と呼ばれていた病名を統合したもの。40歳以上の発症率が高く、WHO(世界保健機関)による世界の死亡原因としても上位に位置する。COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

慢性閉塞性肺疾患
まんせいへいそくせいはいしっかん

喫煙などで有毒な粒子やガスを吸い込むことによって肺に炎症が引き起こされる。肺には呼吸に伴って空気が出入りするが、この炎症のために空気の流れが障害を受けた病態を慢性閉塞性肺疾患という。慢性閉塞性肺疾患は名称が長いのでCOPD(chronic obstructive pulmonary disease)とよばれることが多い。長く慢性閉塞性肺疾患は、慢性気管支炎と肺気腫に分けて考えられていたが、現在は一つの疾患として取り扱われている。ちなみに慢性気管支炎は痰(たん)が多い状態が長く続く臨床的所見をもとに診断され、肺気腫は肺の気腔(空気が出入りしているところ)が異常に拡大した病理所見をもとに診断されていた。本疾患は、一時的に病状が改善することもあるが、徐々に進行した場合、体を動かすだけで呼吸困難を自覚するようになる。[鈴木 隆]

疫学

2000年(平成12)の日本における慢性閉塞性肺疾患による総死亡数は1万3063人(男性9665人、女性3398人)であり、国内の総死亡数の1.3%であった。人口10万人あたりの死亡率でみると10.4(男性15.7、女性5.3)であった。1985年(昭和60)以降徐々に死亡率が増加している。データには、男女の性差がみられ、死亡率は男性が女性より高い。年齢群ごとにみると高年齢で死亡率が高いことから、高齢化社会を迎える将来、慢性閉塞性肺疾患による死亡数がさらに増加することが懸念される。[鈴木 隆]

危険因子

喫煙が慢性閉塞性肺疾患の原因になる。しかし喫煙者であっても慢性閉塞性肺疾患をきたさない者もあることから、個人によってタバコに対する感受性の差があるものと推定される。その他の原因として、大気汚染、受動喫煙、職業上の粉塵(ふんじん)・化学物質の吸入、呼吸器感染などがある。[鈴木 隆]

症状と診断

慢性の咳(せき)、痰、少し体を動かしただけで呼吸困難を自覚する、などの症状がある。背景に長期間の喫煙、職業上の粉塵暴露があった場合には慢性閉塞性肺疾患の可能性が高い。肺活量計による検査を行って、検査中に治療薬である気管支拡張薬を吸入してある程度以上改善した場合に慢性閉塞性肺疾患と診断する。さらに胸部X線写真、高分解能CT(HRCT:high resolution CT)、動脈血ガスの解析などが病状を診断するために有用である。[鈴木 隆]

治療

禁煙が必須である。禁煙を達成するために禁煙プログラムやニコチン置換療法などが用いられる。また疾患の重症度にあわせて種々の気管支拡張薬、ステロイド(いずれも経口薬、吸入薬がある)を服用する。疾患が進行して低酸素血症をきたす場合には、酸素を使用する在宅酸素療法(HOT:home oxygen therapy)を行う。慢性閉塞性肺疾患の進行を抑制し、患者の生活の質を改善するために、運動療法、酸素療法、理学療法、栄養指導が行われる。外科的には肺容量減少手術、すなわち膨張しすぎた肺気腫の部分を切除する手術によって自覚症状と呼吸機能の改善を図る治療が行われることがある。さらに肺の破壊が高度で、ほかに有効な治療手段がない場合には肺移植が考慮される。[鈴木 隆]

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内科学 第10版の解説

慢性閉塞性肺疾患(気道・肺胞疾患)

