手拭(読み)てぬぐい

精選版 日本国語大辞典 「手拭」の意味・読み・例文・類語

て‐ぬぐい‥ぬぐひ【手拭】

  1. 〘 名詞 〙 手や顔、体などをふきぬぐうための木綿の布。一幅(ひとの)の布を鯨尺で三尺(約一一四センチメートル)の長さに切ったもの。古くは長さが一定しないで、五尺(約一八九センチメートル)などのものもある。てのぐい。てのごい。たなごい。たのごい。〔匠材集(1597)〕
    1. [初出の実例]「手拭(テヌグヒ)のさきを結(むすば)ずしてかぶり」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)二)

手拭の語誌

「延喜式‐一四」に衆僧法服として「唾巾(つたのひ)四条」「手巾(たのこひ)四条」と記載されている。「日葡辞書」には「Tenogoi」の項があり、「和漢三才図会‐二八」には「 てのごひ 手巾 和名太乃古比」とある。これらから古くは「タノゴヒ(タナゴヒ)」と呼ばれ、のちに「テノゴイ」「テノグイ」から更に「テヌグイ」に変化したと考えられる。なお「拭」の動詞については、ヌグウは近世に入って見られ、それ以前はノゴウである。


た‐のごい‥のごひ【手拭】

  1. 〘 名詞 〙 ( 手をぬぐうものの意 ) 手や体などをぬぐうのに用いる布。たなごい。てぬぐい。てのごい。
    1. [初出の実例]「銭米穀物を巾(タノコヒ)の上に施し置く。〈類従本訓釈 巾 太乃己比〉」(出典:日本霊異記(810‐824)下)

て‐ふき【手拭】

  1. 〘 名詞 〙 手などをふく布、または紙。手ぬぐいやハンカチ、化粧用の薄紙など。
    1. [初出の実例]「献上物の品々、左に〈略〉一、しんきり 十 一、手ふき 十」(出典:玉露叢(1674)一三)

て‐のごい‥のごひ【手拭】

  1. 〘 名詞 〙てぬぐい(手拭)
    1. [初出の実例]「てのごひして顔隠したる心ちするに」(出典:栄花物語(1028‐92頃)若ばえ)

た‐なごい‥なごひ【手拭】

  1. 〘 名詞 〙たのごい(手拭)色葉字類抄(1177‐81)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「手拭」の意味・わかりやすい解説

手拭
てぬぐい

洗顔、入浴、被(かぶ)り物などに用いる木綿の布で、日本独特のものである。手拭は字のとおり手をぬぐうために用いる布で、古くは手巾と書き「たなごひ」「たのごひ」「てのごひ」と読んだ。江戸時代中期に手拭と書き、「てぬぐい」というようになった。木綿の手拭が用いられる以前は、晒(さらし)麻布が用いられ、長さは不定で、白のまま、または染めたものを切って用いた。晒麻布は近江(おうみ)晒、奈良晒が上品とされた。手巾は古くから用いられていたが、使用頻度が多くなったのは平安時代で、上層階級において儀式用およびその他に用いられ、寸法は一定していなかった。室町時代には汗ふきと手巾とに分けて用いるようになった。汗ふきは一尺二寸(約36センチメートル)、手巾は三尺(約90センチメートル)ぐらいの長さで浅葱(あさぎ)、梅染めなどの色染めのものが用いられた。四尺、五尺の長いものもあり、胴に巻いたり、頭上にのせ笠(かさ)をかぶるなどのほか、目印や指物などにも用いられた。桃山時代には風呂(ふろ)で手巾を頭上にのせるなど、民衆化へと移行、士民の実用に供された。

 江戸時代中期以後、晒麻布にかわって木綿の手拭が、初めは武家に、後期には一般に用いられ、実用、服飾、贈答、玩具(がんぐ)へと使用範囲が広くなった。手拭は普通、幅八寸(24センチメートル)、長さ三尺内外で、長いものは四尺、五尺とあり、入浴、汗ふき、被り物に用いられた。

