天体スペクトル中の吸収線の強さは,通常連続スペクトルから吸収された光の割合(図1の面積S)を連続スペクトルの幅(W)に換算した等価幅で表す。この等価幅と吸収の原因となる原子または分子の量,励起状態,遷移確率などによって決まるスペクトル線強度との対応関係を示すものを成長曲線といい,対数尺度で示すと図2のようになる。この図からわかるように,スペクトル線強度が小さい間は等価幅はこれに比例して増大するが(図2の左部分),スペクトル線強度がある大きさに達するとスペクトル線の深さは限界に達し,一方,スペクトル線の幅はドップラー幅によって決まる値以上に大きくなれないので等価幅はほぼ飽和値に達し,スペクトル線強度が増大してもほとんど増大しなくなる(図2の中央部)。1934年にO.ストルーベとエルビーC.T.Elveyはこの飽和等価幅が表面温度のほぼ同じ星でも光度の大きい星ほど大きいことを見いだし,恒星スペクトル線のドップラー幅は原子・分子の熱運動だけでは説明できず,これを大きくする他の原因が存在することを示した。このような原因として恒星大気中のガスはある種の乱流状態にあり,かつその乱流運動の大きさは光度の大きい星ほど大きいとする可能性が考えられた。図2はこのような乱流運動の平均的な大きさ,すなわち乱流速度をいろいろに変えて計算された理論的成長曲線を示すが,乱流速度の大きい場合は超巨星の,また小さい場合は矮星(わいせい)の観測結果によく対応することが確かめられた。このようにして,矮星,巨星,超巨星の順に増大する乱流運動が恒星大気中に存在することが明らかにされた。しかし,スペクトル線強度がさらに増大すると,スペクトル線の減衰曲線が吸収に寄与するため等価幅は再び増大するが,ここでは等価幅はスペクトル線強度の平方根に比例して増大する(図2の右部分)。この成長曲線は遷移確率のわかった多くの吸収線の等価幅を測定して恒星大気中の原子または分子の量や励起状態を決定し,ひいては恒星大気の化学組成を決定するうえで基本的に重要な役割を果たした。
執筆者:辻 隆
生物体の全部,または部分の成長量(体重,脚長など)が,時間の経過にともない増加する過程を,グラフにより図示したもの。曲線の形状は,その種の生活史,生活環によって特徴づけられているが,ふつう一生のあいだの中ほどで成長量が最大になり,その後しだいに減少していくために,一般にS字型(シグモイド型)となることが多い。しかし,昆虫や甲殻類のように変態する生物では,不連続で複雑な曲線を描く。同じ種でも,春生れの個体の成長曲線は,秋生れの個体の成長曲線と異なり,また食物不足などにより負の成長が表れるなど,生育環境条件によって,曲線の形状はさまざまであることが知られている。
成長は,ふつう細胞数や生物体量の増加と定義されるが,生態学では個体数の増加をも成長と呼ぶので,この意味で個体群の増加過程を表したグラフも,成長曲線と呼ぶことができる。個体群の成長曲線は理想的条件下では,個体群は指数関数的に増加する。いわゆるねずみ算的に生物が大発生する過程である。しかし現実には生活空間,食物量など生活資源量が有限であるために,個体群の成長はやがて停止し,環境の収容量にみあった個体群水準で安定することになる。個体群の成長曲線も生活場所の条件やその種の社会構造により,いろいろな形状を示す。
なお,成長曲線を時間の関数として定式化したのが成長式growth formulaである。
執筆者:立川 賢一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生物の個体や器官の成長量、あるいは群(集団)の成長量を経時的に測定し、横軸に時間、縦軸に成長量をとってグラフで表したものをいう。もっとも典型的な成長曲線は、S字状をしたいわゆるシグモイド曲線(植物成長では、ロジスティック曲線あるいは自己触媒反応曲線ともよばれる)で、バクテリアの増殖などはこのような成長曲線を示す。シグモイド型の成長は、初めに緩やかに増加する成長の相があり、ついで、急速に成長する相を経て、終わりは徐々に成長が低下して、停止に至る三つの相から成り立っている。
ロジスティック曲線で、変曲点(成長が増加する相と低下する相の移行点)において上下対称となる場合は、次式で表すことができる。
Gは最大成長量、gはt時間の成長量、tiはgがGのちょうど半分になる時間である。
成長には、このほか、ゴンペルツ曲線、モノモレキュラー曲線を示すものもある。樹木の茎頂の成長のように、成長に上限がない場合は、直線的に増加するパラボラ曲線、または指数関数曲線を示す。
[勝見允行]
…吸収線の強さは,吸収に関与するエネルギー準位の原子やイオンであって,光球面より上にあるものの数と吸収の起こる遷移確率との積の関数であるが,その関数形には,大気モデル,乱流速度,減衰係数なども含まれる。その関数を図表化したものを成長曲線という。理論と観測の成長曲線の一致からモデルのパラメーターや元素の化学組成が導ける。…
※「成長曲線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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