定義・概念
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,2009年に日本呼吸器学会から刊行された「COPD診断と治療のためのガイドライン第3版」によれば,「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患である.呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に作用することにより起こり,進行性である.臨床的には徐々に生じる体動時の呼吸困難や慢性の咳,痰を特徴とする.」,と定義される.すなわち,従来,「喀痰症状が年に3カ月以上あり,それが2年以上連続して認められる」といった臨床症状から診断された慢性気管支炎と,「終末細気管支より末梢の気腔が肺胞壁の破壊を伴いながら異常に拡大しており,明らかな線維化は認められない」といった形態学的・病理学的所見から診断された肺気腫をあわせた疾患概念である.
分類
 図7-3-1に示すように画像所見から気腫型,非気腫型の分類が可能であるが,気腫病変と末梢気道病変は程度の差はあってもほとんどの症例で混合して存在する.機能的にはスパイロメトリーによって測定した1秒量(FEV1)の対標準予測値(%FEV1)から表7-3-1のような病期分類を行う.COPDの診断には1秒率(FEV1%=FEV1/努力肺活量(FVC)<0.7)を使用し,病期分類に%FEV1を用いる理由は,閉塞性換気障害が進行すると細気管支領域の閉塞からFVCの低下が起こり,FEV1%が低下から上昇に向かうためである(検査成績の項参照). COPDの重症度に関しては,病期だけでなく症状(労作時息切れ,運動能力の低下など)や増悪の頻度などを加味して判断する.これは,症状や増悪の頻度は患者個々人さまざまで,気流制限の程度だけでは臨床上の患者重症度を正しく説明できないためである(治療の項参照).
原因・病因
 タバコ煙やバイオマス燃料の煙などの有害粒子吸入は肺の炎症を誘発する.これは正常なものであるが,COPDを発症する患者ではこの炎症反応が慢性的に増強され,肺胞壁の破壊や末梢気道の狭小化に至ると考えられる(図7-3-2).COPD患者で炎症反応の増強が起こる機序は十分には解明されていないが,プロテアーゼ/アンチプロテアーゼ不均衡や酸化ストレスの関与が考えられる.COPDの遺伝的危険因子で最も知られているのはα1アンチトリプシン欠損症で,好中球エラスターゼに対する拮抗作用の低下から気腫化を起こすと考えられるがわが国ではきわめてまれである.マトリックスメタロプロテアーゼや抗酸化酵素遺伝子とCOPD発症の関連性も報告されている.
 COPD発症の危険因子として,年齢,肺の発育(成長後の呼吸機能の最高値が低いほどCOPD発症リスクが高い),小児期の呼吸器感染症の既往,喘息(気道過敏性)があげられる.COPD患者でテロメアの短縮や肺組織での老化マーカーの上昇から,老化の加速がCOPD発症に関与するとの説もある.
疫学
 多くのCOPD患者において発症が長期間の喫煙に由来するため,人口構造の高齢化や喫煙率の高さから日本のCOPD有病率,死亡率は世界的に高いレベルにある.欧米のCOPDの罹患率は10%前後と報告されている.日本人のCOPD有病率に関しては,大規模COPD疫学調査(NICE研究:Nippon COPD Epidemiology研究,代表福地義之助)が行われている.それによれば,スパイロメトリーで40歳以上の10.9%(男性16.4%,女性5.0%)に閉塞性換気障害(1秒率70%未満)を認め,さらに気管支喘息の可能性のある患者を除くと日本人のCOPD患者有病率は40歳以上の8.6%(約530万人)と推定された.
病理
 中枢気道においては粘膜下腺の肥大と過形成,末梢気道では壁の線維化および杯細胞の過形成,さらに肺胞破壊(気腫化)がCOPDの病理であり,程度の差こそあれそれぞれが混在する.すなわち,画像による分類を図7-3-1に示したが,病理学的にいって気道病変のみあるいは肺胞病変のみといったCOPDはまず存在しない.こういった病理像に至るには喫煙などの刺激による炎症細胞浸潤の影響が考えられる(図7-3-2参照).
 COPD患者では肺血管にも障害が及び内膜・平滑筋の肥厚や血管壁の線維化がみられ,進行すれば肺高血圧から右心不全の原因となる. 気管支喘息と比較したCOPDの病理像を表7-3-2に示す.こういった病理像の差は肺に浸潤する炎症細胞の違いによって起こると考えられる(表7-3-3).
病態生理
 COPD患者の主たる症状は慢性的な痰,労作時の息切れである.痰は前述した粘膜下腺や杯細胞といった分泌腺の過形成による. 労作時息切れ(呼吸困難)は複数の要因によるが,まずメカニカルな因子として気道の狭小化による呼吸抵抗の上昇と肺容量の増大による呼吸仕事量の増加があげられる.気道の狭小化は主として末梢気道(細気管枝領域)の気道壁の肥厚・線維化と肺胞組織の断裂による気道の外側への牽引力低下による呼気時の気道虚脱による. 肺容量増加は,肺の気腫化による肺容量の増大(静的肺の過膨張)に加え,過換気状態での気道の閉塞性障害や肺の弾性収縮圧低下に起因したエアトラッピング(air trapping:空気のとらえこみ)による(動的肺の過膨張).もう少し詳しく説明すると,肺の容量は,肺の弾性力,胸郭の弾性力,呼吸筋力,気道抵抗のバランスにより決定される.COPDでは,肺の気腫化によって肺がやわらかくなり,肺の弾性力(収縮力)が低下する(生理学的にいうと肺コンプライアンスの上昇).安静呼吸の基点となる安静呼気位(呼吸筋が働かず,肺が収縮する力と胸郭が広がろうとする力が釣り合う点)での肺容量(機能的残気量,functional residual capacity:FRC)は肺が収縮しようとする力と,胸郭の広がろうとする力との釣り合いで物理的に決定される(厳密には気道抵抗も関与する).よって,肺の収縮力が低下しているCOPD患者では肺容量(FRC)は増加することになる.これが肺の静的過膨張である.さらに,COPDでは肺コンプライアンスの上昇と気道抵抗増加により健常人に比べ呼気に要する時間が長くなる.