 被り物としてのかぶり方には、ほおかぶり、大臣かぶり、米屋かぶり、けんかかぶり、あねさんかぶり、巻かぶり、鉢巻などの種類がある。手拭を頭上にかぶるのは、塵除(ちりよ)け、深傷(ふかで)を負わない、寒暑を防ぐ、人目を避けるなどの効用があった。また鉢巻、巻かぶりは頭をきゅっと締めることによって、気を引き締めるのに役だつとともに、額から落ちる汗が目に入らないようにするなどの利点がある。

 生産地は明治の初めごろは、伊勢(いせ)(三重県)、真岡(もおか)(栃木県)、愛知県、島根県、姫路(兵庫県)などであったが、のち今治(いまばり)(愛媛県)、大阪府南部、愛知、埼玉県と移り、近年では知多晒(愛知県)、大阪府南部のものが主として用いられている。染め上げたものには東京手拭、堂島手拭があり、柄合色目は瓶(かめ)のぞき、浅葱、紺、細川などが主で、藍(あい)染めが用いられた。浅葱地に白く文字または模様を染め抜いたもの、あるいは白地に浅葱または紺で染め出したものがある。柄は地白に藍染め、板締めによる芥子(けし)絞り(虱(しらみ)絞り)、豆絞りがあり、絞りには有松絞り、博多絞り、手綱(たづな)絞り、蜘蛛(くも)絞りなどがある。

 明治以後ハンカチーフ、タオルなどの西洋手ふきが使用されるようになってから、日本手拭の使途はやや減る傾向にあり、とくに日常の洗顔、入浴ではタオルに押されている。しかし、祭礼や花見、商店の広告、土産品、記念品などに用いられ、図柄も風景、人物、古典的図柄、粋(いき)な図柄など、染め技術と意匠による多様化がみられ、趣味的、芸術的雰囲気が目だつようになっている。また芸能界での祝儀用として、それぞれの名入り、紋入りなど意匠をこらした手拭を配ることは、現在も広く行われている。このように日本手拭は、今日なお、日本の風物、伝統的芸能、趣味に欠かすことのできないものの一つである。

[藤本やす]

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改訂新版 世界大百科事典 「手拭」の意味・わかりやすい解説

手拭 (てぬぐい)

手や汗をぬぐったり頭にかぶったりする,幅のせまい丈の長い布。《和名抄》には〈手巾〉と記され,〈和名太乃己比(たのごい)〉とある。手ぬぐいは古くは神事や元服など,神聖な儀式で身体や器具を清浄にするためにおもに使われ,上流階級の専用物であった。鎌倉時代ころから実用的なものとなったが,広く使われだすのは戦国時代以後のことで,入浴の際や,汗ふき,手ふき,被り物(かぶりもの)などに使われた。江戸時代になると,手ぬぐいはもっぱら民間や武士の間で使われるようになり,その利用法も単なる実用をこえて装飾,贈答,玩具など多方面に及んだ。この時代にはユテとかタノゴイとして入浴や洗顔の際に用いられたほか,餞別,心付け,年玉,各種の見舞などにも用いられた。また鉢巻,帯,下帯,ほおかむり,頭巾代りにも使われ,職業や状況に応じて大臣かぶり,米屋かぶり,喧嘩かぶり,南瓜かぶり,吹流しかぶり,置き手ぬぐいなど,さまざまなかぶり方がなされるようになった。

 手ぬぐいの寸法は一定せず,古くは3尺,4尺,5尺などがあったが,今日では通常幅34~36cm,長さ94~96cmのものが用いられている。秋田県には近年まで長さ150cm余の紺木綿の手ぬぐいがあり,ナガテヌグイ,ナガタナ,ヒロタナと呼ばれ,農作業や防寒に用いていた。生地は古くは麻がおもに使われ,江戸時代になると改まった機会以外や下層の者は多く木綿を用い,播州木綿がもっぱら使われた。染色や模様も幕末には木綿の普及とあいまって急激に多種多様となり,手ぬぐい染の技法が発達した。タオルやハンカチといった欧米の手ふき布の流入で,手ぬぐいの用途は若干減じたものの,今日でも実用品としてのほか記念品や贈答用に使われている。

