日本の遊戯の一つ。〈投扇〉〈おうぎなげ〉〈かなめがえし〉などともいう。中国渡来の投壺(とうこ)を模して,江戸時代中期に創案されたもの。1773年(安永2)の投扇庵好之撰,泉花堂三蝶述《投扇式》には同年6月,投楽散人が昼寝のとき木枕の上にとまった蝶を目がけて扇を投げたことに始まるとある。木製の台の上に,穴あき銭12個を金紙,銀紙に包んで水引で結び蝶の形に仕上げた的を置き,台から1~2m離れたところに座り,開いた扇の要(かなめ)を親指を上にしてつまみ,ねらいを定めて投げ,台から的を落とす。落ちた的と扇がどんな位置にあるかによって,百人一首にちなんだ〈筑羽根〉〈雲がくれ〉など18の名称と点数が決まっている。12投して合計点を競う。のちに《源氏物語》五十四帖にちなんだ54の名称と点数に改められ,たとえば,的と扇が離れて落ちると〈花ちる里〉で無点,的が落ちて立ち,扇が台上にのると〈桐壺〉で75点というようになった。宴席の興として盛んになり,文化・文政期(1804-30)には一般家庭でも行われるようになった。賭事にも利用され,《武江年表》には,〈文政5年(1822)投扇の戯世に行われしが,辻々に見世をかまへ賭をなして,甲乙を争ひしかば八月にいりて停らる〉とある。明治中期まで人気のあった遊びで,その後も一部で正月などにおこなわれてきたが,第2次大戦後はほとんど見られなくなった。
執筆者:半澤 敏郎
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江戸時代後半、京坂より流行した酒席の遊戯。緋毛氈(ひもうせん)を敷き、小銭を錦(にしき)で包み、水引で結んだ蝶(ちょう)形の的を枕(まくら)形の台上にのせ、1メートルほど離れた位置から、開いた扇子を投げる。的の落ちぐあいによって酒杯を重ねた。初めは百人一首の歌に寄せて点数を数えたが、のちに『源氏物語』53帖(じょう)の巻名に変えた。街頭でも賭(か)け事として流行したため、禁止令が出たこともある。江戸末期には、縦長の桐管(とうかん)を的台とし、的も縮緬張(ちりめんば)りの小形扇子の両端に鈴をつけた。遊具、点付け法などに作法がある。
[猪熊兼勝]
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