副腎皮質ホルモン剤(読み)フクジンヒシツホルモンザイステロイドホルモンザイ

病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版 「副腎皮質ホルモン剤」の解説

副腎皮質ホルモン剤(ステロイド・ホルモン剤)

製品名
《コルチゾン酢酸エステル製剤》
コートン(日医工)
《デキサメタゾン製剤》
デカドロン(日医工)
デカドロンエリキシル(日医工)
デキサメサゾンエリキシル(日新製薬)
《トリアムシノロン製剤》
レダコート(アルフレッサファーマ)
《ヒドロコルチゾン製剤》
コートリル(ファイザー
《フルドロコルチゾン酢酸エステル製剤》
フロリネフ(アスペンジャパン)
《プレドニゾロン製剤》
プレドニゾロン(旭化成ファーマ、杏林製薬、キョーリンリメディオ、コーアイセイ、武田薬品工業、武田テバ薬品、東和薬品、マイラン製薬、ファイザー、陽進堂、ニプロ)
プレドニン(塩野義製薬
《ベタメタゾン製剤》
ベタメタゾン(沢井製薬)
リネステロン(扶桑薬品工業)
リンデロン(塩野義製薬)
《ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩製剤》
エンペラシン(沢井製薬)
サクコルチン(日医工)
セレスターナ(小林化工、ファイザー)
セレスタミン(高田製薬)
ヒスタブロック(共和薬品工業)
プラデスミン(武田テバファーマ、武田薬品工業)
ベタセレミン(東和薬品)
《メチルプレドニゾロン製剤》
メドロール(ファイザー)

 現在、炎症を抑える最も強力な作用をもつ薬で、ほかにも多くの作用があることから、さまざまな病気や症状の治療に使われています。


 しかし、作用が強力なため、大量に使用したり、長期間使用すると、重大な副作用を招く可能性があります。このため、副腎皮質ホルモン剤は、ほかの薬では効果のない重症の場合に使用されるケースがほとんどです。その場合でも、あくまでも病気の症状を一時的に抑える目的で使われます。


 ほかには、副腎皮質ホルモンの欠乏によっておこる病気(アジソン病下垂体機能低下症急性副腎不全など)に対して副腎皮質ホルモンを補う目的で使われますが、使用目的のほとんどは炎症を抑えるためです。


 副腎皮質ホルモンとは、副腎という臓器の外側の部分(皮質)から分泌されるホルモンで、ステロイドホルモンとも呼ばれ、生命や健康を維持するためには欠かせない物質です。副腎皮質ホルモンには、炎症をおこす原因物質にはたらきかけて強力に炎症を抑える抗炎症作用、血管の壁をち密にして出血を防ぐ止血作用、病気や外傷など人体に加わったストレスに対する抵抗力を増す作用などがあります。


 こうした副腎皮質ホルモンのはたらきを化学的に合成した薬が、副腎皮質ホルモン剤です。1946年にコルチゾン酢酸エステルが開発されて以来、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン酢酸エステル、プレドニゾロン、トリアムシノロンメチルプレドニゾロンデキサメタゾン、ベタメタゾン、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル〔皮膚科用剤〕の順に新しい薬がつくられ、そのたびごとに効力が増強される一方、副作用は軽減されてきました。


 現在よく使用されているのは、プレドニゾロンとベタメタゾンの製剤です。


 副腎皮質ホルモン剤には幅広い作用があることから、以下に述べるようにさまざまな病気や症状の治療に使用されています。


①副腎皮質ホルモン剤の最大の特徴は、強力な抗炎症作用(炎症を抑える作用)です。各種の炎症の治療に用いられますが、作用が強力な反面、副作用も避けられないため、ほかの薬ではどうしても抑えられない炎症、確実に抑えないと生命にかかわるといった急を要する炎症などに用いられるのが原則です。