そのため,運動時などの過換気状態では,呼気が十分に完了する前に吸気に移ることになり,肺にエア・トラッピングが起こる.これが肺の動的過膨張である.COPD重症化に伴い肺の過膨張が進展すると,横隔膜の平低化をきたす.これは,横隔膜の張力を低下させ,発生胸腔内圧を減少,結果,吸気補助筋(胸鎖乳突筋,前斜角筋)を用いた呼吸パターンとなる. 肺容量増加(肺過膨張)の指標として,最大吸気量(inspiratory capacity:IC)が有用である.これは,FRCから全肺気量(total lung capacity:TLC)までの容量であり,一般臨床で簡単に施行できるスパイロメトリーから求められる. COPD患者の息切れの原因として,肺拡散能の低下も上げられる.健常人の肺胞内径は約1/3 mmで,肺胞総面積は50~100 m2に及ぶ.COPDにおける肺拡散能低下は,肺胞壁の破壊(毛細血管を含めた破壊)による拡散面積の低下によって起こる.加えて,COPD患者肺においては,低拡散領域と気道閉塞による低換気領域が不均一に存在することから(換気・拡散不均等),運動時の低酸素血症の原因となり,重症化すれば安静時でも低酸素血症を生じる. 肺血管障害に関しては,以前はCOPDの気道・肺胞病変が進行した結果生じると考えられていたが,最近ではCOPDの早期から気道,肺胞病変と並行して生じるという考えもある.COPD患者の低酸素血症は肺血管収縮から肺高血圧を増強する.
臨床症状
 慢性的な咳,痰,労作時呼吸困難が代表的な症状である.しかし,COPDに特異的な症状ではないことにも注意を払う必要がある.重症度が増せば低酸素血症からチアノーゼをきたす場合もある.臨床上,高齢者の気管支喘息との鑑別がしばしば問題となるが,喘息の呼吸困難が気道径の日内変動から夜間および早朝に出現するのに対し,COPDの呼吸困難は労作時に出現する.
 病態生理の項で記載したように,重症COPDでは,肺の著明な過膨張をきたすことから,胸郭の前後径が増し,ビール樽状胸郭を示す.また,横隔膜平低化に伴い,吸気時に肋間腔が胸腔側に陥凹する所見がみられる(Hoover徴候).さらに,吸気補助筋の使用を示す,胸鎖乳突筋や前斜角筋の肥厚や,肺コンプライアンス増加による気道の易虚脱性を防ぐ効果がある,口すぼめで,呼気時間を長くとる呼吸パターン(口すぼめ呼吸)が認められる.
検査成績
 COPD診断には画像検査(胸部単純写真)と生理検査(スパイロメトリー)が重要である.気道優位か気腫優位かといった表現型を知るためには,精密呼吸機能検査や胸部CT検査が役立つ.①胸部単純写真では,比較的進行した症例(重症例)で,肺胞破壊や肺の過膨張による肺野の透過性の亢進(hyperlucency),肺紋理の減少,心陰影の狭小化(small heart),横隔膜の平低化などを認める(図7-3-3).しかし,軽症や中等症のCOPDでは胸部単純写真で異常を認めないことが多いことに注意が必要である.COPD診断における胸部単純写真の最も大きな意義は,咳,痰,労作時息切れといった症状がCOPDとオーバーラップする,肺炎,気管支拡張症,肺結核,肺癌,心不全などの疾患の除外にある.②スパイロメトリーではTLCから最大呼気位(残気量,residual volume:RV)まで努力呼出を行って得られたFEV1をFVCで割った値,FEV1%がCOPD診断に重要である(図7-3-4).気管支拡張薬(短時間作用性β2刺激薬)吸入15~30分後のFEV1%が70%未満であれば固定性の閉塞性障害が存在しCOPDが疑われる.最近のスパイロメトリー検査では,フローボリューム曲線(最大吸気位から最大呼気位までの努力呼出曲線の微分値(流速)をY軸,流量をX軸で表したもの)が同時に表記される.FEV1%が正常域であってもこのフローボリューム曲線の下行脚が下に凸であれば,閉塞性障害(COPD)の予備軍と位置づけられる.また,COPDが進行すると,呼出開始後最大呼気速度が得られたのち,急速に流速が低下し,低流速で最大呼気位まで続くパターン(dynamic compression)が認められる.③精密呼吸機能検査では肺拡散能と肺気量分画測定が有用である.COPDでは肺胞破壊(肺毛細血管床の減少)による拡散面積の低下から肺拡散能(DLCO)の低下をきたす.ただし,気腫化がわずかで気道優位のCOPDの場合にはDLCOの低下は軽度の場合がある.肺気量分画に関しては,病態生理の項で記載したように肺の過膨張からFRCが増加し,細気管支領域の傷害(閉塞)からRVも増加する.TLCも増加するが気腫化領域が少ないCOPDではその増加は軽度にとどまる.気腫化による肺コンプライアンスの増加の程度は,胸腔内圧を食道バルーンによって得られた食道内圧で代用し単位容量変化/単位圧変化(ΔV/ΔP)で求められるが,現在は臨床上ほとんど施行されていない.④CT検査,特に高分解能CTは気腫化の診断に有用である(図7-3-5).気腫化部分は低吸収領域として示される.ただし,気腫化の範囲とCOPDの閉塞性障害の程度は気道病変の関与もあるため,必ずしも相関しないことに留意が必要である.
診断
 中高年で喫煙歴があればまずCOPDを疑うことが重要である.前項(検査成績)で述べたように,胸部単純写真とスパイロメトリーを行えば診断は比較的容易である.診断基準は,①気管支拡張薬後のスパイロメトリーでFEV1/FVC<0.7を満たし,②ほかの閉塞性障害をきたしうる疾患を除外する,である.疫学調査によれば,喫煙歴のないCOPDも10%程度は存在するので留意する.
鑑別診断
 スパイロメトリーでの閉塞性障害といった点からは気管支拡張症,気管支喘息,慢性的な咳,痰といった点からは肺炎,肺結核,肺癌などが鑑別疾患としてあげられるが,ほとんどの疾患は画像検査(単純胸部写真)で鑑別可能である.気管支喘息に関しては,アトピー素因(IgE),発作性の呼吸困難(喘鳴),精密呼吸機能検査でのDLCO(喘息では低下しない)などが鑑別診断に有用だが,COPDと気管支喘息の合併患者も存在する点は留意しておく必要がある.
合併症・併存症