 手ぬぐいは民俗芸能や神事における被り物,変身の手段としても重要な役割を果たしている。とくに女性の場合は,神事などハレの機会に神や人を敬う作法として髪を手ぬぐいなどの布で覆う風習があった。若水くみに主婦が新しい手ぬぐいをかぶったり,農神がおそれぬように早乙女が手ぬぐいをかぶって田植をする風習はそのよい例であり,土地によっては人に挨拶する際にわざわざ手ぬぐいをかぶる風習も見られる。また《宝手拭》という昔話では,手ぬぐいは呪力をもった布として語られており,人が別のものに変身したり,忌の状態にあることを表現する不思議な力をもった呪物ともされていた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手拭」の意味・わかりやすい解説

手拭
てぬぐい

手やからだを拭う布。古く「たのごい」の名がみえる。現在は,並幅の木綿布に柄を染め (手拭染め) ,90cmぐらいの長さに切る。江戸時代中期まではさらし麻布の素地が用いられ,長さは一定せず,五尺 (約 1.5m) ,四尺手拭もあった。農作業その他の労働のとき,またの日や来客を迎えるときなどのかぶりものとしても古くから使われ,多様なかぶり方がある。そのほか,はちまき,襟かけなどの使い方もある。現在ではタオルの使用がふえ,手拭本来の使われ方は少くなった。なお,長手拭 (ながてのごい) ,五尺手拭は九州北部では兵児帯 (へこおび) ,しごきを意味し,東北地方では子負帯のことをいった。

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世界大百科事典(旧版)内の手拭の言及

【被り物】より

…被り物は身分や役割のはっきりしている社会,また文化の爛熟期に発達している。
【日本】
 帽子頭巾手ぬぐいなどの種類があり,材料としては絹,麻,木綿,ラシャ,紗,紙,藺(い),菅(すげ)などが用いられている。時代,身分,地域により独自の形態や用途がみられる。…

【仕事着】より

…女性も水田作業には男子同様の下半衣を用いている。被り物(かぶりもの)は,手ぬぐいで男子は頰かぶりが多く,女性は姉さんかぶりをした。関東では2本用いた。…

【ナプキン】より

…食事の際に,衣服が汚れないようひざの上に広げたり,汚れた口元や指先をふくために用いる布。麻製を最上とする。食事を手づかみで口にした時代の手ふきが発展したものである。ギリシア時代は,布が貴重品であったため,こね粉のかたまりを用い,手をぬぐって土間に投げ捨てたものを家禽(かきん)や犬が食べたという。ローマ時代にはマッパmappaと呼ばれる布が用いられるようになる。中世にはテーブルクロスが手ふきの役割を兼ねていた。…

【晴着】より

…今では外出着の意味に用いるが,本来はハレの日に着る着物で,礼装,式服,正装,盛装,忌衣などの意味に用いる。祭日や冠婚葬祭,誕生から成人式までのたびたびの祝日や年祝の日は,ふだんとは違うハレの日で,その日に着る着物が晴着である。ハレの日に対して普通の日をケ(褻)といったが,この語は早くすたれて,日常の着物は常着,ふだん着,野良着などと呼んでいる。地方によっては,節日に着る着物という意味で,晴着を〈せつご〉(東北地方),〈盆ご〉〈正月ご〉〈祭ご〉(和歌山,兵庫,岡山,香川),また生児の〈宮まいりご〉(岡山),娘の〈かねつけご〉(岐阜),嫁入りの〈よめりご〉(岡山),年祝の〈やくご〉〈祝いご〉(香川,鳥取,岡山)ともいった。…

※「手拭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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