②血管壁をち密にして出血を防ぐ止血作用があるので、ほかの薬では止められない出血の止血剤としても使用されます。


③体の抵抗力を増大させ、体に加わったストレスをはねのける蘇生作用があるので、大けが・手術・大出血などでショック状態におちいったときの蘇生剤としても使用されます。


 また、手術などは体にとって大きなストレスですから、体の抵抗力をつけることを目的として手術の前後に使用されます。


④体に備わっている免疫作用を低下させる免疫抑制作用があるので、臓器移植時に拒否反応を抑える目的で使用することもあります。


⑤血液中の好酸球という白血球の一種を減少させる抗好酸球作用があるので、好酸球が異常に増えてしまう白血病の治療剤としても使用されます。


⑥副腎皮質ホルモンが欠乏しているためにおこる病気(アジソン病、下垂体機能低下症、急性副腎不全など)に対して、副腎皮質ホルモンを補う目的で使用します。


⑦以下の病気で、ほかの薬では効果がないときに使用します。


内科小児科の病気


 リウマチ疾患・全身性エリテマトーデスなどの膠原病こうげんびょう、気管支喘息ぜんそく・花粉症・アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患、紫斑病しはんびょう潰瘍性かいようせい大腸炎、慢性肝炎、ネフローゼ症候群、重症の感染症、重症の低血圧症、薬物中毒、血清病など。また、デキサメタゾン製剤では、抗ガン剤使用に伴う吐き気や嘔吐おうとなど。


整形外科の病気


 関節リウマチ、骨・関節炎、五十肩、坐骨ざこつ神経痛など。


産婦人科の病気


 つわり、妊娠高血圧症候群、外陰瘙痒症がいいんそうようしょうなど。


泌尿器科の病気


 前立腺ぜんりつせんガン、膀胱炎ぼうこうえんなど。


皮膚科の病気


 湿疹しっしん(皮膚炎)、じんましん、皮膚瘙痒症、小児ストロフルス乾癬かんせん紅皮症こうひしょう角化症かくかしょう、皮膚筋炎、強皮症、脱毛症、火傷(やけど)、虫刺されなど。


眼科の病気


 結膜炎、角膜炎、眼瞼炎がんけんえんなど。


耳鼻科の病気


 中耳炎、メニエール病など。


歯科の病気


 歯周病(歯槽膿漏しそうのうろう)など。


重大な副作用 誘発感染症、感染症の悪化、続発性副腎皮質機能不全、糖尿病、急性副腎不全、消化性潰瘍、膵炎、精神変調、うつ状態、けいれん、錯乱、骨粗鬆症、ミオパシー、大腿骨や上腕骨の骨頭無菌性壊死、緑内障、後嚢白内障、血栓症、再生不良性貧血、無顆粒球症が、プレドニゾロン製剤メチルプレドニゾロン製剤で心筋梗塞、脳梗塞、動脈瘤、腱断裂が、プレドニゾロン製剤で硬膜外脂肪腫が、メチルプレドニゾロン製剤で心破裂、うっ血性心不全、食道炎、カポジ肉腫アナフィラキシーが、ベタメタゾン・d-クロルフェニラミンマレイン酸塩製剤で子どもの発育抑制がおこることがあります。症状が現れたときには服用を中止し、すぐ医師に報告してください。


 とくに副腎皮質ホルモン剤を長期にわたって、あるいは大量に使用していると、むくみやムーン・フェイス(満月様顔貌まんげつようがんぼう)が現れたり、糖尿病を悪化させたり、感染症にかかりやすくなったり、緑内障、白内障、胃・十二指腸潰瘍をおこしたりします。


その他の副作用 薬によって、発疹ほっしん、網膜障害、口の渇き、食欲の増加、多幸感(わけもないのに楽しい感じになる)、不眠、睡眠障害、月経異常、浮腫、腹痛、下痢、血圧上昇、倦怠感、体重増加、胃・腹部・背中の痛み、めまい、発熱、食欲不振、筋肉・関節の痛み、吐き気・嘔吐おうと、呼吸促進、しゃっくりなどが現れることがあります。以上のような症状が現れたときは、医師に相談してください。


 副作用を未然に防ぐために、長期間(または大量に)使用するときには、事前に、あるいは服用中定期的に、体重測定・胃の検査・尿検査・血液検査(血糖や電解質)・血圧などの検査が指示されるので、必ず受けるようにしてください。