 合併症としてはCOPDの進行(重症化)とともに,肺炎,呼吸不全,心不全などがあげられる.また,COPDは喫煙が主たる原因で高齢者に発症する疾患であるため虚血性心疾患,骨粗鬆症,2型糖尿病を併発しやすい.最近では,喫煙が原因で全身性の炎症,あるいは加齢の加速が起こり,そのためCOPDや虚血性心疾患のような疾患が発症するといった仮説も提唱されている.さらに,COPD患者は労作時息切れから活動性が低下し,心血管病変や糖尿病,骨粗鬆症の悪化を起こしやすいとも考えられる(図7-3-6).
経過・予後
 COPDの経過(疾患の進行)は閉塞性換気障害の進行,すなわちFEV1の経年低下で評価される.喫煙を続け,未治療であればFEV1の低下速度は大きいが,禁煙し適切な薬物療法を行えばFEV1低下は抑制される.
 COPD経過ならびに生命予後に影響を与える因子として,増悪がある.増悪とは気道感染などによってCOPD患者の息切れが増強したり,痰が膿性化したり量が増えたりする事象を指すが,この増悪はCOPD患者の非可逆的なFEV1の低下や死亡率の増加をきたす.禁煙やインフルエンザワクチン接種,長時間作用性気管支拡張薬投与はこの増悪を減らすことからも,COPD患者の経過や予後に好影響をもたらす.
治療・予防・リハビリテーション
1)安定期のCOPD治療(図7-3-7):
安定期COPDに対する治療の第一は原因の除去,すなわち禁煙である.さらに増悪予防の見地からインフルエンザワクチン接種も行う. 薬物療法の中心は気管支拡張薬であり,患者の重症度に応じて段階的に投与する.可能な限り呼吸機能検査で患者個々人の反応性を確かめ,それに応じて薬剤の選択を行い副作用に注意しながら持続的な投与を行う.気管支拡張薬による気流制限(閉塞性換気障害)の改善の指標としては,FEV1の変化が最も一般的だが,FEV1の変化が軽微であっても,肺の過膨張が解除され,労作時息切れや運動耐容能の改善が認められることが多いことが報告されている.実際,COPD患者に気管支拡張薬を投与した場合の運動耐容能の改善が,FEV1の改善率とは関連せず肺過膨張の指標であるICの変化量と有意に相関することが報告されて以来,COPDにおける気管支拡張薬の有効性の機序として肺過膨張の減少効果が注目されるようになっている.つまり,COPD患者に対する薬剤の有効性は呼吸機能の変化に加え,患者の症状,QOL,運動能力の改善といった広い視点から評価すべきである.
 COPD患者に用いる気管支拡張薬に関しては,抗コリン薬,β2刺激薬,テオフィリン製剤の3種があるが(図7-3-8),気管支が拡張薬によって反応(拡張)する可逆的なコンポーネントは,その疾患の気道を取り巻いている気管支収縮物質の種類によって規定される.気管支喘息の場合には,β2刺激薬が最も強力な気管支拡張作用を示すが,COPDの場合には,β2刺激薬よりも抗コリン薬が有意に大きな効果を示す.抗コリン薬はアセチルコリンによる気道収縮に特異的に拮抗し,β2刺激薬はあらゆる気道収縮物質に対して機能的に拮抗する.つまり,COPDにおける可逆的な部分というものは迷走神経から出るアセチルコリンによるものがほとんどであり,喘息の場合にはこれに加えて好酸球あるいはマスト細胞から出るロイコトリエンやトロンボキサン,ヒスタミンといった多彩なメディエーターが関与しているということになる.
 全身性の副作用の面から吸入の長時間作動型気管支拡張薬が推奨される.気管支拡張薬はそれぞれで作用機序が異なっており(図7-3-8),治療効果不十分の場合は,単剤の用量増加より多剤併用が効果と副作用のバランスからいって好ましい. 吸入ステロイドは重症以上のCOPDの増悪頻度を減少させる効果が報告されており,%FEV1<50%で増悪を繰り返すCOPD患者には吸入ステロイドを使用する.
 一般的にいって,COPD患者は高齢であることもあり,呼吸機能障害がある程度存在してもあまり活動しないことから息切れを自覚しない場合が多い.気管支拡張薬の投与で活動性が増すことでそれまでの状態が最適でなかったことに気づくことも多い.よってCOPD患者に対する薬物管理は積極的に行うべきである.図7-3-9に長時間作用性気管支拡張薬を中心としたCOPD薬物療法のCOPD病態改善効果を示す. 呼吸不全併発時には酸素療法を行い,気腫化の部分が限定的な場合には外科的切除術も考慮する.なお,COPD患者では安静時に低酸素状態でなくても労作時に低酸素血症をきたす患者がままあるので注意が必要である.
運動療法を中心とした呼吸リハビリテーションや栄養療法なども組み合わせ,包括的にCOPDを管理することが望ましい.
2)増悪期COPDの治療:
増悪はCOPDの疾患進行を加速し,致死的要因となる場合があるので禁煙,インフルエンザワクチン接種,長時間作用性気管支拡張薬使用といった増悪予防策をしっかりとることがまず重要である. 増悪を起こしてしまった場合は,呼吸困難の悪化に対して作用発現の速い短時間作用性気管支拡張薬の吸入,感染併発例では抗菌薬投与を行う.病期分類で重症以上のCOPD増悪には全身性ステロイドを用いる.低酸素血症に対する酸素投与,心不全併発に対する管理などにも留意する.[一ノ瀬正和]
■文献
Barnes PJ: Immunology of asthma and chronic obstructive pulmonary disease. Nat Rev Immunol, 8: 183-192, 2008.Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of COPD. 2011 update. Available from: http://www.goldcopd.org. Accessed March 2, 2012. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第3版作成委員会:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン(第3 版),メディカルレビュー社,2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科の解説

