慢性間質性腎炎

内科学 第10版 「慢性間質性腎炎」の解説

慢性間質性腎炎(間質性疾患)

定義・概念
 慢性間質性腎炎病変の主座が腎の間質にあって時間の経過とともに緩徐に炎症所見とともに線維化が進行するものをいう.同時に尿細管病変も伴うため,慢性尿細管間質性腎炎と呼称されることが一般的であることは,急性の場合と同様である.間質および尿細管に慢性に障害が起こると腎機能が年余にわたって徐々に悪化して,進行性の慢性腎不全(ないしはCKDの進行したステージ)の病態をとることが特徴的である.
分類・原因・病因
 原因による分類が一般的である.薬剤によるもの,重金属など腎毒性物質によるもの,免疫異常によるもの,尿路異常によるもの,代謝異常によるもの,血液病ないし腫瘍によるもの,遺伝性のもの,など,急性尿細管間質性腎炎と異なり原因は多様である.このうち急性尿細管間質性腎炎で大多数を占める薬剤性の頻度はそれほど高くなく,またその中身として抗菌薬にかわり,NSAIDsや向精神薬(リチウム製剤),免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬:シクロスポリン,タクロリムスなど),漢方薬(アリストロキア酸を含むものなど),などが報告されている.また,免疫異常によって起こるものの多くは急性尿細管間質性腎炎の原因としてもあげられており,原病の病状によって臨床的な現れ方が異なる.最近,IgG4関連疾患の概念が報告されているが,高IgG4血症と罹患臓器への著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする原因不明の全身性,慢性炎症性疾患である.その代表的な病態には,自己免疫性膵炎やMikulicz病などがあるが,Mikulicz病の約15%に間質性腎炎(IgG4関連腎症)が認められる. なお,慢性の尿細管間質障害は糸球体病変に伴って起こることはよく知られており,頻度的にはそれ以外の原因によるものと比べて多いと考えられる.ここでは,病変の主座が糸球体ではなく間質であるものを取り扱うこととする.
疫学・統計的事項
 慢性尿細管間質性腎炎は原因が多彩で,発見が遅れることも多く,腎生検による病理学的診断も十分行われていない.したがって,本疾患の疫学統計的データはきわめて乏しい.
病理(図11-7-2)
 間質領域に細胞浸潤と線維化がみられる.経過が長いほど,また病状が進行するほど間質の線維化は高度になる.尿細管の広範な萎縮消失がみられる.原因によっては,たとえば重金属中毒や漢方薬によるものでは,細胞浸潤は経度で線維化と尿細管萎縮が進行するものもある.糸球体の変化は軽微であるが,病状が進行すると間質の虚血とともに糸球体への血流も低下し,糸球体硬化がみられることがある.
病態生理
 慢性間質性腎炎の最大の特徴は,間質の線維化である.線維化に至るまでの過程でさまざまな要素が関与する.間質の線維化の本体はおもに線維芽細胞などから産生される細胞外基質,とりわけコラーゲン(Ⅰ,Ⅲ型)およびフィブロネクチン蓄積である.一方で細胞外基質を溶解する蛋白分解酵素とその阻害物質の異常も重要な要素で,これらの制御には成長因子であるTGF-βが深くかかわっている.線維化の前段階では,樹状細胞,リンパ球マクロファージ,マスト細胞などの炎症性細胞が深くかかわっており,それ以外に間質に存在する線維芽細胞や尿細管上皮細胞の関与が明らかにされている.さまざまな刺激を受けて尿細管上皮細胞が線維芽細胞に形質転換する現象も広く知られるようになっている.持続するさまざまな刺激(炎症,虚血など)によって最終的に過剰な細胞外基質が産生され,その分解の速度を上回って蓄積することが間質線維化のプロセスである.
臨床症状
1)自覚症状:
緩徐に進行し自覚症状に乏しいことがほとんどである.末期腎不全にまで進行すれば,慢性腎不全のさまざまな自覚症状が出現する【⇨11-10-2)】.
2)他覚症状:
病初期には他覚症状はみられない.腎機能の低下の程度に応じて高血圧や貧血が指摘される場合がある.
検査成績
 血液検査では腎機能低下(血清のBUNやクレアチニンの上昇)が最も重要かつ必発の所見である.また間質は造血ホルモンであるエリスロポエチンの産生部位でもあるので,腎機能に比して貧血が強いことが多い.また,慢性に尿細管の障害が進行することから,電解質・酸塩基平衡異常,腎性糖尿,小分子蛋白尿,など尿細管機能異常に基づく検査異常の存在がしばしばみられる.
診断
 血液検査によって腎機能低下が偶然指摘されて発見されることが多い.したがって,表11-7-2に該当するような症例については定期的に腎機能(BUNおよびクレアチン)のチェックを行う必要がある.
鑑別診断
 慢性糸球体腎炎,腎硬化症,多発性囊胞腎,その他慢性に腎機能が低下する疾患が鑑別対象になる.本症では,尿所見は軽微であることが多く,蛋白尿は陰性もしくは弱陽性,血尿もある場合とない場合があり,急性尿細管間質性腎炎でみられた白血球尿や白血球円柱はみられないことが多い.蛋白尿・血尿を主徴とする慢性糸球体腎炎との鑑別は比較的容易であるが,囊胞腎などを除き確定診断には腎生検による組織診断が必要である.腎硬化症は高血圧,高脂血症,加齢などで血管の動脈硬化が進み腎臓への血流が低下して緩徐に腎実質の線維化をきたすものであるが,本症との鑑別はときに困難なことがある.詳細な病歴聴取により,腎機能低下の原因となる腎毒性物質の暴露歴や腎毒性薬剤の服用の有無を明らかにすることが重要である.多発性囊胞腎は超音波検査などの画像により診断は容易である(多発性囊胞腎の項参照).
合併症
 慢性腎不全とそれに伴うさまざまな異常が出現する【⇨11-10-2)】.
経過・予後
 原因が除去されない場合,あるいは原疾患の治療が奏効しない場合には,進行性に腎機能の低下が起こる.また,腎機能が一定程度低下してしまうと,その段階で治療を行っても腎機能は元に戻らず,そのまま末期腎不全へと進行する.漢方薬による腎障害では,薬を中止した後でも,しばしば進行性に腎障害が進行する.放射線照射による影響は数カ月から数年たって現れるので,定期的な腎機能検査による経過観察が必要である.
治療
 原因の特定がまず重要である.薬剤などの場合には,まず被疑薬を中止する.急性間質性腎炎と異なり,発見された時点で,腎実質の線維化が進んでいるので,短期間での腎機能の回復はみられないことが多い.原因の除去および原疾患の治療が基本であり,腎不全の一般的な対症療法を合わせて行う.[松尾清一]
■文献
Praga M, Gonzalez E: Acute interstitial nephritis. Kidney Int, 77: 956-961, 2010.
Rose BD, Appel GB: Clinical manifestations and diagnosis of acute interstitial nephritis. UpToDate (Last Literature Review Version 19.3) 2011. http://www.uptodate.com/contents/clinical-manifestations-and-diagnosis-of-acute-interstitial-nephritis
Zeisberg M, Neilson EG: Mechanisms of tubulointerstitial fibrosis. J Am Soc Nephrol, 21: 1819-1834, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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