①錠剤、散剤、シロップ剤、吸入剤、坐剤ざざい坐剤の使用法〕など、いろいろな剤型があり、病気や症状に応じて用いられます。服用は食後が原則ですが、1日の回数、1回の使用量は、医師が患者の症状や病状をみながら、重大な副作用をおこさないように適切な判断をくだすので、指示を正しく守ってください。


②副腎皮質ホルモン剤は、前述したような重大な副作用をおこすおそれがあるので、指示された分量、回数、期間を厳守し、次の注意事項を守ってください。


*医師から指示された検査は、必ず受けるようにします。


*指示された服用法を守り、かってに中止したり、増量したりしないこと。


*発熱・化膿かのう・尿の混濁・せき・空腹時の胃痛・胸やけ・口の渇き・多尿・体重減少などの症状が現れたときには、必ず医師に報告してください。


*患者本人は気づかないことが多いのですが、わけもないのにふさぎこんだり、やたらと楽しい感じになることがあります。こういった精神症状は副作用のことがあるので、家族が患者の精神状態をよく観察し、異変を感じたときは医師に報告しましょう。


③服用中の飲酒は、薬の作用に影響したり、副作用がおこりやすくなります。服用中は、禁酒を守りましょう。


④副腎皮質ホルモンには、体内での蛋白質たんぱくしつの合成を阻害するはたらきや、ナトリウムを蓄えるはたらきがあります。副腎皮質ホルモン剤を服用しているときは、蛋白質が豊富な食事と、減塩食をこころがけてください。


 また、ナトリウムを蓄える一方で、カリウムを排泄はいせつしすぎてしまうので、カリウムの豊富な果物や野菜(バナナ、トマト、セロリなど)を適宜とるようにしましょう。


⑤結核・単純疱疹ほうしん性角膜炎などの感染症、気分障害などの精神疾患、消化性潰瘍、白内障、緑内障、高血圧症、急性心筋梗塞、最近行った内臓の手術創のある人、腎臓病などのむくみをおこす病気、前立腺肥大など下部尿路に閉塞性のある人、コントロール不良の糖尿病の人(デキサメタゾン製剤の場合)、血栓症の人や、過去にあった人では、病状を悪化させることがあるので使用できません。このような人は、あらかじめ医師に報告してください。


化学療法剤を用いて治療中の感染症、糖尿病、骨粗鬆症こつそそうしょう、腎不全、甲状腺こうじょうせん機能低下症、肝硬変、脂肪肝、脂肪塞栓症重症筋無力症などの病気がある人や過去にあった人、高齢者には、副作用防止のため使用量を減らすといった注意が必要です。このような人は、あらかじめ医師に報告してください。


⑦胎児や乳児に悪影響を与えることもある薬なので、妊婦、現在妊娠する可能性のある人、母乳で授乳中の人は、あらかじめ医師に報告してください。


⑧バルビツール酸系の催眠剤、解熱鎮痛剤、抗凝血剤、血糖降下剤、利尿剤などの薬を併用すると、薬の効果が変わったり、副作用をおこしたりします。以上の薬を服用している人は、あらかじめ医師に報告してください。メチルプレドニゾロン製剤では、生ワクチンまたは弱毒生ワクチンとの併用はできません。デキサメタゾン製剤では、ジスルフィラム製剤やシアナミド製剤との併用はできません。


