言語の類型論的分類の一つである,単語の構成という形態論的観点からの分類に基づくタイプの一つ。このタイプの言語においては,中心となる語幹に,目的語,補語や副詞的要素,あるいはさまざまな文法的関係をあらわす要素が結合して一つの単語を形成する。したがって1単語が数多くの形態素から成ることになり,他のタイプの言語にそれを翻訳した場合には,文のかたちになる場合もある。
たとえば旧アジア諸語(旧シベリア諸語)に属する東北シベリアのチュクチ語では,〈彼らは網をかけた。〉は,koprantəvat'atと1単語であらわされる。これはkopra-〈網〉,ntəvat-〈かける〉,-'at〈三人称複数主語・過去〉の三つの形態素からなり,kopra-は抱合されない場合にはkupre-という形であらわれる。これは目的語が抱合された例であるが,副詞的要素抱合の例として,təmajŋəvetavərkən〈私は大声で話している。〉があげられる。これはtə-〈一人称単数主語〉,vetav-〈話す〉,-ərkən〈現在〉に,majŋə-〈大声で〉が抱合されている形である。このようにいくつかの形態素連続が一つの単語を形成しているわけであるが,そこではある種の音声的特徴(母音調和など)が,まとまりを与える役割を果たしているのである。このような特徴をもつ言語は,そのほかにアメリカ・インディアンの諸言語のなかにも見られる。
なお,抱合語という名称と並んで,輯合(しゆうごう)語という呼び方もしばしばなされる。ただし,両者をまったく同じ意味に用いる場合と,多数の形態素が一つのまとまりをつくっているという輯合性の中に,抱合という過程を伴うものとそうでないものとを区別して考える立場とがある。
→言語類型論
執筆者:柘植 洋一
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アイヌ語にみられるように、一つの単語のなかに別のことばを入れて抱合するような構造の言語をいう。しかし、これは、エスキモー語のように、文全体をあたかも一語のように複合成してしまう構造の一種と考えられるので、いまでは複合成語polysynthetic language(輯合(しゅうごう)語とも訳される)という言い方のほうが一般的になっている。その一例をあげれば、北米のアメリカ・インディアンのメノミニー人の話す言語(アルゴンキン諸語の一つ)では、語根akua(……から切り離すこと)に接尾辞-epi-(液体)、-en-(手の動作)、-am(第三人称行為者)がつくと、全体がakuapi:nam(彼は、それから水をとる)のように、あたかも一語であるかのごとくまとまって、一つの文をなす。したがって、それはある意味では、屈折語にみられる単語の曲用(語形変化)が、単に性や数や人称などにとどまらず、どんどん広がっていって、文全体にまで及んだものであるとみなしうる。つまり、一種の複合成と考えられるわけである。しかし、その点から、逆にほかの類型の言語を見直してみると、日本語における文節全体にわたるアクセント核の縮約、中国語の厦門(アモイ)方言にみられる文節全体にわたる声調(音節音調)の改組のように、程度の差こそあれ、似たような原理は他にみられないわけではない。
[橋本萬太郎]
『泉井久之助著『言語の構造』(1967・紀伊國屋書店)』▽『Y・R・チャオ著、橋本萬太郎訳『言語学入門――言語と記号システム』(1980・岩波書店)』▽『宮岡伯人著『エスキモーの言語と文化』(1978・弘文堂)』
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…〈私は君を愛する〉という意味の中国語文〈我愛你〉では〈愛〉は〈愛する〉という動詞で,その行為の主体〈我〉とその対象〈你〉はおのおのそれを示す標識は何ももたず,その関係は語順によってのみ示されているのである。
[形態論に基づく言語の分類]
この分類は19世紀のW.フンボルトらにさかのぼるもので,語構成を基準にすべての言語を孤立語,膠着語,屈折語の三つ,あるいはさらに抱合語を加えた四つのタイプに分けようというものである。言語の分類法として一般に広く流布するところとなったが,この分類の仕方はあくまでも語の構造という一面のみに着目したものであり,決して包括的なものではない。…
※「抱合語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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