慢性閉塞性肺疾患(COPD)
まんせいへいそくせいはいしっかん(COPD)
Chronic obstructive pulmonary disease (COPD)
(お年寄りの病気)

どんな病気か

 肺は、外界に直接、接している内臓で、いつも外気に触れていて、肺に出入りする空気の量は1日1万ℓを超えます。そのため、ガス体や微粒子を含む汚染された空気を繰り返し長期にわたって吸入するような環境下で生活していれば、影響を受けて病気になることがあります。

 慢性閉塞性肺疾患は、これまで慢性気管支炎肺気腫(はいきしゅ)といわれてきた病気を総称した呼び名です。現在は英語の名称、chronic obstructive pulmonary disease をとって世界中で共通の病名、COPDが用いられるようになりました。

 世界の死亡原因ランキング(世界銀行調査)によると、COPDは1990年の6位から2020年には3位になると予想されています。

 また、病気によって生じる人的負担は、早死により損失した年数と、障害のある状態で生存した障害の重症度で調整した合計値(DALY)により算出しますが、これによるとCOPDは、1990年の12位から2020年には5位に上昇するといわれています。

 COPD糖尿病なみに多い病気で、日本での患者数は500~700万人と推定されています。しかし、実際に治療を受けている人は20数万人程度といわれ、著しく診断率が低いことが問題になっています。