⑨副腎皮質ホルモン剤を服用中にワクチンの予防接種をしても効果がなく、神経障害などをおこすこともあります。予防接種は避けてください。

出典 病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版について 情報

百科事典マイペディア 「副腎皮質ホルモン剤」の意味・わかりやすい解説

副腎皮質ホルモン剤【ふくじんひしつホルモンざい】

慢性副腎皮質不全症(アディソン病)治療に使用するほか,このホルモンの多様な効果が医薬として利用される。たとえば慢性関節リウマチなどの膠原(こうげん)病気管支喘息や薬物アレルギーなどのアレルギー疾患,自己免疫溶血性貧血などの血液疾患,潰瘍(かいよう)性大腸炎などの消化器疾患,亜急性甲状腺炎などの内分泌疾患などである。また,臓器移植時の拒絶反応抑制剤(免疫抑制剤)としても使われる。薬剤の形態は,静脈注射,点滴,内服,外用と多種類。長期使用の場合も多く,副作用が問題となっており,使用に当たってはとくに注意を要する。
→関連項目維持療法クローン病喉頭ポリープシェーグレン症候群脂漏性湿疹蕁麻疹スモン(SMON)脊髄炎接触皮膚炎全身性エリテマトーデス象皮病そばかす苔癬大腸炎高安病多発性筋炎椎間板ヘルニアテニス肘ネフローゼ脳炎白血病粃糠疹日焼け免疫不全症リウマチ熱

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「副腎皮質ホルモン剤」の意味・わかりやすい解説

副腎皮質ホルモン剤
ふくじんひしつほるもんざい

副腎皮質ステロイド剤ともいう。副腎皮質から分泌されるホルモン(副腎皮質ホルモン)には、鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドの2種がある。鉱質コルチコイドにはアルドステロンとデオキシコルチコステロンがあり、糖質コルチコイドのおもなものはコルチゾンとコルチゾール(ヒドロコルチゾン)である。これらを製剤化したものが副腎皮質ホルモン剤である。初めにデオキシコルチコステロンが製品化されたが、1949年にコルチゾンがリウマチ様関節炎に応用され劇的効果が認められてからは、副腎皮質ホルモン剤の主流は糖質コルチコイドとなり、抗炎症剤として発展してきた。

 副腎皮質より抽出されたコルチゾンとコルチゾールの化学構造の究明によって合成が可能となり、1950年代にはコルチゾンの作用の増強を目標として多くのコルチゾンおよびコルチゾール誘導体が合成された。糖質コルチコイドの作用は糖の代謝に関係し、糖の新生を促進し末梢(まっしょう)での糖の利用を抑制する。また、タンパク質の分解を促進し、同化ないし合成を阻害する。糖質コルチコイドのもっとも重要な作用は抗炎症作用と抗アレルギー作用であり、抗炎症作用の強力なものが次々と合成された。プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、パラメタゾン、ベタメタゾンのほか、おもに外用だけに使われるものとしてフルメタゾン、フルオメトロン、フルドロキシコルチド、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルオシノロンアセトニド、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾンなどがある。

 副腎皮質ホルモン剤は抗炎症剤ばかりでなく、免疫抑制剤として、また抗悪性腫瘍(しゅよう)剤(制癌(がん)剤)として白血病の治療のほか、ネフローゼ症候群やショックの治療などに内服および注射剤として応用される。外用では軟膏(なんこう)やクリームのほか、貼付(ちょうふ)剤(テープ)として、また眼科用では点眼液として使われる。効果も大であるが副作用も著しい。長期大量療法において、とくに重篤な副作用が問題となる。もっとも多いのが感染症の合併で、ついで消化性潰瘍(かいよう)が多くみられる。そのほか、糖尿病や急性副腎不全などもおこし、満月様顔貌(がんぼう)(顔が丸くなる)がみられる。

[幸保文治]

『柏崎禎夫編『副腎皮質ステロイド剤の適応と使い方のコツ』(1990・医薬ジャーナル社)』『市川陽一編『感染症における副腎皮質ステロイド薬適正使用指針』(2001・医薬ジャーナル社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の副腎皮質ホルモン剤の言及

【副腎皮質ホルモン】より

…副腎腺腫から多量のアルドステロンが分泌されると,原発性アルドステロン症となる。【関原 久彦】
[副腎皮質ホルモン剤]
 ホルモン剤としては,一般に糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドをさす。副腎皮質ホルモン剤は,副腎皮質機能低下症の補充療法に用いられるが,抗炎症作用や抗アレルギー作用に着目して広領域の臨床に応用されるのがむしろ一般的である。…

※「副腎皮質ホルモン剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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