扇面画(読み)せんめんが

改訂新版 世界大百科事典 「扇面画」の意味・わかりやすい解説

扇面画 (せんめんが)

扇に描いた絵。扇絵ともいう。日本の扇は,ヒノキ(檜)の薄板を綴じ合わせた檜扇(ひおうぎ)と,紙を折りたたみ竹の骨をつけた蝙蝠扇(かわほりおうぎ)の2種が平安時代以来用いられた。前者は儀礼用で,実際に涼をとるのに用いられたのは夏扇と呼ばれた後者である。平安時代,貴族たちはこれらの扇に競って美しい絵を施し,扇合(おうぎあわせ)なども行われた。現存する檜扇絵の遺例として,厳島神社蔵の《歌絵檜扇》などがあり,蝙蝠扇絵としては,四天王寺に伝わる《扇面法華経冊子》などがある。檜扇は儀礼用としてわずかに存続したのに対し,蝙蝠扇は広く用いられ,そこに描かれる絵も扇面形式を生かした独特の構図法を発展させ,絵画の一形式としてすぐれた遺品を生み出した。室町時代の土佐派による金地濃彩の源氏絵扇面が屛風に貼られて広島県尾道市の浄土寺に所蔵され,南禅寺所蔵の《扇面貼交屛風》には16世紀に遡る狩野派水墨画や金地濃彩の扇面多数がみられる。近世には各派とも多くの扇面を描き遺品も多いが,中でも俵屋宗達尾形光琳をはじめとする琳派の扇面は,さまざまな主題機智に富んだ構図にまとめ,華麗な彩色を賦して扇面画独自の境地を表現しえているものが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「扇面画」の意味・わかりやすい解説

扇面画
せんめんが

扇、または扇形の画面に描いた絵。「扇絵(おうぎえ)」ともいう。日本の扇には檜(ひ)扇と蝙蝠(かわほり)(紙張りの扇)があり、ともに古くから用いられ、中世以後は後者の使用が広がり一般化される。普通それぞれの表面(または裏面にも)に意匠や描絵を施すが、特殊な扇形の画面に独特な構図を案配したこれらの画(扇絵)は、絵画史上一つのジャンルを形成している。また、平安貴族の間では「扇絵合せ」なども行われ、鑑賞画の主要な一領域をなしていた。

 蝙蝠の場合は、扇子として実用に供するものもあるが、単に扇形をかたどった折り畳みのない装飾本位のものも存する。平安時代の遺品には、厳島(いつくしま)神社の『歌絵檜扇』や『小形檜扇』、また四天王(してんのう)寺伝来の『扇面法華経(ほけきょう)』(扇面古写経、国宝)などがある。扇面画は平安末期から室町時代にかけ、日本の特産として大陸へ輸出されたが、室町以降、扇子も輸出商品として重要となり、また国内の需要も増大するにつれ、扇面画も和漢の各種の画題を扱うなど、多彩な発展を遂げる。中世末から近世にかけては屏風(びょうぶ)に並べて貼(は)り合わせ、あるいは散らして貼付(てんぷ)したものが流行し、これらを扇面貼交(はりまぜ)屏風、扇面散(ちらし)屏風などとよぶ。

 また流水の図に扇が流れるように配されたものを扇面流(せんめんながし)図屏風という。南禅寺の扇面貼交屏風は室町時代(16世紀)にさかのぼる。近世には狩野(かのう)派をはじめ各派の画家が扇面画を描いているが、なかでも江戸初期の俵屋宗達(たわらやそうたつ)は、湾曲した扇形画面を十分に活用した扇絵の傑作を多く残している。

[村重 寧]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「扇面画」の意味・わかりやすい解説

扇面画
せんめんが

平安時代以来,竹の骨に紙を張った夏扇 (蝙蝠扇〈かわほりおうぎ〉) ,ひのきの薄板を綴合せた冬扇 (檜扇〈ひおうぎ〉) の両種が貴族たちに愛用されたが,それにはいずれも美しい彩色画が施され,男女ともに画面の美しさや趣向のおもしろさを競った。すなわち扇面画はやまと絵の主要な画面形式の一つであり,扇形という特殊な空間に即した構図上の工夫が試みられた。中世以後は中国の団扇画の影響もあって扇としての実用性を離れ,扇面画を屏風や画帖に張合せて鑑賞することも行われた。

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世界大百科事典(旧版)内の扇面画の言及

【俵屋宗達】より

…京都の上層町衆出身で,唐織で名を得た織屋の蓮池氏かその別家喜多川氏の一族であったと推定される。早く〈俵屋〉を屋号とする絵屋あるいは扇屋を興して主宰したらしく,磯田道冶の仮名草子《竹斎》によれば,元和年間(1615‐24)京都でその扇面画,源氏絵は非常に評判の高いものであった。すなわち弟子を使って工房制作を行い,俵屋絵として売り出したのである。…

※「扇面画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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