原因は何か

 COPDは、汚れた空気を繰り返し吸うことにより発症します。いちばんの原因はたばこです。COPDの人の95%以上はたばこが原因で、喫煙者のなかの約20%がCOPDになるといわれています。COPDは、予防できる肺の生活習慣病として注意しなければなりません。

 日本は、先進諸国のなかではきわだって喫煙率が高いままで、また青少年、若い女性の喫煙率が上昇していることから、さらに患者数は増えると予測され、対策が求められています。WHO(世界保健機関)は2001年にGOLDと呼ばれる診療の指針を発表し、世界的な啓蒙活動を行うことを求めています。

症状の現れ方

 COPDは中高年に多い病気で、主な症状は(せき)、痰、息切れです。しかも、これらの症状は通常、歳をとるにつれてゆっくり進行していきます。息切れがあってもかぜだと考えたり、歳のせいだと思い込んで、適切な医療を受けていないことが問題です。

 とくに息切れは、階段や坂を登る時に強く、病気が悪化していくと家から外出できずに引きこもりがちになり、やがてベッドから出られなくなる、つまり寝たきりの原因となりえます。

 高齢者の気管支喘息(ぜんそく)は、COPDと混同されていることが少なくありません。しかし、COPDは気管支喘息と違って、肺がんや、脳卒中などの体のほかの臓器の病気を多く合併していることが少なくなく、また治療が不十分だと年ごとに肺機能は急速に低下していきます。

検査と診断

 決め手となる診断方法は、スパイロメトリーと呼ばれる簡単な肺機能検査です。COPDの可能性が高いことがわかったら、気管支を拡張させるような吸入薬を吸って、その前後で精密な肺機能検査を行います。これによって、治療薬の効果をあらかじめ推定することができます。

 また、息切れが心臓の病気など、ほかの原因で起こっていないかを調べます。胸部のCT検査は、肺胞(はいほう)と呼ばれる肺の細かな構造が広い範囲で壊れているかどうかの手がかりになり、肺がんの合併をチェックすることができます。

治療の方法

 リスクを除くこと、つまり禁煙を厳守しなければなりません。節煙やニコチンの量の少ないたばこに変えても、COPDは確実に進行していきます。

 気管支を広げるような吸入薬を最初に使います。これには、β2刺激薬と呼ばれるものと、抗コリン薬に分類されるものがあり、両方を使うことで相乗効果があります。ステロイドの吸入薬や、そのほかに飲み薬を使うこともあります。

 肺機能検査によって病気の重症度を判断し、これに基づいて治療方針が決められるよう診療のガイドラインが発表されています(図8)。

包括的呼吸リハビリテーション

 COPDの日常生活上の注意では、適度な運動と栄養の管理が大切で、また、包括的呼吸リハビリテーションと呼ばれる全身管理が効果的です。これは、医師、看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどがチームワークを組んで包括的に行う医療で、次第に広まってきています。

木田 厚瑞


慢性閉塞性肺疾患(COPD)
まんせいへいそくせいはいしっかん(COPD)
Chronic obstructive pulmonary disease (COPD)
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 慢性閉塞性肺疾患(以下、COPDと略)は、たばこ煙を主とする有毒物質を長期間吸入することによって生じる肺の炎症による病気です。主に肺胞系の破壊が進行して気腫(きしゅ)型(肺気腫(はいきしゅ)病変優位型)になるものと、主に気道病変が進行して非気腫型(気道病変優位型)になるものがあります(図28)。

 COPDは、肺胞(はいほう)­末梢気道­中枢気道に及ぶすべての病変を包括するものですが、以前は、肺気腫と慢性気管支炎に分けて呼ばれていました。

 COPDの患者数は全世界的に増加しており、2020年までに全世界の死亡原因の第3位になると推測されています。

 日本で2000~2001年に行われた疫学調査により、40歳以上の成人の8.5%、530万人がCOPDに罹患(りかん)していることが明らかになりました。一方、調査でCOPDと診断された人の90%が、それまでにCOPDと診断されていませんでした。

 COPDの原因の約90%は喫煙です。主な症状は慢性の(せき)、痰と労作性(ろうさせい)の息切れ(体を動かした時に出現する息切れ)ですが、ゆっくりと進行し、典型的な身体所見も重症になって初めて現れることが多いため、早期に気づきにくいことが特徴です。

 重症になると呼吸不全に至り、息苦しさのために日常生活ができなくなったり、かぜなどをきっかけに急に症状が悪化すること(増悪(ぞうあく)または急性増悪)を繰り返すことになります。

