1946年製作のアメリカ映画。第2次世界大戦中に空軍将校として,ドイツ爆撃に関する2本の長編記録映画《メンフィス・ベル》《サンダーボルト》を製作・監督したウィリアム・ワイラーの戦後第1作。1944年8月の《タイム》に載った帰還水兵たちの記事を読んで,〈復員〉をテーマにした映画の企画を思いたったサミュエル・ゴールドウィンの依頼をうけ,小説家マッキンリー・キャンターが書いた434ページの無韻詩《グローリー・フォー・ミー》(1945)を,ピュリッツァー賞受賞の劇作家で《若き日のリンカーン》(1940),《レベッカ》(1940)などの脚本家でもあるロバート・E.シャーウッドが脚色した。3人の復員軍人--若い空軍将校,もと銀行員の陸軍軍曹,両手を失った水兵--の三者三様の人生と社会復帰,いわばアメリカの切実な〈戦後〉を描いたこの映画は,月並みなハッピー・エンドに見られる〈解決〉の甘さも指摘されたが,その一方では,ワイラーの〈1シーン,1シークエンス〉に徹した映画的リアリズムが高く評価され,作品賞,監督賞をはじめ九つのアカデミー賞を受賞して興行的にも成功した。
なお,47年,非米活動委員会がハリウッドへの攻撃を開始したとき(〈ハリウッド・テン〉の項目を参照),この映画はマイケル・カーティスの《ミッション・トゥー・モスコー》(1943),グレゴリー・ラトフの《ソング・オブ・ロシア》(1943)とともに,〈破壊的〉であるとして右翼陣営から攻撃された。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカ映画。1946年作品。ウィリアム・ワイラー監督。戦争が一般市民の心にいかに深い傷跡を残すかを描いて世界中を感動させた名作。同じ地方都市に帰還した年齢も環境も異なる三人の復員兵士が、さまざまな困難を経て日常生活に復帰するまでが、深い共感をこめて描かれる。自身、ヨーロッパ戦線で戦闘を経験したワイラーは、一つの画面に複数の人物のそれぞれの人生を交錯させる重層的演出を多用、名カメラマン、グレッグ・トーランドGregg Toland(1904―1948)のパンフォーカス撮影(近景から遠景までを鮮明に映しだす撮影技法)と相まって、イタリアのネオレアリズモとはまた異なる、戦後映画のもう一つのリアリズム美学を打ちたてた。アカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞など計8部門を受賞。独立プロデューサー、サミュエル・ゴールドウィンにとっても会心の一作となった。
[宮本高晴]
…第2次大戦中はF.D.ローズベルト大統領の演説の起草者ともなった。その後の劇作品には見るべきものはないが,ヒッチコック監督《レベッカ》(1940)やW.ワイラー監督の代表作となった《我等の生涯の最良の年》(1946)などの映画脚本で活躍し,後者ではアカデミー脚本賞を受賞した。【喜志 哲雄】。…
※「我等の生涯の最良の年」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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