 早期の診断には肺機能検査が不可欠です。禁煙によるリスクの回避と適切な病気の管理により、有効な予防と治療が可能な病気です。

原因は何か

 COPDの危険因子は、外因性危険因子と患者さん側の内因性危険因子に分けられます。外因性危険因子には、喫煙、大気汚染、職業上で吸入する粉塵(ふんじん)、化学物質(蒸気、刺激性物質、煙)、受動喫煙などがあります。

 喫煙はCOPDの最大の外因性危険因子であり、COPDの発症に関与することが立証されています。

 日本では1960年以降の経済成長に伴い、たばこ販売量や消費量が増加し、これに20年遅れてCOPD(慢性気管支炎および肺気腫)が増加しています(図29)。1985年以降は、とくに男性において顕著です。

 一方、喫煙者すべてがCOPDを発症するわけではなく、一般的に喫煙者の20~30%に発症します。患者さん側の内因性危険因子として、COPD発症に関係するさまざまな候補遺伝子が報告されつつありますが、α1­アンチトリプシンの欠損を除いては、COPDの発症にどの程度関係しているのかは明らかになっていません。

症状の現れ方

 COPDの症状は慢性の(せき)、痰と労作性の息切れです。COPDはゆっくりと進行し、前述のように典型的な身体所見も重症になって初めて現れることが多いため、早期に気づきにくいことが大きな問題です。

 階段や坂道での息切れにはじまり、重症になると歯みがきや着衣の動作でも強い息切れが現れます。一方、喘息(ぜんそく)と異なり、通常は安静にしている時には息切れがないのが特徴です。

 喀痰(かくたん)は通常は粘液性ですが、気道感染が合併すると量が増え、膿性になります。肺機能の悪化が進むと、高二酸化炭素血症を伴い、朝方の頭痛などが現れます。

 COPDは肺の病気のみにとどまらず、全身に症状が現れます。進行すると体重減少や食欲不振も起こり、体重と生命予後との関連も明らかにされています。

 体や手足の筋力、筋肉量も減ってしまいます。また、右心不全(うしんふぜん)が出現すると呼吸困難がさらに悪化したり、全身のむくみや夜間の頻尿(ひんにょう)などが現れます。息切れなどによる抑うつ状態や不安などの精神的な症状も多くみられます。

 肺が過度に膨脹(ぼうちょう)するため、ビア(だる)状の胸郭(きょうかく)といわれる胸郭前後径の増大が認められます。空気を肺から能率よく吐き出すために口すぼめ呼吸をするようになります。呼吸補助筋の使用が増え、とくに胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとっきん)が肥大します。ただし、これらの典型的な身体所見は、重症になるまで現れません。

 安定期のCOPD患者が気道感染や大気汚染をきっかけに急に肺機能が悪化し、呼吸困難が増悪することがあります。呼吸数や脈拍数が増え、痰の量や膿性痰が増加し、喘鳴(ぜんめい)(ゼーゼーする呼吸音)などが出現します。増悪がみられると入院の回数も増え、死亡率が高まり生命予後を悪化させます。

検査と診断

 咳、喀痰、労作性呼吸困難などの症状があり、喫煙歴などの危険因子をもつ中高年者でCOPDが疑われます。診断の確定にはスパイロメトリー検査(肺機能検査)が必須です。

 気管支拡張薬を吸入したあとの検査で、1秒率(FEV1:努力性肺活量に対する1秒量の比率)が70%未満であれば、気流閉塞が存在すると判定されます。画像診断や呼吸機能の精密検査により、ほかの気流閉塞を起こす疾患が除外されれば、COPDと診断されます。

 区別を要する疾患として、気管支喘息びまん性汎細気管支炎(はんさいきかんしえん)、先天性副鼻腔炎(ふくびくうえん)症候群、閉塞性(へいそくせい)細気管支炎、気管支拡張症肺結核(はいけっかく)塵肺症(じんぱいしょう)肺(はい)リンパ脈管筋腫症(みゃくかんきんしゅしょう)、うっ血性心不全、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)肺(はい)がんなどがあります。

 胸部X線検査は、ほかの疾患を除外するためと、比較的進行した肺気腫病変や気道病変を診断するために用いられますが、早期COPDの検出は難しいとされています。

 一方、気腫優位型COPDの早期検出においては、胸部CT検査が有用です。最近は、胸部CTの精度が年々向上し、肺気腫の最小単位と考えられる数㎜径の病変内の構造までもとらえるまでに解像度が上がっています(図30)。

 COPDの病期分類は気流閉塞の程度を表す1秒量(FEV1)で行います。病期分類は、

・Ⅰ期:FEV1≧80%

・Ⅱ期:50%≦FEV1<80%

・Ⅲ期:30%≦FEV1<50%

・Ⅳ期:FEV1<30%、あるいはFEV1<50%で慢性呼吸不全合併

となります。

 重症度はこれらの病期に加えて、呼吸困難の強さ、運動能力や併存症・合併症の有無などから総合的に判断されます。

治療の方法

 リスクの回避と適切な病気の管理により、有効な予防と治療が可能です。図31に日本呼吸器学会「COPD診断と治療のためのガイドライン第3版」に示された安定期COPDの治療法を示しました。COPDの治療は、病期や症状に応じて階段的に増強していきます。

 COPDの発症を予防し進行を遅らせるためには、たばこの煙からの回避が最も重要です。禁煙、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が大切です。インフルエンザワクチンは、増悪によるCOPD死亡率を50%低下させることが報告されています。

 軽症の場合では症状の軽減を目的に、必要に応じて短時間作用性の気管支拡張薬を使用します。

 中等症では、症状の軽減に加え、生活の質(QOL)の改善、運動能力の改善などが主な目標となり、長時間作用性の気管支拡張薬の定期的な服用と、呼吸リハビリテーションがすすめられます。

 重症の場合の薬物療法は、長時間作用性の気管支拡張薬の定期服用が中心ですが、効果に応じて複数の長時間作用性気管支拡張薬が併用されます。

 増悪の予防も大きな課題です。増悪を繰り返す患者さん(たとえば、過去3年間で3回の増悪を繰り返す人)では、吸入ステロイド薬を追加あるいは吸入ステロイド薬と長時間作用性気管支拡張薬の配合薬を使用することにより増悪の頻度が減少し、QOLの悪化が抑えられることが報告されています。喀痰調整薬などにも増悪の予防効果のあることが報告されています。

 呼吸リハビリテーションや栄養管理などの非薬物療法は、薬物療法と同じくらい重要です。呼吸不全を合併する場合、在宅酸素療法が行われ、生命予後が改善することが示されています。

 最大限の包括的な内科治療にもかかわらず病気が進行した場合には、十分に検討したうえで外科的治療(肺容量減少手術、肺移植)が考慮されます。

 増悪時には、気管支拡張薬の吸入の用量や回数を可能な範囲内で増やします。ステロイド薬の全身投与(経口または経静脈投与)は増悪から回復するまでの時間を短縮させ、肺機能をより早く回復させます。喀痰量や喀痰の膿性度が増えていれば、抗菌薬が投与されます。

 肺機能の低下が高度の場合、マスクなどを用いた非侵襲的陽圧換気(ひしんしゅうてきようあつかんき)療法(NPPV)が行われます。ただし、誤嚥(ごえん)がある場合や、喀痰などの分泌物の吐き出しが困難なため気道確保が必要な場合などでは、侵襲的陽圧換気療法(IPPV)が推奨されます。

 一方、COPDには慢性的な全身性炎症が関わるため多くの疾患を併存します。代表的なものとして骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、心・血管疾患、消化器疾患などがあります。狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)、うっ血性心不全を罹患するリスクは1.5~3倍に上昇します。

 肺がんの合併も問題となります。毎年健康診断を受けるなど、これら併存症や合併疾患の対策も重要です。

病気に気づいたらどうする

 過去に肺機能検査を受けたことのある人は少ないと思います。健康診断でも心電図検査は必ず含まれていますが、肺機能検査はあまり含まれていません。

 40歳以上で喫煙歴があり、咳、痰が長く続く場合や階段や坂道での息切れに気づいたら、医療機関を受診して、肺機能検査を受けることをすすめます。

吉見 格, 植木 純


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典内の慢性閉塞性肺疾患の言及

【気管支炎】より

…イギリスのフレッチャーC.M.Fletcherによって〈1年に3ヵ月以上咳・痰が続き,それが少なくとも2年(2冬)にわたる〉という基準が提唱された(1959)。しかし,このような症状を示す慢性の呼吸器疾患はたくさんあり,とくに慢性閉塞性肺疾患chronic obstructive lung disease(COLDと略す)とよばれる一連の疾患には,慢性気管支炎のほか,肺気腫症,気管支喘息,瀰漫(びまん)性汎細気管支炎などが含まれ,いずれも多かれ少なかれ持続性の咳・痰を特徴とする。また気管支拡張症も同様である。…

【閉塞性肺疾患】より

…気道の閉塞によって換気障害を起こす慢性呼吸器疾患の一群をさし,正確には慢性閉塞性肺疾患という。気管支喘息(ぜんそく),肺気腫,慢性気管支炎,および日本の瀰漫(びまん)性汎細気管支炎がおもなもので,それぞれ異なる疾患であるが,臨床症状,呼吸機能や治療面で共通点が多いため1960年ころからこの総称が広く使われるようになった。…

※「慢性閉塞性肺疾患」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

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